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45話 怒りのコント

「黙って聞いてりゃ好き勝手なことグダグダ言いやがってゴラァ!」


 男言葉だろうがなんだろうが、本当はそう言いたかった。

 めちゃくちゃそう言いたかったのに……

 でも言えなかった。。言えなくなってしまった。


 確かに勢いよく部屋には入った。でも目の前にいるのはまばゆいオーラに包まれた妖精。

 悔しいけど可愛い…可愛すぎる。こんな彼女が悪態をついてるなんて信じられない。

 クリッとしたまんまるのつぶらな瞳。髪はショートなはずだけど、ウェーブのかかったウィッグ&エクステ。

 洋服はショートワンピで、いやらしくない程度の光沢が更に彼女の清楚なイメージを引き立たせている。

 そんなリリアの強烈なインパクトにひるんだ私は言葉を失った。


 一方リリアも突然の私の出現に、丸い目を更に大きく見開いて驚きを隠せないでいた。

 不穏な空気。ピリっと引き締まったムード。言い知れぬ静寂。

 けどその静寂は、ほんの一瞬だけで破られた。

 それはリリアが放った次の一言で、私のひるんだ気持ちが一気に吹っ飛んだから。

 


「ば…化けものっ!!」


 明らかにこの女は私を見てそう言った。なぜこの私が化け物なの?

 その答えはすぐにわかった。

 私の立ち位置からすぐ横にある机の上のスタンドミラー。

 そこに映った自分の姿を確認したとき、正直私もビクッとなった。

 雨に打たれて濡れた前髪がまばらに垂れ、その合間から目を覗かせている私。

 洋服も肌にピタッとまとわりつくほどの濡れようで、まさにみすぼらしい限り。

 そんな女が急に人前に現れたら、驚くのも無理はない。

 そりゃ無理はないけど……

 だからって、化け物呼ばわりされる筋合いはない。断じてないわ!


「誰が化けものですって?あ?もういっぺん言ってみなさいよ!」

と、すごむ私。ビビらせてやろうと思ったけど、その甲斐もなくあっさりスルーされた。

「あ、お部屋の消臭剤と同じ匂い」

「Σ|ll( ̄▽ ̄;)||l」

 リリアは天然なのか頭の回転が速いのか、すでに冷静になっていて、私を頭の先から足の先まで見下ろしている。

 そしていかにも『アタシの勝ちね』と言わんばかりの勝ち誇った表情。

 これは私の被害妄想なんかじゃない。


「誰?」

 リュウヤに目配せして言い放つリリア。

「この人は…俺の…」

「あーわかった!」

 リュウヤが言い終わらないうちに言葉を遮るリリア。

「この人…もしかしてアレじゃない?ほら、あなたがテレビで言ってた人。6年か8年かずっと好きだったっていう…」

「だったら何だって言うのよ!」

 できるだけ低い声で言った私。こんな時、高音でわめくような声なんか出したら、余計リリアに見下されるだけだもの。

「ふーん。本当だったんだ。てっきり作り話かと思ってたのに」

 リリアは腕組みをしながら、ふてくされたような態度をした。

「リュウヤにはアタシより、そっちの一般人の方がお似合いね。フッといて良かったわ」

 再び沸々と湧いて来る私の怒り。

「あんた有名人だからって、ナニ様のつもり?」

「アタシはリリア様よ。くたびれた芸人に捨てられた女って世間にレッテル貼られたみじめなモデルよ」

「みじめですって?」

「みじめよ。だってそうでしょ。アタシにもプライドってもんがあるわ」

 驚いた。よくもシャアシャアと言えるものだ。

 普通、自分にそんな嫌味な部分があったとしても、自分が有名人なら人前では隠すもの。

 私の声が怒号に変わる。

「ふざけんじゃないわよ!あんたね、リュウヤがどれだけあんたを気遣ってしゃべったと思ってんの!」


 リリアはやれやれといった表情で、私から目線をそらせた。

「もういいわ。リュウヤはアタシのお下がりだけど、あなたにあげる。別に恨まないから安心して」


 私はもう我慢できなかった。この物言いはなんだ?まわりからチヤホヤされすぎるとこうなるのだろうか?

 私の煮えくり返るこの気持ちを、言葉に表すのはもう無理。限界。


 足早に4,5歩ほどリリアに歩み寄った私。

 そのときすでに私の右手はサイドハンドの投球フォーム。


 ────パシーンッ!


