72話 心地よい回想
「行ってから話すよ。会って話したいし」
「え~~っ!?」
「で、場所はどこ?遠いの?」
こんな肩透かしな言葉を言われると、これ以上聞くに聞けない。
結局、リュウヤに場所を教えて最後はおやすみの挨拶で通話は終了。
若干、はぐらかされた感があるように思えるのは私の考えすぎ?
───あ、いけない。また私の悪いクセ。
このまま余計なこと考えると、また自分勝手な妄想が膨れ上がって大変なことになりそう。
それにたいてい睡眠不足になるから、体調不良になるのも過去の経験から自覚済み。
これからはこんな自分を変えていかなきゃなんない。
本来なら今すぐにでも変えるべき。
───そうよ。考えたってしょうがないわ。ギンゾーのことはどうせ水曜にわかるんだから、それでいいじゃない。バカね私も。
そう強く念じてベッドに入ってはみたけど、生まれつきの性分がすぐに変わるはずもなく…
やっぱり気になるものは気になる。ならどうすればいい?
苦し紛れに出た結論はホントにいい加減なもの。
別なことを考えればいいのではと、無理やりモッチーを頭に浮かべることにした。
確かに彼が同性愛者だったなんてまさに寝耳に水。
さゆみからその事実を聞かされたときは、ある程度冷静を装ってはいたけど、実際は大きな衝撃を受けていた私。
しかも心が女性に近いだなんて…
失礼な話、あの巨体で女っ気の全くない風貌から、女言葉をしゃべるモッチーなんて想像もつかない。
でも……でもつい妄想を膨らませてしまった私(^□^;A
モッチーがハニカミながら『いやん』とか『うふっ』とか、はたまた『お願いよ』とかしゃべってるセリフを勝手に想像して、部屋でひとり爆笑している私がいた。
おかげ様で、ベッドに横になりながら、断続的に襲ってくる妄想笑いをこらえているうちに、どうやら私は寝入ったようで、気がついたときには快適な日曜の朝を迎えていた。
部屋の壁掛けカレンダーを見る私。
「あと3日か…」
あれほど毛嫌いしていたギンゾーを、今では法要の日を待ち遠しく思ってる私。
そんな自分が不思議で、可笑しくて。
でも手を合わせて祈ってあげたい気持ちがいっぱいで。
───そうだ!ギンゾーの大好きだったジンギスカンをお供えしてあげられないだろうか?
そんな突拍子もないことを、本気で母に伝えると、
「バカじゃないの、あんた」
と本気で言われてしまった私^_^;
元漁師なのに、魚は食べ過ぎて嫌になり、引退後は脂っこいジンギスカンをこよなく愛したギンゾー。
唯一、好きだった魚はお寿司の中トロと穴子。きっと脂っこさがジンギスカンと共通したのかも。
逆にジンギスカンをこよなく毛嫌いした私。
なんか不思議でたまらない。
思い出したくもなかった出来事が、懐かしい映像になって私の脳裏に蘇ってくる。
「そうよ。あと3日よ。リュウヤにも会えるし…そしてギンゾーにも…」
(続く)