6話 4人目・リュウヤの巻(前編)
失恋しても相談できる友達が私にはいなかった。
中には逆に相談して来る子もいたけど、私は無理だと言って助言を避ける。
結局その子は私の友達に相談する。
友達曰く、
「そんなの新しい男作りゃいいだけじゃん」
たいていどれもこんな答え。相談できるはずがない。
ユースケと別れて孤独になっていた私は、下校途中に妙な男と出会う。
帰宅するには公園内を斜めに横切った方が近い。
私がちょうと公衆トイレの前まで来ると、テニスラケットを持ってボールの壁打ちをしている男子がいた。
服装はガクラン。たった一人のクラブ活動でもないらしい。
見た目、高校生には違いないけど、行動が普通とは思えなかった。
トイレの壁に向かってボールを打ち、跳ね返ったボールを顔で受けている。
私はつい立ち止まって見入ってしまった。何度見ても同じことの繰り返し。
普通ならこんなイカレタ男なんか無視するんだけど、よく見るとなかなかのイケメン。変態ぽくもない。
私は見ているだけにはとどまらず、話しかけてしまった。
「それって何の練習?」
その男子は壁打ちをやめ、私の方へ向き直りながら額の汗をぬぐった。
「テニスの練習だよ」
ごくごく普通の回答だけど、意味をなさない。
「じゃあ、なんでボールを顔で受けてるの?」
「・・・・」
彼はすぐには答えずに、私に質問返しをする。
「僕のこと、頭おかしいと思ってるだろ?」
躊躇なく答える私。
「うん」
フッと笑う彼。
「君もヘンな子だよね」
予想外の言われように驚く私。
「はぁ?私がヘン?」
「まぁ座ろうよ。僕も疲れたし」
「座ろうったって、ベンチも何もないじゃない」
「どこでもいいんだ」
そう言って、彼は土の上の地べたに体育座りをした。
「君は座らないの?」
「無理。私ミニスカだし、下着汚れるもん」
「ふーん。地ベタリアンじゃないんだ」
私はそんな言葉は無視した。
「で、私がヘンな子だってどういう意味?」
私は改めて彼に問いただす。
「だってさ、僕がこんなことしてりゃ誰だって避けて通るじゃん」
───どうやら自分でもわかってるようだ(⌒-⌒;
「なのに君は、僕に話しかけて来た。ヘンじゃないか。危険かもしれないのに」
「おかしな人だとは思ったけど、危険な人だとは思わなかったけど?」
彼はまたフッと笑った。
「なるほど。それは正しい。僕はそんな凶暴じゃない」
私は更に付け加える。
「それにヒマだったからよ。誰か一緒にテニスする相手いないの?」
「必要ないんだ。打ち合いの練習じゃないし」
「そこが理解できないんだってば…(^_^;)」
「理解したいの?」
「別にどうでもいいんだけどさ。でも一人で壁打ちするんなら、こんなとこじゃなくて、スカッシュしに行った方がいいんじゃない?」
我ながら良い提案だと、内心自分を褒めていた私。
「スカッシュなら一度試したよ。でもあれはちょっと苦手かな…」
「どうして?」
「イヤな思い出がある」
「どんな?」
彼は私をあまり見ずに、ラケットをいじくりながら話す。
「あれって、いろんな角度から跳ね返るもんだから、後頭部に当たって脳震盪おこしちゃったんだ」
「o(^▽^)oキャハハハ ドジ!」
「顔面にもくらって鼻血出したし」
「そんなの、今だって同じことしてるじゃない?」
「この球は軟式だから鼻血なんか出ないよ」
「だから、何でそんなことやってるのか意味わかんないんだってば」
彼はスクッと立ち上がった。
「君、部活は?」
「今はやってない。中学のときはバドミントン部だったけど」
「じゃあ君もやってみる?」
「ヤダ。何で私がわざわざ顔面にボールを当てるのよ!」
「違うよ。ラリーしようかって言ってるんだよ。やってたんだろ?」
「だからバドミントンだって!テニスなんかしてない」
「同じようなもんさ」
「違うもん」
「同じだって」
「違うよ。だいいち、あんたがやってることって、ただの顔面キャッチゲームで、テニスじゃないじゃん」
「うーむ…あー言えばこー言う人だなぁ」
「なんですって!?」
なんだか私が彼の思惑通りにノセラレテいる感じ。
それなのに、自然に弾む会話のキャッチボール。
「ねぇ、ラケットひとつしかないのに、どうやってラリーができるのよ?」
「できるさ。僕が壁に向かってボールを打ったら、すぐに君にラケット渡すから、君は跳ね返った球をまた壁に打てばいい。その後すぐにラケットを僕に手渡すだけさ。その繰り返し」
「……それマジで言ってんの?( ̄ー ̄; ヒヤリ」
「簡単だろ?」
「無理に決まってるでしょ!そんなのできたらプロよ!」
「そうかなぁ…?」
「やったことあんの?」
「いや、ない」
「(ノ__)ノコケッ!」
呆れるほどの天然。ある意味異常?でもそれが逆にとても楽しく思える。
別に彼がふてぶてしいわけでもない。
おっとりした口調、たまにチラッと優しい目で話しかけては、すぐに目をそらすシャイな部分。
そんな仕草が私の心をなぜかくすぐった。
───次の日、更にまた次の日。。
彼は同じ場所で同じことをしていた。
そして私もそこへ毎日足を運ぶようになる。
いつしかその場所が、自然と二人の待ち合わせ場所になり、私たちは付き合うようになっていた。
自分を飾らない彼。威張らない彼。ごく自然に生きているような彼。
私にとって、今までの彼の中では一番話しやすい存在。
名前はリュウヤ。
彼になら言える。いや、今のうち言っておかなければならない。
後になればなるほど言いづらくなるし、彼に与えるショックも大きいかもしれない。
告白してしまおう。そしてスッキリしよう。
それでダメならもう恋なんてしない。
私は決心した。次のデートで彼に告白する。
彼とキスができないことを。求められても無理なことを。
───そしてそのトラウマの理由も。。
(続く)