67話 みんな繋がってた
夜も8時をまわった頃、私とさゆみは場所をファミレスに移していた。
と言っても、さっきの店ではバイキング並みに食べまくったし、〆にバースデーケーキまで平らげた。
もちろん私が独り占めした訳じゃなくて、祝福してくれたまわりのお客さんたちにもおすそ分け。
世の中まだ捨てたもんじゃない。赤の他人なのに“おめでとうございます”と言ってワインを注ぎに来る人が3人ほど。
リュウヤとモッチーは役目を終え、ステージ裏に下がってしまったため、私達のテーブルには来なかった。
店内のお客さんが通常通りの食事タイムに戻ると、まわりから常にチラ見される視線が気になって、なんとなく居心地が悪い。
食べすぎるほど食べたのも、もったいないからとか、そういう貧乏性的な意味合いではなく、見られているという極度の緊張を振り払うため。
普通なら食べれなくなる人の方が多いかもしれないけど、私の場合はなぜか逆に意識レベルが働いた。
そんなさ中、私のケータイにリュウヤからの着信メールが。
“食事が終わったら別な店で飲み直そう”
予想はしていた。だいいち、プロポーズをした本人が、告白後に満足して勝手に帰るなんてあり得ない。
とはいえ、もう私はお腹いっぱいだし、お酒もこれ以上は無理。
というわけで、今は居酒屋でもなく、バーでもなく、ファミレスでさゆみとコーヒーをすすっている。
前もって、メールの返信にこの場所を教えたから、もうすぐリュウヤたちもやって来るはず。
その間に、私はさっきまで聞けなかった疑問をさゆみに問いただしてみた。
「ねぇ、どうして今日のライブのこと知ってたの?偶然チケットをもらっただなんてウソは信じないわよ」
「(*'‐'*)ウフフフ♪」
少し酔いがまわってるせいか、いたずらっぽい笑みを浮かべてもったいぶるさゆみ。
「どうかしらねぇ〜( ̄3 ̄)〜♪」
「もうっ!いじわるしないでよ。こっちはモヤモヤしっぱなしなんだからねっ!」
「おかしいよ、安佳里。プロポーズ受けたくせにまだモヤモヤしてるなんて」
「だからそのことじゃないの。私が今日、あの店に誘われたってことは明らかに計画的なのは明白よ」
「そうよ。だから“あのパンツ”も誕生ケーキを用意してたんじゃない」
「違うって。そのことじゃなくて、私が言いたいのはね、さゆみとリュウヤはいつから面識があったのかってことよ」
「( ̄ヘ ̄)え?私が?パンツと?そんなのないよ」
「ウソ!こんなの打ち合わせしないとできないことだわ」
「うん。したよ。軽くだけど」
「ほらみなさい」
「安佳里、その言い方、あんたの母親そっくり」
「んもうっ!そんなのどうでもいいでしょ!リュウヤと知り合いなの?どうなの?」
別にさゆみを叱ってるわけじゃないけれど、すっきりしない謎にイラッときていた私。
すると、ついにさゆみが回答を出してくれた。
「あのね、確かに打ち合わせはしたけどね、パンツとしたわけじゃないの」
「え?……なに?どういうこと?」
さゆみの意外な言葉に驚いた私。言ってる意味が呑み込めない。
「だから、安佳里のフィアンセじゃなくて、相方のおデブさんとちょこっと話しただけよ」
「は?それってモッチーのこと?」
「アハハハ、安佳里はモッチーって言ってるんだ。私はそんな風に呼ばないし」
「知り合いなの?」
「その前に私がなんて呼んでたか知りたくないの?」
「別にそんなの興味ないし」
「ええ〜!?聞いてよー」
酔ったさゆみはとても上機嫌。
彼女の気分を害するのもなんだし、私はそれに付き合うしかない。
「じゃあなんて呼んでたの?ブーちゃんとか?」
「あら安佳里、ずいぶん失礼なこと言うわね」
「じゃあ早く正解教えて(^_^;)」
「孝則よ」
「え?それって本名?^_^;」
「うん。でも昔からこうだもの。ニックネームが良かった?」
いい加減、求めてる答えを横道にそらされるのもイラッとする。
