完全殺人
探偵Mはとある奇妙な事件現場に来ていた。
「もう一度、 現場検証しながら状況を整理していきましょう」
そう言うと探偵Mは静かに語りだした。
「被害者の男性はZ夫さん45歳、身長180センチ、体重82キロ、会社員、趣味は動画投稿サイトの閲覧と投稿……」
「死亡推定時刻は本日16時頃と思われる、死因はアゴを強打したことにより頚椎を骨折し床に倒れ呼吸困難に陥り窒息死したと……」
「犯行現場は被害者宅のリビング、机の上に被害者の携帯電話があり机の下に昼食と見られるカレーが床に散乱している…………か」
居合わせた警官が付け足した。
「ちなみに被害者の家のすべてのドアと窓の鍵は閉まっていました。いわゆる完全な密室です。これは他殺の線で考えるより事故の線で調べた方が良いのでは?」
「これほどまでの威力でアゴを殴打されているということは、かなり恨みを持って殴ったに違いありません。確実に他殺でしょう、問題は密室のトリックと凶器の発見です。それさえわかればこの事件は今日にでも解決します」
「さすが探偵だ。頼もしい。」
「まずは凶器のトリックですが、アゴにクリーンヒットしてるところから拳から拳より大きいはずです。氷や砂を入れた袋などが候補にあがります。」
「なるほどなるほど」
「次に密室のトリックですが、今回のケースのような場合は殺害後に密室を作りあげたと考える方が自然です。恐らく合鍵もしくは窓に釣り糸などの仕掛けで鍵を外から閉めたのでしょう。」
「素晴らしい推察力だ」
「残りは犯人の候補ですが、被害者に恨みを持っている人はいますか?」
「今のところそのような情報は掴んでおりません」
「では知人関係の洗い出しをお願いします、あとは鑑識の結果でトリックも見当がつくはずです」
探偵Mはそう言うと、椅子に座って携帯を触りながら休憩し始めた。
「ん?凄い勢いで話題になっている動画があるぞ。見てみよう」
探偵が動画を再生してみるとそこにはZ夫さんが映っていた。友人からこのカレーを食べてる動画を配信して欲しいと言われて生配信している動画だった。Z夫さんはカレーを食べるとこんなもん食えるかと激怒してカレーを床に叩きつけた。どうやらカレーの匂いのするうんこだったらしい。カンカンになったZ夫さんは友人に文句を言いながら椅子から立ち上がりドスドス走り出そうとした瞬間、床に撒き散らしカレーで足を思い切り滑らして机の角にアゴがクリーンヒットして倒れた。
「………。」
探偵Mは警察に一言呟いた。
「事件は解決しました。被害者の友人の完全犯罪です」
Z夫さんの携帯はまだ生配信中で探偵Mのセリフは世界中に配信されていた。彼が能無し探偵Mとしてインターネットで炎上したのはいうまでもない。