53話 普通じゃいられない
一応、納得した形にはなった。そうしないとまたこじれそうだったから。
もうゴタゴタするのもイヤだし、ケンカもしたくない。
でも心の中のモヤモヤはおさまらない。
私が完全に嫌われた方が決着がついたのに。
友達でいようというならまだマシ。
でも、恋人のかたちのまま付き合わないというのは全くの想定外。
リュウヤの判断に従うつもりで来たけれど、素直に割り切ることなんてできるわけがない。
二人でごはんを食べて別れたあと、私はまたさっきのオアシス広場の川べりに戻った。
ここのカラオケに来る直前のこと。
風が強くなっていた。寒くはないけど心地よい風でもない。
飛ばされて来た紙屑が、木のまわりで渦を巻いている。
私は小石を探した。
それをつかんで思いっきり川に向かって遠投したくなったから。
子供の頃、青春ドラマでそんな場面をバカにしていた自分が、今そんな気分になるなんて。。
「フフ…」
なんか笑えた。
小石が見つかって希望通りのことができたらまだ良かったのに、いくら探してもアスファルトの地面にそんなものは見当たらない。
腰を丸めて石を目当てにさまよう姿は、きっと落し物でも探しているんだろうと人は思うに違いない。
実際はこんなバカみたいなことしてるのに。
急な突風のせいで、飛んできた新聞紙が大きく広がりながら、いきなり私の顔にベタっと貼りついた。
「ふがっ…!」
前かがみだった腰が後ろにのけぞって倒れそうになったけど、そこはなんとかこらえた私。
まわりには若干、3組くらいのバカップル。
こんな言い方は失礼だけど、今の私には何の縁もない普通のカップルもみんなそう見える。そうとしか見えない。
そんなやつらにクスクスと忍び笑いをされている自分に余計腹が立った。
「もう何よっ!新聞紙のクセにっ!」
人にアタれない分、紙切れにアタる自分が全くもって情けない。
場は完全にしらけ、チラ見していた数人のカップルもすでに素知らぬフリ。
とてもじゃないけど、このままの精神状態で家になんか帰りたくもない。
ここで私は回想シーンから現実に戻った。
一応は姿勢正しく座っていられる。
でも心はブルーそのもの。むしろ内出血した青紫色のようになりつつあるかもしれない。
まぁ、そんなわけで今このカラオケに、意気消沈の私がいるのだ。
結局、お酒にもバカにされた形になったけど。。
平日は仕事だから、なんとか気も紛らせた。
でも辛いのは週末。得意の妄想も今は苦しいだけ。
自分の都合のいいような妄想は、子供時代は大好きだった。
それが大人になるにつれ、自分に試練を与えるような妄想に変わって来るのはなぜ?
他人はどうなんだろう?
とにかく今の私はそれがイヤで、さゆみを無理やり誘って出かけ、スケジュールを埋めた。
お互い愚痴友だけど、ここ最近は私が彼女を頼りにしてばかり。
なのに、意外にも私とリュウヤの関係を深く追及してこないさゆみが不思議だった。
あえて気を遣ってくれてるのかもしれないけれど。
でも、いくらなんでもそんな状態が長く続くはずもなく、毎週末さゆみとショッピングやお茶ばかりして約3か月が過ぎた頃、ついに事態が動き始めることになる。
「安佳里、アタシもうしばらくあんたと遊ばない」
(続く)