7話 4人目・リュウヤの巻(後編)
私は人に影響を受けやすい。
地ベタリアンなリュウヤの習慣が、私に伝染するのにそう時間はかからなかった。
さすがに土の上は無理だけど、アスファルトの上なら、道端でも道路でも、どこに座っても平気になっていた。
それだけ私と彼が打ち解け合うようになっていたのは確か。
前彼ユースケに続いて、ついに話した私のヒミツ。
私はキスが苦手…というかできないこと。はっきり言ってキスが大キライなこと。
そしてその理由を話してる最中にも、リュウヤの反応が気になって気になって、内心ドキドキものだった。
「私、やっぱりヘンでしょ?バカみたいでしょ?あきれるでしょ?」
全てを告白した後、私は開き直って彼にそう言った。
「ヘンだけど、あきれたりはしないよ。僕もヘンだって人によく言われるし」
彼は育ちがいいのか、私と付き合ってからも自分のことを“俺”とは言わない。
「でも、こんなんで私と付き合える?」
「別にキスさせろなんて一度も言ってないだろ」
「そうだけど…リュウヤはそれでいいの?」
念を押して聞いてみる私。
「別に…平気だよ。人がイヤがることなんてしたくないし」
「ホントに?」
「あぁ。僕は安佳里といるといつも楽しいから、それでいいや」
私の心の中にどれほどの花が一瞬にして咲き乱れたことか、計り知れないほどの感動的なリュウヤの言葉。
───今度こそ大丈夫。キスなしでもデートが続けられる。
その日をきっかけに、私は彼だけの可愛い女になろうと思った。
今まで着る気もなかったロリくさいワンピを着たりして、彼好みな女になろうとしたし、おしゃれにも随分気を使った。
でも、やはりそんな付き合い方ではやがて限界が来るもので。。。
日を追うごとに慣れ合いになったというか、私の方が彼に対して初々しさもなくなり、また無防備にもなっていた。
そう…ここまで来ると別れも意外に早かった。。
ある寒い日の夕方、私はリュウヤを家に招いた。
私の両親は、応募ハガキで当たった温泉旅行で留守。
今夜、自分で作ろうとしていたシチューを一人で食べるのも寂しい。
リュウヤの家は特に門限もなく自由。
いつも夕飯前には終了するデートも、この日はそのまま私の家へ…
キッチンで作ったシチューをわざわざ私の部屋まで運び、二人で食べた後のこと。
私達は、夕方やった壁打ちテニスで汗をかき、体もベタベタのまま。
シチューを食べると更に汗ばんで、私的にもう限界だった。
「悪いけど、私シャワー入ってくるね。リュウヤはどうする?」
「着替えないし、帰ってから入る」
と、まぁここまでは普通の会話。うかつだったのはシャワー後の私。
慣れ合いとは恐ろしい。
バスタオルを体に巻いた私は、気にも留めずに部屋で着替えをしてしまった。
同じ部屋に彼がいるにも関わらず…
彼は目をそむけていた。すぐに雑誌を手にとって見ていたが、明らかに読もうとしていたんじゃないのがわかる。
でもこの時の私は本当におバカで、リュウヤがエッチなことを仕掛けて来るはずがないと信じていた。
そう、確かにリュウヤが襲って来るようなことはなかった。むしろその逆。
私が思うべきことは、信じる信じないの問題ではなかった。
それに気づいたのは彼の些細な言葉。
「ちょ…ちょっとトイレ借りるよ」
そう言って立ち上がった彼の両手の先を、私は見逃さなかった。
リュウヤは私にバレないように、さりげなく自分の股間を隠していたのだ。
そして彼が私の横を通り過ぎたとき、その事実がはっきりと確認できた。
つまり…
───彼のアレが勃起していたということ。
私はその時初めて自分のバカさ加減に気がつくことになる。
リュウヤはずっと我慢してきたんだ。。
私がキスがキライだからって、私に合わせて来ただけなんだ。
本当はキスだって、それ以上のことだって、絶対したいはずなのに。。
それなのに彼はずっとずっと一言も言わずに我慢してたんだ。。
この場面だって、私が挑発するような着替えに我慢の限界を超えて、彼はトイレを口実に出て行った。
きっと今頃リュウヤはトイレで…
ヤダ(~▽~;)私、何想像してんだろ…
何にしても、この原因は私。
リュウヤが私といたら、きっとストレスが溜る一方。
彼は優しいから、この先も決して私を求めるようなことは言わないはず。
それなら…
それならもう、私から身を引くべきなのかも…
リュウヤが苦しまないうちに…
翌日、いつもの公園で私はリュウヤに別れを告げた。
「もう私たち…終りにしようよ。。いろいろごめんね。。」
「・・・・」
彼は何も言わなかった。
すぐに彼に背を向けて、早足でその場を歩き去る私。
彼の視線をいつまでも背後に感じてはいたけど、呼び止められることはなかった。
キスもできない私なんて、もう恋をする資格なんてないんだ。。
(続く)