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48話 わだかまり

 いきなり頭を下げられても全然意味がわからない。

 戸惑いよりも驚きの感情の方が上。

 昔から豪快で強気な物言いのギンゾーにとって、小娘にすぎない私にひれ伏するなんて前代未聞。 

 信じられないけどこれが現実の光景。

 いくら妄想族の私でも回想と現実の違いくらいわかる。

 

 そんな私の驚きを知ってか知らずか、更にギンゾーは頭を床にこすりつけながら謝罪の言葉をしゃべっている。

「本当に申し訳ない。この通りだ安佳里」


 本当に不可解だった。

 ギンゾーはまだ酔っ払っていないようだし、本気で私に謝ってるのに疑問の余地はない。

 でもなんか、そんなマジモードのギンゾーを見ていると哀れに思えてきた。

 大嫌いなギンゾーだけど、寄る年並みに性格が少し丸くなったのかもしれない。


「おじさん、頭上げて。もういいから。なんだかさっぱりわかんないし」

とぶっちゃけ正直な意見も付け加えて言う私。


 ギンゾーは両手をついたままで少し顔を上げたけど、目線は目の前のテーブルよりまだ低い。

 その姿勢のまま、再び口を開くギンゾー。

「安佳里はおじさんのこと嫌いだろ?」

 図星を指す質問に思わず『うん』って即答しそうになったけど、さすがの私もそれは自重した。

「おじさんはどうしてそう思うの?」

「聞いたんだよ。お母さんから」

「えっ?Σ|ll( ̄▽ ̄;)||l」


 私の胸の高鳴りが一気に加速する。

 ───まさか…まさか母が私の秘密をギンゾーにしゃべるなんてことは…


「安佳里がジンギスカンが嫌いだなんて今まで全く知らなかったんだよ」

「は?──あ、あぁ…そのこと」

「おじさんがここに来るたびジンギスカン食わしてもらうから、ここの家族もみんな大好きなんだと思ってたんだ」

「でも私が食べてるの見たことないでしょ?」

「全然そんなこと気にして見てなかった」

 ───(ノ__)ノコケッ!


 ここでギンゾーはやっと床についた両手を離し、姿勢を起こした。

 驚くほど真顔だけど、私を見るとわずかな笑みを浮かべながらこう言った。

「だから今日は安佳里の好きなだけ寿司食ってくれ。な」

「・・・」


 ───そっか。そうだったんだ。だからなんだ…


「おじさん、最初から私にお寿司を食べさせてくれるつもりで…」

「いやいやいや…脂っこいのが食えなくなっただけさ。それに年とるとな、量も食べれなくなるんだ」

「…ほんとに?」

「ホントだとも。おじさんは中トロと穴子さえ食べれば他はもういらん」


 ───だからじゅうぶん脂がのってる魚でしょうが(-_-;)


「もうすぐ出前も来るころだな。江戸前食べるのは久しぶりだ」

「江戸前かどうかわかんないよ」

「ここらへんは江戸前に決まってるさ。鹿児島の親戚の近所にも江戸前寿司があるくらいだからな」

「ふうん…」


 それにしてもホッとした。ジンギスカンは私の秘密の一部ではあるけれど、どうやら私のトラウマに関する直接的なことは知らされてないようだ。

 

 やがて、出前が届き、ついにギンゾーと二人きりの食事会が始まった。 

 これはこれでまた別のストレスがたまるもの。

 なんせ、今まで私はずっとギンゾーを避けてきたわけだから当然の話。

 ただ黙々と食べるしかない。共通する話題なんてありそうもないし、そこまで気を使ったらせっかくのお寿司がまずくなる。

 考えてみたら私にとって回転しないお寿司なんて、人生で初めてなんだもの。


 テーブルに置かれたお寿司の丸い盛り皿。

 私がすぐにしたことは、自分専用の取り皿に食べたいお寿司を先に取り置きすること。

 案の定、ギンゾーから突っ込みが入る。

「そんなことせんでもいい。安佳里の分まで食べたりせんから」

「自分の手前にあった方が食べやすいから…^_^;」

 苦し紛れの言い訳。でも本当の理由は違う。

 ギンゾーの使う割り箸で、ひとつのお皿のお寿司を取り合いたくないから。

 もっとわかりやすく言えば、ひとつの寄せ鍋に他人の食い箸が突っ込まれるのがイヤだから。

 でもさすがにそれをバカ正直に言うのも失礼なことだし。


 そういうときって、全てのことが裏目に出るもの。

 私の心中など知るよしもないギンゾーは、

「安佳里、この中トロは特にネタがいい。大トロに近いぞ。ほら」

と言いながら、自分の食い箸で中トロを挟んで私のお皿に入れようとする。


 ───う!!


 その一言を口には出さずに心の中に押し込んだ。

「食べてみろ。うまいから」

「…うん。でも私、おいしいものは最後に食べる方なの(⌒-⌒;」

 ジンギスカンじゃなくても、ギンゾーとごはん食べるのは至難の業だと悟った私。


 テレビをつけながら食べてたせいで、少しは間が持てた。

 ちょうどお笑い番組『爆笑!Heyカモン』の放送中。

 でもリュウヤはもうここにはいない。一抹の寂しさを感じる私。


 そんな食事中のひととき、またまたギンゾーからの度胆を抜く言葉が私の耳と胸に突き刺さった。

「安佳里…お前…なんだその…」

「???なあに?おじさん」

「だからその…キ、キッスっちゅうか…せ、せっぷんができないんだって?」


「!!!!」

                (続く)

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