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そして

 翌週には、私がマクニール家を訪れた。

 1週間、色々な想像をしてめいっぱい緊張していたのだが、実際にルパート様のご両親にお会いしてしまえばすべて杞憂だった。


 レイラ叔母様の言葉どおり、私は大歓迎された。といっても、大騒ぎで歓待されたわけではない。

 そこはさすがに侯爵夫妻、表面的には穏やかな笑顔で迎えてくださった。

 ただ、その笑顔が消えることがまったくなかった。それも無理に笑っているのではなく、笑いが抑えられないという感じ。


「こんなに綺麗な令嬢が、ルパートのところに来てくれるとはな」


「本当に良かったわ。ルパートをどうぞよろしく」


「地味な子でも、やっぱりわかってくれる人はいるものね」


「ま、私たちのおかげではない?」


「それもそうね」


 すでに他家に嫁がれているふたりのお姉様まで揃って、皆様でひたすら私を褒めてくださったり、喜びを口にしたりしていらっしゃった。

 私が少々戸惑っていると、ルパート様がそっと囁いた。


「すみません。両親も姉たちもあなたが来るのを本当に心待ちにしていたようで、すっかり浮かれてしまっていて」


「いいえ、私を受け入れていただけたなら嬉しいです」


 それにきっと、息子あるいは弟が辛い目にあって傷ついた姿を見てきたご家族にとって、ルパート様の結婚はこれ以上ない喜びであるに違いない。


「アメリア嬢が受け入れられない家など、ないと思いますが」


 ルパート様の言葉に、私は少し口を尖らせてしまった。


「私は、ルパート様のご家族に受け入れていただきたかったのです」


「……失言でした。私も同じ気持ちだったのに」


「ちょっと、何をふたりだけでコソコソ話しているのよ」


「今日は私たちがアメリア嬢と仲良くなるための場なんだから、ルパートは引っ込んでなさい」


「そんな今思いついたことを規定事項のように言わないでください」


「あら、アメリア嬢の前だと強気なのね」


 ご家族の中にいるルパート様は、今まで私が見てきたルパート様より少し幼く見えて新鮮だった。

 ルパート様はご嫡男だけど末っ子だから、我が家におけるメイのような存在なのかもしれない。そう考えると、何とも微笑ましかった。




 正式な婚約はまだ先だがお互いの両親の許可を得られたので、今までより多くルパート様と会えるようになった。

 休日にルパート様が我が家に来てくださったり、私がマクニール家を訪ねたり、あるいはふたりでオペラやコンサートを観に行ったり。

 もちろんレイラ叔母様との約束どおり、ウォルフォード家にも正式にふたりで挨拶に伺った。


 さらに、ルパート様のエスコートで夜会に参加することもお父様は許してくださった。

 私たちはその夜会で堂々とダンスを3曲続けて踊り、近く婚約することを社交界に公表したのだった。




 当然、翌日私が学園に行くと、待ち構えていた同級生たちの質問責めに合った。


「メリー様、マクニール侯爵子息とご婚約なさるというのは本当なのですか?」


 予想していたことなので、私は落ち着いて微笑んだ。


「ええ。卒業式の前には正式に婚約するわ」


「それなら卒業パーティーのエスコートはやはりマクニール侯爵子息がなさるのですね?」


「もちろん」


 ルパート様はご自身の時の卒業パーティーには出席できなかったそうなので、エスコートをお願いすることは少し躊躇ったのだが、ルパート様は快諾してくださった。「アシュリーにだって、もうその役目を譲るつもりはありません」とも仰っていた。


「ご結婚はいつなのですか?」


「まだ決まっていないけど、来シーズンの終わり頃になるかしら」


「ご婚約の披露は休暇明けに?」


「来季のマクニール家の夜会になる予定よ」


「それにしても、まさかコーウェン公爵がマクニール侯爵子息をメリー様の婚約者に選ばれるなんて驚きましたわ」


 数人が同意するように頷いた。どうやら多くがあの噂を知っていたようだ。

 わざわざ私にそれを教えてくれたふたりも、素知らぬ顔で私を囲む輪の中に加わっていた。


「あら、ルパート様を選んだのは私自身なのだけれど、なぜ驚くのかしら?」


 私は笑顔のまま首を傾げてみせた。


「メリー様が選んだってどういう意味ですか?」


「どうもこうも言葉どおりの意味だけど。王宮の夜会でルパート様に一目惚れして、叔父と叔母にお願いして仲立ちをしていただいて、どうにか婚約まで漕ぎ着けることができたの」


 後から思い返せば、あれは一目惚れ以外の何物でもなかったとわかる。


「一目惚れ……」


「でも、公爵が結婚を許可されたのなら、やはりあの噂は真っ赤な嘘だったのですね」


「どんな噂か知りませんが、ルパート様は優しくて、真面目で、頼りになって、私の家族のことも考えてくださって。あんな素敵な方と出会えた私は本当に幸運です」


 ルパート様を想えば自然と表情が緩んでしまったが、それをあえて隠したりせず、幸せいっぱいなところを皆に見せつけた。




 婚約してもすぐに休暇が来てしまうので、また2か月もルパート様と会えないのを寂しく思っていたのだが、ルパート様がコーウェン家の領地に半月ほど滞在してくださることになった。

 お母様の提案をルパート様が喜んで受けてくれたのだ。お父様は「まあ、いいけど」という感じだった。


 お父様はルパート様の挨拶に応じたりはなさるけれど、その態度はどこか頑ななままだった。でもお母様が「心配しなくても大丈夫よ」と仰るので、私はその言葉を信じることにした。


 確かに、お父様は居間で私がルパート様の話をすると、興味のない顔をしながらもしっかり耳はそばだてているようだった。

 それに、お母様が「今度ルパートを夕食に誘ったら」とか「ルパートは何が好きなのかしら」とか言ってくださるのは、そもそもお父様がお母様に仰ったことらしかった。


 結局のところ、娘の婚約者であることを除けば、お父様は意外とルパート様を気に入ったということなのかもしれない。

 早く素直になってくだされればいいのに。

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