61話 ただ見つめて。そして見入って
リュウヤはもうパンツをかぶっていなかった。
他のかぶりものもせずに素顔のままで。
お客さんは芸人“チビリおぱんつ”の素顔を知らないから、当然この場もそれに気づかれることはない。
これは今のリュウヤにとって本当に都合が良いこと。
リリア騒動で、世間からのバッシングを受けることなくネタを披露できる。
私の思いこみかもしれないけど、今のリュウヤは自信を持って伸び伸びと演じてるような気がする。
その上、彼の心情を最も理解しているモッチーとコンビを組むのはまさにベスト。
今まで芽の出なかったモッチーにとっても、リュウヤと共に心機一転、出直すチャンス。
私はなんだかわくわくして来て、最初の驚きから徐々に二人のネタを真剣に見入るようになっていた。
この二人のネタの面白いところは、巨体のモッチーには到底ミスマッチな恋愛カウンセラー役。
どう見てもそうは見えないところが、忍び笑いを誘う。
リュウヤ「てっきりカウンセリングしてくれる先生は女性だと思ってました」
モッチー「バカですねー。私が女性だったら、あなたは私に恋しちゃうかもしれないじゃないですか」
リュウヤ「そんなこと、みじんも思ってないし(^_^;)それにバカって…」
モッチー「さて、ザレゴトはここまでにして本題に入りましょう」
リュウヤ「ザレゴトだったんですか( ̄ー ̄;」
モッチー「で、どんな恋愛でお悩みなんです?」
リュウヤ「あ、えっとですね。まぁその…好きな彼女がいるんですけど…」
モッチー「ちょっと待って下さい。それって女性?男性?」
リュウヤ「だから彼女って言ってるじゃないですか」
モッチー「この時代、彼女と言っても女性とは限りません」
リュウヤ「あー、僕はそっち系じゃないんで」
モッチー「なるほど。ではノーマルということでいんですね?」
リュウヤ「念を押すまでもないと思うんですけど…^_^;」
モッチー「まずはそれが大事なのよ。あなたはその彼女に自分の気持ちを伝えたのかしら?」
リュウヤ「ちょっと先生、なぜ急に女言葉になるんですか?(⌒-⌒;」
モッチー「女性に対するお悩みなら、女性の立場からカウンセリングするのが常識なのよ」
リュウヤ「でも先生、マジ気持ち悪いんですけど( ̄ー ̄;」
モッチー「もうこの子ったら…人を見かけで判断しちゃダメって言ったでしょ!」
リュウヤ「言ったも何も初対面なんですけど。それに何で子供扱いなんですか(^_^;)」
モッチー「あのね、漫才してるんじゃないんだから、いちいち突っ込み入れるのやめてくれない?」
リュウヤ「あのー、僕は一体どうしたらいいんですか?」
モッチー「だから気軽に相談してくれればいいのよ。女の立場から答えるわ」
リュウヤ「先生は多重人格者なんですか?」
モッチー「バカなこと言わないで!本気で演じてるだけよ。患者さんのためにね」
リュウヤ「患者のためを思うなら、ドン引きするんでやめた方が…」
モッチー「なんですって?!そんなこと言われたの初めてだわ」
リュウヤ「誰も言う勇気がなかっただけかも^^;」
モッチー「こんなに完璧な仕事してるのに?」
リュウヤ「だいいち先生はすぐに女性になりきれるんですか?」
モッチー「何よ今更。アタシはこれで20年ごはん食べてるもの。ちょっと食べ過ぎちゃってるけど体重は140キロでキープしてるわ」
リュウヤ「ひゃくよんじゅ…(^□^;A」
モッチー「話しが脱線したわね。で、好きな彼女に思いは届いたの?」
リュウヤ「ん〜、届いてるような、ないような…」
モッチー「随分曖昧ね。ところで何か飲む?」
リュウヤ「いえいえ、おかまいなく」
モッチー「アタシが飲みたいの。一人だけじゃ見せびらかしてるようでイヤなの」
リュウヤ「そうは思いませんけど(^_^;)」
モッチー「いいから、何飲む?」
リュウヤ「じゃあ、ウーロン茶とか」
モッチー「やっぱり曖昧ね。まずはそのクセ直した方がいいわよ」
リュウヤ「へ?」
モッチー「気に入らないわ。『とか』って言うのやめなさい」
リュウヤ「いけませんか?」
モッチー「当然よ。絶対ウーロン茶以外のものを持って来たくなるわ」
リュウヤ「な、なるほど…; ̄_ ̄)」
モッチー「あなた、たぶんアタシが超おデブだから信用できないんでしょ?」
リュウヤ「はい」
モッチー「(ノ__)ノコケッ!あのね。アタシだって産まれたときはこんなんじゃなかったのよ」
リュウヤ「産まれたときに140キロある赤ちゃんなんて僕も見たことありませんし」
モッチー「当たり前でしょっ!ったくもう…アタシの子供の頃を見せたいくらいだわ」
リュウヤ「別に見なくていいです」
モッチー「あ、そうだ!最近アタシね、小学校時代に埋めたタイムカプセル開けたのよ」
リュウヤ「あー、僕もやりましたよ。それがどうかしたんですか?」
モッチー「何が入ってたと思う?」
リュウヤ「よげんの書とか?」
モッチー「どっかの映画みたいなこと言わないの!」
リュウヤ「じゃあ、新よげんの書とか?」
モッチー「あのね、ちょっとそこから離れてくれない?」
リュウヤ「先生、本題に入りましょうよ」
モッチー「あんたのせいよっ!」
テンポよく、二人のコントが続いている。
私はただ見つめて…そしてかたずを呑んで見入っていた。
(続く)