 無言で平手打ちをお見舞いしてやった私。

 リリアは体のバランスを崩して床にへたりこんだ。

 頬をおさえて再び彼女が私に視線を合わせたとき、その目はもう涙目だった。

「親にもぶたれたことないのにっ!」

 甲高い声で何を言うかと思ったら、こんなふざけたこと言うリリア。

「ガンダムのアムロみたいなこと言ってんじゃないわよっ!」

 私のこの言葉になぜかリュウヤが反応。

「安佳里、そんなことよく知ってるな。タイムリーだったっけ?」

「バカ!再放送に決まってるでしょ!」


 ぶたれてからのリリアは態度が急変。

 ふてぶてしさから一気にわめき散らすようになった。

「なによもうっ!ほっぺた腫れたらどうしてくれんのよ!」

「知らない」

「お仕事できなくなったら責任取ってもらうわよ!傷害罪で訴えるからっ!」

「どうぞどうぞ。そのときは私が世間に全てを公表するわ」

「うぅ……」

 今度は私が1枚上手。私の勝ち。

 ……だと思ったら、リリアの意外な反撃が待っていた。


「なにさ変態っ!」

「は?」

 怒るよりもマジでキョトンとした私。

「何言ってんの?なんで私が変態なのよ!」

 リリアが頬をおさえながら言う。

「どこから盗んで来たのよそのパンツっ!」

「パンツ?え?パンツって……あ!」


 ガ━━ΣΣ(゜Д゜;)━━ン!! 


 そう言われて自分の身なりをチェックした私。

 すると、とんでもないことに気がついた。

 私の左腕には、しっかり男性用のパンツがヒジまで通されていたのだ。

 しかも生乾きのエロいブリーフが。


「こっ、これは…」


 私は激しく動揺した。

 もちろんこれはとなりのベランダから風で流されて来たもの。

 あのとき、リリアに対するあまりの怒りに、私はこのパンツを投げるどころか、腕に引っ掛けてしまったまま部屋に突入したらしい。

 でも、こんな小ざかしい女に付け入るスキなど与えたくない。

 そんな私が何とかこの場をごまかそうと、アドリブで出たとっさの行動は、このパンツをリリアの頭からかぶせることだった。


ヘ (≧□≦ヘ)きゃーー♪


「うるさいっ!タレントならこれくらい平気でしょ!」

「アタシ、お笑いじゃない!モデルだもん!」

「お笑いをバカにすんじゃないわよっ!人前でバカを見せる人ほど、賢い人なのよっ!」

 私はパンツを彼女の顔まで引っ張り下げた。

「うっ!く…くさいっ!ゲホッ!」

 パンツにむせるリリア。

「ウソおっしゃい!ちゃんと洗濯してるはずだわ」

 私はリリアから離れ、リュウヤの脇に。

 彼女は自分で頭からパンツを脱いで、泣きながらわめいた。


「もういやっ!アタシ帰るっ!」

「あんたが勝手に来ただけでしょ!何しに来たのよ全く!」

「リュウヤに土下座してもらうためよ。でももういい。顔も見たくない!リュウヤもあなたも!」

「それは私も同じよ。サヨナラ梅子ちゃん」

「!!!」


 リリアはワンピースを翻し、勢いよく無言で玄関へ。

 彼女がちょうどドアを開けたところに、見覚えのある男が顔を覗かせた。

「あの…すみません。僕の下着がこちらに…あ!それ…」

 ハッとしたリリアが手に持っていたブリーフを男に押しつけた。

「男ならボクサーパンツ履きなさいよっ!もうっ!」

 そんな捨てゼリフを残して彼女は早足にこのアパートから出て行った。

 でも言ってることは適格で、私もその意見には同感。ボクサーパンツが好き。

 今そんなことを言ってる場合じゃないけれど^_^;


 玄関の前でとなりの男が放心状態になっている。

「どうかしましたか?」

とリュウヤ。

「あの…今の横瀬リリア…ですか?」

「…まぁ、そうだけど」


 ────オオーw(*゜o゜*)w


 頭モシャモシャ男のキモい雄たけび。

「横瀬リリアが僕のパンツを持っていたなんて、信じられない!」

「持ってただけじゃないわ。かぶってたのよ」

「!?工エエェ(゜〇゜ ;)ェエエ工!?そんなバカな!」

「本当よ」

「だってまだ洗濯してなかったのに!」

「(ノ__)ノコケッ!」


 男の表情が驚きから一変、至福の喜びに変わった気がした。

「もう、このパンツ絶対洗わないぞっ!」

 そこでリュウヤがボソッと一言。


「洗えよ」

                   (続く)

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