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74話 隠されていた過去(前編)

 100キロ離れた自宅に戻る車の中。

 ドライバーは父。私が助手席。そして母が後部座席。

 リュウヤはマイカーで私達より1時間前に帰って行った。


 お昼に聞いた母の話。

 私の彼がリュウヤであることをギンゾーに教えたのは母。

 しかも、私達があまりうまくいってない事情までも伝えていた。

 普通に考えてみても、ギンゾーに教えれらるのは母しかいないから、当然といえば当然。

 でもあくまで母は、事情を説明しただけだと強調する。

 つまり、リュウヤの事務所に押し掛けるような行動に出たのはギンゾーひとりの意志だということ。


 田舎道を走る車に揺られながら、私はまた昼間と同じことを考えていた。

 ───どうしてギンゾーは…

 けど、私ひとり考えあぐねていても、結論も何も出ないし、推測の域を出ない。

 車中の沈黙を破って、私は母に質問を投げかけた。

「お母さん、どうしてギンゾーおじさんはあんなに必死だったのかな?」

 昼間、酔いにまかせてテンションの高かった母が、今ではすっかり大人しくなっていた。

 問いかけの返事もすぐに返って来ない。たぶん法事の疲れがどっと出て、後部座席で寝てるんだろう。

 そう思っていた私が、様子を伺おうと振り向くと、いきなり母と目が合った。

 ぎょっとした私。予想外もいいとこ。母は眠そうな素ぶりもしてないし、疲労の影などみじんも見られないほど目がカッと開いている。

 決してまぶたの上から目を描いてるんじゃない。むしろ私の方が疲れていて目力がない。

 かなり時間差をおいてから、母の返答があった。


「…ギンゾーおじさんはね、ずっと責任を感じてたのよ。安佳里に対してね・・・」

 それはそう思うけど、それだけでは何か腑に落ちない面もある。

「そうなのかなぁ…わざわざ芸能プロダクションまで来るんだよ。すご過ぎない?」

 母は再び妙な間をおいて、謎めいたセリフを口にした。


「詳しいことは帰ってから話すわ」

「えっ?詳しいこと?」

「ちょっとね、話しておきたいことがあるの。あなたに」

「それなら今言ってよ」

「ダメよ。お父さんも運転中じゃない」

「関係ないと思うけど?^_^;」

「家に着いからきちんと話すわ」

「私、帰ったらお風呂入ってすぐ寝るもん。疲れたし」

「若いのにそんなに早く寝ることないでしょうに」

「お母さん、今じゃダメなの?あと2時間も車の中だよ。ウチら3人しかいないじゃない」


 一瞬、戸惑いの表情を見せたような母。

 口にはしないけど、しょうがないわねぇという諦めモードで父の背後から言葉をかける。

「あなた、いい?ここで」

 数秒の間をおき、無言を貫き通していた父が重い口を開いた。

 父はギンゾーとは実の兄弟なのに、おしゃべり好きなギンゾーに比べてタイプがまるで違う。

「ここで話してもいいんじゃないか。家でかしこまっても、うまく話せんかもしれんしな」

 父もまた、母と同調して何かを隠しているような口ぶり。

「わかったわ。あなたがそう言うなら」

「一体何なの?私のことなの?」

 私はルームミラー越しに母を見た。それに気づいてこちらに目を合わせる母。


「安佳里、落ち着いて聞いてね」

「落ち着いてるよ」

「これから話すことを聞いても落ち着いてね」

「そんなのわからないよ。聞いてもいないのに」

「それじゃ話せないわ」

「もう、わかったよ!わかったからそんなにもったいぶらないで!」


 母が言いづらいことを言おうとしてるのはすぐにわかった。

 けど、もし何か秘密があるのなら、それを隠されるのは不安よりも辛い。

 私だってもう大人。何を言われても動じないフリをするくらいの芝居はできる。


「じゃあ言うわね。ギンゾーおじさんのことなんだけどね・・・」

「え?私のことじゃないの?」

「まぁ聞いて。銀蔵さんには子供がいないって言ってたけど、それは事実じゃないの」

「ええっ?それはホントに初耳だわ」

「銀蔵さんには……ひとり娘がいるの。たったひとりだけ。。」

 

 母の言葉のニュアンスにハッとした私。

「まさか、その娘って………私?」

 ルームミラー越しの母が無言で静かにうなづいた。

「!!!」

 

 私は言葉が出なかった。平気なフリやお芝居もできなかった。

 衝撃の大きさと信じられない気持ちが、私の中にある規定容量を軽くオーバーして、体が硬直して動かない。

 ギンゾーが本当の父親?それならギンゾーより先に亡くなった奥さんのタエおばさんが私の母親ってことになるの?

 

 そんな私の心を読み取ったのか、母が的確に事情の説明を語り始めた。

「安佳里の生みの父親は銀蔵さんだけど、生みの母親は私。これは本当よ」

「…どういうこと?」


 この後、車の中で母は淡々と、今までに隠されていた事実を語り続けることになった。

 それは私がまだ生まれる前、まだ母のお腹の中にいた時代までさかのぼっての話。。


「当時ね、私と銀蔵さんは夫婦だったの…」

「………」


                 (続く)

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