表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/77

5話 キッチンにて

「安佳里いぃー、夕飯の支度手伝ってぇ」

 キッチンから母の声がした。

 毎度のことながら、母はいちいち部屋に来ない。

 ママさんコーラスをしてるせいか、やたら声がよく通る。

 私はベッドで過去の回想から我に帰り、ダルい体を起こして返事をした。

「今行くー」


 キッチンに行くと、母が待ってましたと言わんばかりに私に言う。

「じゃ、あと頼むわね」

「は?何ソレ?」

「ごめんね。もうすぐ再放送が始まるから観終わったらまた来るわ」

「ええっ?再放送なら1回観たんでしょ?」

「何回観てもウケるもの」

「はぁ?ウケる?韓国ドラマとかじゃないの?」

「違うわよ『爆笑!heyカモン』のアンコール放送よ」

「あ〜あれ」

 私はため息をついた。

 世間では視聴率の高いお笑いバラエティ。

 私はテレビを観ない主義ということもないけれど、あまり興味がなかった。

 この数年、彼氏ができてはすぐ別れ、喜びと落胆の繰り返し。

 デートに明け暮れていた時間も多かったし、失恋の痛手から部屋で放心状態の日も少なくなかった。

 テレビの連続ドラマなど観れる余裕もないし、お笑いに興味もない。


 それなのに、母は私と真逆というか、お笑いが今でも大好き。

 ある意味、私も母のように脳天気になれたらどんなに良いかと思うこともある。

「野菜もお肉もお魚も買って来てあるから、メニューは安佳里に任せるわ」


 なんといういい加減さ…(⌒−⌒;


 何を作るかも決めてないのに、材料だけ買って来れる人って信じられない。

 そんな私の表情をおそらく読み取ったのだろう。母が一応言い訳をする。

「急いでて考えるヒマがなかったのよ。材料さえあれば、とりあえずどうにかなると思って」

「まぁどうにかなると思うよ」

 私は感情のない冷淡な返事をしたけど、母の心はもうリビング。

 キッチンにちっちゃなテレビでも置けばいいと一度言ったことがある。

 けど、母はすでにそのことを父に嘆願して、あえなく却下されたそうだ。


「あ、もう時間だわ。確かトップには“チビリおぱんつ”が出るわ。じゃヨロシク」

 母が早足で、リビングのテレビ前のソファにドサッと腰を下ろした。

 母が言った“チビリおぱんつ”とは、今世間で大人気中のお笑いピン芸人の名前。

 一発ギャクが有名で、芸名のわりには下ネタは言わないらしい。

 あくまで私はテレビも観ないし、お笑いに執着もしていないから、これは人から聞いた情報だけ。


 私はキッチンでひとり、黙々と作業を進める。

 最近、肌寒くなって来たから、シチューでも作ることにした。

 鍋に煮込んだ物たちを眺めながら、私はふと思った。


 そう言えば、リュウヤにもシチュー作ってあげたことが…


 私の心は再び過去の回想シーンへと誘われて行く…

 リュウヤ…4人目の彼。 

                    (続く)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