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お祖父様、お祖母様

 前バートン伯爵であるお祖父様が久しぶりに領地から都へと出てこられたので、土曜日に家族揃って会いに行くことになった。

 ところが、前日になってお父様とお母様に急な来客の予定が入ってしまい、当日は私と弟妹の5人だけで出かけた。


 バートン家には一家が揃っていただけでなく、お祖父様にご挨拶するためにセシリアの婚約者も来ていた。

 さらに私たちのすぐ後からウォルフォード一家もやって来たのだが、なぜかルパート様がご一緒にいらっしゃった。


 驚く私に、ヘンリー叔父様がニヤッとして言った。


「メリーも紹介したいだろうと思って呼んだんだ。だが、セディが来られなかったのは残念だったな」


 やはりお父様への嫌がらせだったようだ。


 ルパート様も大いに戸惑っていた。


「すみません。叔父上に呼び出されて、よくわからないまま連れて来られてしまって……」


 ユージン叔父様も共犯なのだろうか。いや、ユージン叔父様はヘンリー叔父様とは違うはず。きっと純粋に私とルパート様を会わせようとしてくださったのだ。


 私たちはそれぞれお祖父様にご挨拶をし、再会を喜び合った。


 その後で、皆から当然のように促されて、私がルパート様を紹介する流れになった。

 お祖父様は、私の隣にいるのはいったい誰かと訝しむようにルパート様を見つめていらっしゃった。


「お祖父様、こちらはルパート・マクニール侯爵子息です。私がとてもお世話になっている方です」


「どうもご無沙汰しております」


 ルパート様がお辞儀されるのを見ながら、お祖父様は「ああ」と呟いた。


「マクニール家のルパートか。すっかり立派になって、見違えてしまったな」


 どうやらお祖父様は以前お会いしたらしいルパート様のことをきちんと記憶されていたようで、私は密かに安堵した。


 だが、お祖父様は私とルパート様の顔を少しの間見つめてから、再び口を開いた。


「そうか、メリーが世話になっているのか。ルパート、これからも末長くメリーをよろしく頼むよ。まあ、メリーはセシリアと同じ歳なんだ、そういう相手がいてもおかしくなかったな。だが、セディは気を落としたんじゃないか?」


 私がルパート様を紹介した理由を、お祖父様は見事に察してしまった。


 中身はともかく見た目は前公爵らしく威厳たっぷりのコーウェン家のお祖父様とは対照的に、バートン家のお祖父様はいかにも温和な印象だ。

 しかし、やはりお母様のお父様。侮れない。


「いえ、お世話になっているのに気を落とすなんて……」


 何と答えていいのかわからず私が口ごもると、お祖父様は納得するように頷いた。


「なんだ、セディはまだ知らないのか。それなら、これから大変だな」


 ルパート様のいる前でそんなことを言われて、私は反応に困った。私とルパート様は、まだこれからのことを話す段階にもないのに。


 それにしても、ウォルフォード家ばかりでなく、バートン家でも私とルパート様はすっかりそういう関係だと認識されてしまっている。それなのに、お父様だけがまだ何も知らないのだ。


 セシリアが冗談のように口にしていた「コーウェン公爵夫人派」という言葉を思い出す。ウォルフォード侯爵家とバートン伯爵家は、あくまでコーウェン公爵家ではなくお母様と繋がっているのだ。

 お母様がお父様とコーウェン家のために動く方だから、今まで大した違いはないと思っていたのだけれど、こんなところで初めて理解してしまった気がする。


 そもそもお母様とヘンリー叔父様、レイラ叔母様は仲の良い兄弟だったそうだけど、お母様が16歳の時にお祖母様が亡くなってしまったことで、さらにその結束は強まったのかもしれない。


 ちなみに「アメリア」という私の名前は、このお祖母様からいただいたものだけど、名付けてくださったのはコーウェン家のお祖母様だ。

 私のおふたりのお祖母様方は親友同士だった。コーウェン家のお祖母様が刺繍に本格的に取り組みはじめたのも、バートン家のお祖母様の影響とか。

 その縁があって、お父様とお母様兄弟の幼馴染という関係もあるわけだ。


 そう言えば、私のふたりの妹たちの顔立ちは、ロッティがどちらかというとお母様似、アリスはどちらかというとお父様似なのだが、お祖母様は「ロッティはアメリア似で、アリスは私に似ているわね」と仰る。


