54話 ゴールへの糸口(前編)
どうして?とは聞かなかった。
いずれこうなることは予想していたから。
リュウヤの一件があってから、さゆみをずっと連れまわして気を紛らわせて来た私。
わざとらしいほどに明るく振る舞いながら、恋愛話とは真逆な話ばかりして。
こんな茶番じみた猿芝居、さゆみはすぐにわかったはず。
なのに彼女はこの3か月、何も聞かずに黙って付き合ってくれた。
最初は呆れて聞く気にもならないのだろうと思ったけど、それは私の間違った認識。
彼女は私を本当に察しているからこそ、何も触れては来なかったのだ。
にも関わらず、さゆみに思いきり甘え過ぎていた私。
そんな私にしびれを切らすのは当然。さゆみの言い分はごもっとも。
「わかった…ごめんねさゆみ」
これしか言えずにうつむいた私。
昼さがりのお茶の席。対面した二人の間に流れる沈黙。
店内のBGMなんて耳に入らない。
さゆみが紅茶をコクンと喉に流し込む音の方がリアルに聴こえる。
何分このままの状態でいたんだろう?話す言葉が見つからない私。
お互いがお茶をすする動作だけがしばらく続く。
そんな中、ついに口を開いたのはさゆみ。私からしゃべる気配のないことを悟ったからだろう。
「安佳里ってさ、アタシといても時々ボーッとしてるよね」
彼女に指摘されたことは自分でも前々から感じてはいたこと。
私は集中力と思考力が持続しない。特に悩みや迷いがあると、余計に気が散漫してしまう。
一種の“現実逃避パターン”と言わても仕方がない。
「そうかもしれないけど、今は…違うよ。。」
「それはわかってる。今のことを言ってるんじゃないよ」
「そう…」
「アタシが安佳里に言うことはもう何もないわ。言ったところで前と同じことしか言えないし」
「……」
言葉の返せない私に、さゆみはゆっくりと説明するように話す。
「じゃあもう一度最後に同じこと言うけどね、あんたが行動しないと何も変わらないんだよ」
この言葉には私なりの反論があった。
「行動しないとって…私、ちゃんとしたよ。リュウヤと会って言うべきこともちゃんと伝えたんだから」
「ほんとに?」
「私、頑張ったよ。かなり頑張った。でも…無理だった。。」
「やっと言ってくれたね。もっと早く言ってくれたらいいのに。やるだけやってフラれたんならそれでもういいじゃない。昔の安佳里なら次の男を探してたはずだよ」
確かにそう。昔はそうだった。でもそれは外面だけのこと。
そもそも男というものを信用していなかったから、本当に好きな人を探してたわけじゃない。
高校を卒業してからの私と付き合った男たちなんて、いつ別れても平気だった。
もっとこの人のことが知りたいなんて好奇心は更々なく、遊び相手以上の感情も芽生えることはなかった。
でも今は違う。リュウヤは遊び相手じゃない。本当に好きな人。これが恋なんだと思える人。
だから昔のようにすんなり割り切ることなんてできない。
本当はさゆみには一番にわかってもらいたいのに、うまく説明する自信がない私。
でも言わなきゃ…
「あのねさゆみ…自己弁護するわけじゃないんだけど…昔の私ってさ、出会いはいつも探してたかもしれないけど、恋は探してなかったんだよね・・・」
「知ってるよ。それがセフレっていうもんでしょ」
さゆみの即答に驚いた私。知ってるならなぜ…?
「安佳里、アタシが言いたいのはね、あんた自身がどうしたいのか、はっきりと方向性を決めるべきだってことなの」
「方向性…」
「そう。アタシが昔の例を出したのはね、以前の安佳里は決断力にキレがあったことに対してだけ。そして今、またそれが必要な時だってことなの。わかる?」
「んん〜、それはなんとなくわかるけど…」
「わかるなら、それほど迷うことある?」
やっぱりさゆみには言っておくべきだったかな…
できるだけ自分自身で解決しようと心に誓っていたけどやっぱり無理。
だいいちこの3か月、さゆみを引っ張りまわして迷惑ばかりかけている。
自分自身で解決しようだなんて、言い分と行動が矛盾すぎる。
やっぱり言おう。私の今の迷いを。
言える相手はさゆみしかいないんだから。
「さゆみ、実は私ね…フラれたわけじゃないんだ…」
やっと彼女の目をまともに見て話し出せた。
「へ?どういうこと?」
カップを持つ手が止まったさゆみ。本当に驚いたようだ。
私がリュウヤにフラれたと確信していたかのよう。まぁそれも当然なんだけれど。
「なんていうかその……彼とはつかず離れずのまま?そんな関係でいようみたいな…」
「それ、パンツが言ったの?」
「ちゃんとチビリおぱんつって言ってよ^^; そこ省略したらなんかヘン」
「細かいことは言わないの。で、つまりそれはどういうこと?」
「ん〜なんていうか…」
「友達関係でいようってこと?」
「でもないんだよね・・・」
「はぁ?意味わかんない。なんかイライラする」
私はさゆみの口から出たその言葉に真っ先に便乗した。
「そう。そうなの。イライラするの。モヤモヤが消えないのよ。フラレもしないけど、付き合いもしない。お互いよく知らない方が人のアラを見なくていいんじゃないかって」
それを聞いたさゆみはテーブルに頬杖をついて私をマジマジと見つめ、
「はは〜ん。なるほどね」と口角を上げた。
「え?なに?なるほどって何がわかるの?」
(続く)