とある受刑者の一日
~朝七時~
ジリリリリリ!
起床の時間だ。顔をしかめるようなけたたましい音で目が覚めた。
備え付けの小さな洗面台で、顔を洗い身だしなみを整えていく。
部屋の清掃や片付けも済ませなければならない。
身だしなみや部屋の清掃は、刑務官にチェックされる。問題があれば怒号が飛ぶだろう。
~朝八時~
食堂に集まり、受刑者仲間達と共に食事をとる。今日はおにぎり一つとヨーグルトだ。おにぎりの具にはたらこが入っていて、少しだけ嬉しくなる。
食事の時間は十五分だけだ。
労働時間に遅れると、刑務官にひどく叱責されるので、急いで朝食を済ませる。
~朝八時十五分~
労働の時間だ。ここの一日の殆どは、労働が占める。残念ながら賃金は殆どない。それに労働のための設備は整っておらず、刑務官が受刑者達を厳しく監視している。労働環境は当然悪い。
この労働はお昼まで休憩がない。仮にトイレに行きたいならば、刑務官にいちいち許可を取る必要がある。まったくもって理不尽だ。
~昼十二時~
昼食と休憩の時間だ。だいたいは白米と味噌汁に主菜がつく。
この時間は四十五分しかないので、やはり急いで済ませる。
ここの生活で一番の楽しみだ。ご飯を食べている時、自分の人生に少しの煌めきを感じる事ができる。
~昼十二時四十五分~
昼の休憩が終わり、労働がまた始まる。無駄に不効率で古い機材、無意味な作業ルールが受刑者達を苦しめる。効率化・最適化は許されない。全て刑務官の指示通りに行わなければならない。労働に対する独創性や改善が許されないのは、とても大きなストレスだ。
苦しい。
~昼十五時~
十五分の休憩が許されている。この時間は束の間の休息だ。しかしこの時間はすぐに終わってしまう。
~昼十五時十五分~
休憩が終わり、労働が再開される。待ち受けるのは理不尽だ。
刑務官の怒号が飛び、労働の反省を促される。明らかに刑務官の指示が悪いのだが、誰も逆らう事は出来ない。この無意味で無駄な労働を続けなければならなかった。
この労働は夜二十時まで休憩なく続くことになる。自分の目が虚ろになり、頭にモヤが掛かってきたのがわかる。たまらない。
~夜二十時~
ようやく労働が終わった。受刑者達は顔を緩め、一日の終わりを満喫する。
夜の二十一時まで、夕食と湯浴みを取る事が許されている。
夕食は、昼食と同様だ。少し物足りないが、それでよい。労働をしなくて良いという時間が貴重だ。
食事のあとは体の汗を軽く流す。あぁ、体が温まる。この時間のために生きているようなものだ。
~夜二十一時~
刑務官に呼び出される。休憩時間は私生活であり最低限の人権は保障されているはずなのだが、事実は異なる。刑務官から難癖をつけられ理不尽に叱られる。叱られた後は罰則といわれ、刑務官の部屋を清掃させられる。これは特別に珍しい事ではない。刑務官は受刑者に難癖をつけては、上手く使うのだ。
あぁ、情けない。
~夜二十二時半~
ようやく刑務官の罰から解放された。明日も早い。すぐに寝なけらないが、近頃はストレスのせいか寝つきが悪い。それでもようやく、体を休める事ができる。
おやすみなさい。
◇◇◇
これが一般的な受刑者の一日である。
この受刑者は懲役四十年に処されている。二十歳に入所し、先はまだまだ長い。近年、刑罰法の改正が行われ、懲役刑が長くなる傾向にある。今後も入所する受刑者らは、懲役四十五年、下手すると五十年を過ごさなければならない。
当然、受刑者達は罪を犯しているから苦しんでいる。
これを読んでいる諸君は、同じ間違いを犯さないように留意されたい。
この受刑者達が犯した罪は以下の通り。
『日本国に居住し、文化的な生活を送った罪』
(了)
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