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甘い罠

 マサオの父は庭に殺虫剤を撒いていた。


「父さん、夏休みにクワガタの観察日記をやろうと思ってるんだけどクワガタってどこにいるの?」


 庭でひと仕事している父にマサオは話しかけた。


「ちょっと遠くの山まで行って木に蜜を塗って罠をしかけないと捕まえるのは難しいかもな…………」


 難色を示した父にマサオが肩を落としていると、家の塀の向こう側から声がした。


「盗み聞きをするつもりじゃなかったんじゃがの、クワガタを捕まえるなら良い方法があるぞ」


 たまたま買い物帰りに通りすがったドクターLはそう言った。


「本当ですか?しかし、そんな都合のいい話はないでしょう。きっと高額な費用が必要なのでは……」


「まあ、本来ならそうなるじゃろうな」


 やはりとマサオの父はマサオのように肩を落とした。親子と言うものは似せようとしなくても同じ仕草をしてしまうものである。


「…………が、今回は特別にタダでええぞぃ。なぜならば、ちょうど試作品の実用化に向けてテストを行おうと思ってたからじゃ」


 もちろん、実験結果の報告はしてもらうのが条件だとドクターは付け加えた。それならマサオに夏休みの宿題の一環として書かせましょうとマサオの父は快諾した。ドクターはマサオの父の悪意を感じたが敢えて何も言わなかった。


「…………ほれ。待たせたの。これが確実にクワガタが集まってくる蜜じゃ。論より証拠、さっそく今夜そこの庭の木にこれを全部塗っておいておくのじゃ。翌朝にはデカイクワガタがゾロゾロ集まっていてびっくりするぞ!」


「ありがとうございます。なんとお礼を言って良いのやら」


「礼なら売れたクワガタでしてくれたらええ」


「どう言う意味でしょうか」


「なんじゃ?知らんのかい。オオクワガタはまだ繁殖方法も解明されておらず希少価値が高くての。大きいキレイなオオクワガタの()()()なんかは1000万くらいで売れるらしいぞ」


「いっ!1000万⁉︎

 ただのクワガタがそんな大金で売れるんですか?」


「ま、状態にもよるがの。足が欠けてたり羽が完全に閉じなかったりアゴが欠けていたりすると値段はガクンと下がるぞ」


「そ、そうなんですね。まあ、そんなうまい話はないと思いますが利益が出たらお裾分けします」


「ふむ、お互い明日が楽しみじゃのぅ」


 その日の夕方に庭の1番大きな木にマサオ親子はたっぷりとドクターからもらった蜜を塗りつけた。


「お父さん、もし見たこともないくらい綺麗で大きなクワガタが採れたらどうする?」


「そりゃドクターには内緒で2番目に大きくて綺麗だったクワガタを売ったお金でお礼をするさ、まあそんなに都合の良い話なんか世の中にはないけどな」


 マサオの父はそう言いながらもオオクワガタの相場を調べまくっては売れてお金を手に入れた時の事を考えてニヤニヤしているのはマサオが見ても理解できた。


 翌朝。2人は朝早くから庭の木を見に行くとそこには見たこともないくらい大きなクワガタが2匹いた。


「と、父さん本当にオオクワガタがいるよ」

「焦るなマサオ。静かにしてないと逃げちゃうだろ。しっかり捕まえるまでは安心できないぞ」


 マサオの父の頭の中はお金のことでいっぱいであった。売ったらいくらするのだろう10センチ以上ありそうだからもしかすると2000万以上するのかもしれない。そう思うとマサオの父が慎重になるのは無理もなかった。


「よし、気づかれずに近くまでこれたな。ゆっくり網をかぶせるんだぞマサオ」


「父さん声が大きいよ。そんなことわかってるから静かにして」


 シュンとするマサオの父を尻目にマサオはそっとオオクワガタに網をかぶせた。


「やったー」


 2人で大喜びすると、タイミングよくドクターLが様子を見にきた。


「ドクターこれ見てくださいよ。とんでもなく大きいクワガタのつがいです。いくらで売れますかね」


「こりゃたまげた。とんでもない値段がつくはずじゃが、このオオクワガタは死んでるから1円にもならんぞ」


「そんなバカな、なんで死んでるんですか。意味がわかりません」


 マサオが思い出したかのように言った。


「そういえば、昨日父さん物凄い強力な殺虫剤を庭にまいてたよね……」


「あ…………」


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