 しばらくはお茶をいただきながらお祖父様を囲んで皆で談笑した。居間では狭いため、広間の一角にそのための席が用意されていた。

 お祖父様、バートン家の5人とセシリアの婚約者、ウォルフォード家の4人にルパート様、そして私たち5人。総勢17人となかなか壮観な光景だ。


 そんな中にあって、ルパート様がこの場に馴染んでいるので、私は不思議な気分になった。まあ、ルパート様も親戚ではあるのだけれど。


 お母様が不在なので私にくっついているメイが、チラチラとルパート様を伺っていた。先日の夜会の件があって、「今度会ったらお礼を言うのよ」とお母様から言われていたのだ。

 確かメイがルパート様にお会いするのはこれで3回目だけれど、メイもきちんと顔を覚えていたようだ。だけど、恥ずかしいのだろうか。


 やがて、セシリアと婚約者はふたりでデートに出かけた。

 子どもたちは庭へと出て行った。メイも兄姉たちについて行った。


「私たちも庭に行きませんか?」


 ルパート様に誘われて頷きながら、私はルパート様の表情がどこか固いことに気づいた。もしかして、いよいよあの話をするのだろうか。


 私は緊張を覚えつつ、ルパート様と庭に出た。

 ルパート様が言葉を探しているような様子だったので、私も無言で歩いていた。子どもたちの明るくはしゃぐ声が響いていた。


 ふいと、子どもたちの輪の中からメイが抜け出して、こちらにトテトテと駆けてきた。メイは迷わずルパート様の足に抱きついた。


「ルパト様、遊ぼ」


 私とルパート様の間に漂っていたはずの緊張感は、それですっかり霧消してしまった。

 私と顔を合わせて苦笑してから、ルパート様はメイを抱き上げた。


「うん、遊ぼうか。何をする?」


「鬼ごっこ」


「メイ、ルパート様にお会いしたら何か言うことがあったのよね?」


 私がそう言うと、メイはモジモジしながらルパート様を見つめて口を開いた。


「えっと、ルパト様、この前ありがとう」


 ちょこんと頭を下げたメイに、ルパート様は優しい笑みを浮かべた。


「どういたしまして」


 メイもホッとした様子で笑い返した。


 どことなく仕草などにお父様と似たものを感じさせ、愛くるしい笑顔で家族を和ませるメイだが、その顔立ちはコーウェン家のお祖父様譲りのようだ。

 私にはまだよくわからないのだが、お祖母様と、お祖母様のお兄様でありお祖父様の子どもの頃からのご友人でもある前国王陛下が断言するのだから、間違いないのだろう。

 メイがいつかお祖父様のような男らしい顔になるのかと思うと、とても楽しみだ。


 メイを抱いたルパート様が子どもたちのほうに近づいていくと、ロッティやアリスまで絡んできた。


「メイたちに取られちゃいましたね」


 ノアが可笑しそうに言った。


「メイにもわかるくらいルパート様が良い方だってことだもの。仕方ないわ」


「そんなこと言って、本当はメイと代わってほしいんでしょう?」


 ノアの言葉で、ルパート様に抱きしめられるところを想像してしまい、私の体温が一気に上がった。


「な、何てこと言うのよ」


「姉上こそ、このくらいでそんなに赤くなってて大丈夫ですか?」


「大人を揶揄わないで」


「大人、ねえ」


 ノアは呆れたような表情だった。


 結局、この日はルパート様と言葉を交わすこともあまりできなかった。

 それでも、しばしばルパート様と目が合って、そのたびに私たちは微笑みを交わした。


 そしてその傍ら、ルパート様が私に親い人たちとともに過ごし、子どもたちに囲まれている光景を眺めて、私はつい将来を思い描きひとり赤面していたのだった。

お読みいただきありがとうございます。


このあたりで再び、登場人物まとめ②

(メリーが17歳の年の年齢です)


ウォルフォード侯爵家

父 ユージン 38 史書編纂室勤務

母 レイラ 34 クレアの妹

長男 アシュリー 16

長女 ダリア 14


マクニール侯爵家

長男 ルパート 22 ユージンの甥、内務官

父、母

ふたりの姉は既婚

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