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運命の誓い

「この世界について、か。まず俺が召喚された教会の話からでいいか?」


 先に答えたのは浩太だった。


「うん、何でもいいから知ってることを教えて」

「教会はこの世界の秩序を守る組織、だな。もちろん教会っていうからには神様を祀ってるんだけど、この世界の人のほぼ全てがその神を信仰してるんだ。だから全世界において影響力を持ってる。教会が秩序維持を始めたのは神様の言葉がきっかけらしい。この世界じゃ時々神様の言葉――この世界の人たちが『御言葉(みことば)』って呼ぶものを授かる人がいて、その言葉は絶対って考えられてる。俺が召喚されたのも『御言葉』によるものだ」

「秩序を守るって具体的にはどんなことをしてるの?」

「国同士の争いを仲裁したり、不要な戦争を止めたりしてる。だからここ10年不要な戦争を繰り返すイリドルシアは制裁対象になっている」

「ふむふむ。それが、教会側の言い分ってわけね」

「言い分って……、まあそうなるな」


 浩太の所属する組織――教会についての話を聞き、女は自身の考えを整理する。


(『アーマーズサモン』とは違うけど、コウくんが召喚された側が一見正義っていうのは同じかも。ただ召喚が神の『御言葉』によるもの? たしかに異世界召喚なんて世界を超える行為、神のような存在が関わっていてもおかしくはない。でもその狙いは? もし本当に何かしらの存在によって召喚が行われたのなら、セイくんの召喚や私の転生も同様の存在が原因なのかも。ここに私たち3人が集まったのも偶然ではなく仕組まれたってこと?)

「セイくんは? キミから見てこの世界ってどんな世界?」

「そうだな……、まずこの世界は地理的な面において地球とは大きく違うな」

「どういうこと?」


 誠也が自身の属するイリドルシアについて語ると思っていた女は、まさかの切り口により一層興味を抱く。


「この世界、いや大陸は狭い。そのせいか、大陸全土の気候はほとんど同じだ。四季があり、日照時間もあまり変わらない。ただ、イリドルシアはその中でも寒く、他国よりも貧しい。他国や教会はその貧しさに付け込み、施しと言いながらイリドルシアの国民に不当な搾取をしている。イリドルシアは新たな領土を得て国力を上げ、教会の支配から解放されるため、戦争を起こすしかないんだ」

「ちょっと待ってくれ、教会がそんなことするはずが――」


 誠也の話に浩太が待ったをかける。


「確かに教会の上層部はたいそうな正義を掲げているだろうな。だが、末端はその威光借りた腐った奴らばかりだ」

(そんな……、教会が悪だっていうのか?)


 浩太は自身の正義を疑い始める。

 しかし、彼が会ってきた人々に悪人などいなかった。「大陸の秩序を守る」、そのために誠実に行動している人々ばかりだ。それが間違っている? いや、誠実であるがゆえに間違えていたのだ。


「皆、騙されていたということか」


 浩太は理解した。教会の上層部の盲信が戦争を招いたということを。


(こういう流されやすいところがコウくんらしいよね)


 一方、女はあっさりと教会の非を認めた浩太を見て、やはり自身の生み出したキャラクターであるということを再認していた。


「じゃあ、やっぱり2人が争う必要なんてないんだ」


 女は思う。たとえこの世界が全く知らない世界だとしても、2人は協力し合う運命であると。


「ああ、そうなるな」


 浩太は改めて誠也の方に向き合う。


「まず、教会がイリドルシアに対して行った非道。教会六重(むえ)方級(ほうきゅう)・白騎士 岡野浩太の名においてイリドルシアの全国民に対し詫びよう。そして、教会から必ず腐敗を取り除き、イリドルシアに真の平穏を齎すことをここに誓おう。イリドルシアの黒騎士、この誓いを受け、そちら側からこれ以上戦争を起こすことを止めては貰えないか」

「いや、お前バカなんじゃないか?」


 誠也は戸惑っていた。なぜ簡単にこちらの言い分を信じるのか。誠也はこちらの言い分を話しても信じはしないだろうと思っていた。しかし、浩太はあっさり信じ、受け入れた。何か裏があるのかと考えたが、今までの会話や剣を交えたときのやり取りから察するに、そういったタイプではない。つまり、ただ無条件に人を信用するお人好し。だからこそ、教会の腐敗に全く気づいていなかった。


(正直、味方にしたくないんだが)


 しかし、誠也にとって相手の身分、その実力を考えると手を組むということは実に魅力的な提案であった。誠也には元の世界に帰るという目的がある。そのためには早急に自国の問題を片付けなければならないという意識があった。


「まあ、お前が本気で教会を正すというのなら、その提案乗ってやろう」

「ああ、もちろんだ」


 白銀の鎧が白い光を放ちそれが消えると、そこにはこの世界において一般的な冒険者の装いをした浩太の姿があった。


(ついさっきまで敵だった相手に対し、武装を解くとはな)


 本当にお人好しだと内心苦笑しながらも、誠也も同様に暗黒に身を包み黒鋼の鎧から冒険者姿へとその身を変える。


「これで俺たちは協力関係だ」

「ああ」


 浩太は右手を差し出し、誠也がその手を握る。

 2人の間に固い握手が結ばれた。


「え? 待って? 今の何?」

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