本当に教えてほしいのは本名でもニックネームでもない。さゆみとモッチーの接点を聞きたいだけ。
そんないぶかしい私の表情を、さゆみはやっと察知したようだ。
「ごめんごめん。ちゃんと言うよ。そんな顔しないの!さっきプロポーズしてもらった女の顔に見えないよ」
「そんなこと言ったって…」
「あんね、孝則はいとこなのよ、いとこ。前にも言ったでしょ!身内に芸人がいるって」
「ん〜〜なんとなく聞いたような気もするけど…でもそれがモッチーだったなんて、偶然すぎやしない?」
「あの二人は元々事務所が同じだったから、新人の頃から仲が良かったみたい」
酔いにまかせて言葉が軽やかになってゆくさゆみ。こんなところは私とは正反対。
私は酔うとますます内にひきこもるタイプ。なんせ妄想族だから。
うらやましくも思える、さゆみのなめらかなトークが始まった。
「でね、孝則も全然芽が出ないし、パンツの時代もピークを過ぎちゃったわけでしょ。だからアタシ、一言だけ助言したのよ」
「さゆみが助言?どんな?」
「いっそのこと、二人でコンビ組んでみたらどう?って。半分ジョークのつもりで言ったのに、それが本当になっちゃってさ。もうアタシの方がびっくりよ」
愉快にケタケタ笑ってるさゆみ。
「ふーん、そうだったんだ。。」
とりあえず繋がりはわかったけど、なんか隠し事をされてたみたいで、少し心に引っ掛かる。
今日の出来事は、私に対してのサプライズだってことはよくわかるけど、一体さゆみはどこまで関わっていたんだろう?
嬉しさ反面、隠されていた部分が全てハッキリしないと心のモヤモヤが解消しない。
素直に喜べばいいのにと自分でも思う。思うけどできないのが私の悪い性格。
それを解消するには、やはり聞いて納得するしかない。
「ねぇ、さゆみはさ、今日のバースデーの演出とか、リュウヤが私にプロポーズすることも、最初から知ってたの?」
さゆみは至って上機嫌が継続されていて、ノリで話すような早い口調でしゃべる。
「全然。私が孝則から今日のイベントを聞いたのが5日前だもん。そして安佳里を連れ出してくれって」
「ちょ…ちょっと待ってよ。私とさゆみが友達だってこと、何でモッチーが知ってるの?」
「あぁ、ごめん。説明不足ね。孝則がパンツとコンビ組むって聞いた時に教えてやったのよ。あんたの相方の彼女は私の親友だってね」
「はいはい…そういうことだったのね」
「でも本当にプロポーズのことは知らなかったわ。あの店員が持ってきたケーキの文字を見て、さすがのアタシでも衝撃が走ったもの」
「しかも出すタイミングを間違えて、でしょ?」
「そうそう。それそれ。あのバカ店員ね。大した男前でもないくせに、ろくな仕事もできないなんて最低よね」
「男前だったら許せるの?^_^;」
「当然っ!…まぁとにかくね、ケーキが出てくるタイミングだけは聞いてたの。あのコンビがネタを披露して、パンツが安佳里に向かって呼びかけた時だって」
「そうだったんだ。。」
「なのに結果がアレでしょ。もうアタシ慌ててケーキ引っ込めさせたわよ。見てたでしょ?」
「うん…そういうことだったのね。。」
「そそ。しょうゆうこと」
そう言ってさゆみはテーブルに備え付けの醤油を手にとって私に見せた。
────シーン───
5秒ほど沈黙があった後、二人して大爆笑。
決して、そんな昔に流行ったギャグなんかにウケたわけじゃない。
絶対にウケないギャグを、あえて真顔でさらっと言い放ったさゆみの大胆さが面白かったから。
「どう?安佳里。これでスッキリしたでしょ?あんたはもう次のステップを考えなさい」
「うん。。ごめんねさゆみ。そしてありがとう」
「そんな照れくさいこと言わないの。あ、ほら、パンツが来たよ」
私の背後に目をやるさゆみ。その目線を追って、私も後ろを振り向いた。
そこには、ニッコリと笑顔を振りまくアイドルほどのことはないけれど、それなりの、かつてのリュウヤらしいニヒルな表情で、こちらに近づいていた。
(続く)