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44話 リリア登場

「いや…俺的にはこの方が良いと思って…」

 リュウヤの明らかに困惑してるような声が聞こえて来る。

「ふざけないで!アタシ、みんなから笑い者よ。落ち目の芸人なんかに愛想尽かされて気の毒ねって」

「ええっ?そんなストレートに言われるもんなのか?」

「まわりの目をみればわかるわ。捨てられた子猫でも見るような目で私を見るもの」


 自分を子猫に例えるなんて『私って子猫のように可愛いんだから!』と言ってるようなもの。

 それに実際には言われてないことを、想像だけでリュウヤに怒りをぶつけるなんて被害妄想もいいとこ。

 徐々にムカつきレベルが増す私。


「でもさ、それってまわりが心配してくれてるからじゃないのか?」

とリュウヤ。でもリリアの語気は強くなるばかり。 

「あんたバカじゃないの?みんな心の中ではザマアミロって言ってんのよ!」


 驚いた。こんなに口が悪くて気の強い一面を持つリリアなんて、当然ながら画面で見たこともない。 

 たまに見るモデル雑誌にも、キュートで可愛い笑顔を振り撒いている彼女。

 しかも可憐という言葉がピッタリくるほど、しとやかな物静かなイメージが出来上がっていて、同姓からも憧れ的な人気がある。

 人って見かけだけではわからないものだとつくづく痛感した私。

 チラッとベランダ前の路地を見る。誰も通行人はいない。一応、今のところはは一安心。


「じゃあ、俺はどうすれば良かったんだよ?正直に『僕は横瀬リリアに捨てられました』って言えば良かったのか?」

と、リュウヤの反論。心の中でひそかに彼を応援する私。

「それも絶対ダメ!私のイメージが悪くなるでしょ!マスコミに何書かれるかわかったもんじゃないわ」

「男を手玉にとる女とか?」

「私にケンカ売ってんの?落ち目のあんたに言われたくないわ」

「梅子あのさ…」

「ちょっと本名で呼ばないでっ!」


 ───|* ̄m ̄)プッ。リリアの本名は梅子なんだ。。


 ムカつきながらもイメージに合わないその名前に、思わず忍び笑いした私。

 外は少しずつ風が強くなって来た。小雨がベランダに差し込んで、私の服も濡れ始める。

 でも私はじっと我慢した。リュウヤがこの女を一刻も早く追いだしてくれるよう願いながら。


「もうあんたに本名で呼ばれる筋合いなんか……んっ?」

 リリアの言葉が止まった。

「どうした?」

「香水のにおいがする。誰かいるの?」

 私の胸の鼓動がドクンと鳴った。ヤバい…

「誰もいねぇよ。さっき部屋に消臭剤まいたから…」


 ───私の香水は消臭剤と同じ香り?(⌒-⌒;


 5,6秒の沈黙、再び口を開いたのはリリアから。

「ねぇ、なんでカーテン閉めてるの?」


 ───(゜o゜;)/ギク!


 リリアは何かを感じ取ったらしい。

 マジやばい。私は心の中でこっちにだけは来ないでと念じていた。

 困ったときの神頼みなど、通用しないと知りながら。


「いつも西日がまぶしいんだ。それよりもさっきの話しだけどさ。俺は梅子にケンカを売ってるつもりなんて全くない」

「だから梅子って呼ばないでって言ってるでしょ!」

「ごめん。つい……でもさ、結局、君は俺にどうして欲しかったんだよ?」

「黙っていれば良かったのよ!」

「そんな無茶苦茶な…あれは生放送だったんだ。あのアナウンサーの質問を交わすことなんてできなかったし…」


 話しが本題に戻って、ベランダへの疑惑はなんとかおさまり、胸をなで下ろす私。

 そんなとき、なぜか私に次なる試練が。

 しゃがみ込んでいる私の頭の上にバサッと何かが飛んで来て覆いかぶさった。

 あまりにも突然のことで、驚きの声を出す寸前だった私。

 すぐさま、頭上のモノを手に取り確認する。


 ───Σ|ll( ̄▽ ̄;)||lパ、パンツ!!


 それは男物のブリーフで、しかもまだ半乾き。

 どうやらこの強風で隣のベランダから飛んで来たらしい。


「す、すみません…」

 背後から例のモシャモシャ頭の男の声。まだいたなんて。。

 振り向きざま、無言でギロッと睨みつけると、男がビクッとしたのがわかった。

 でも私はすぐに、部屋の中の会話に引き寄せられる。


「芸人なら、ちょっと笑わせて話しをはぐらかすくらいしてよね!」

「無理だよあのときは…」

「そんなんだからすぐ落ち目になるのよ。もっと言いようがあるでしょ!」

「どんな?」

「お互いが自然に合わないなって思うようになったとか、スケジュールのすれ違いで会えなくなったとか、ちょっと考えればいくらでも言えるじゃない!」


 なんて女だろう。リュウヤをフッておきながら、その言い方はないんじゃないの?

 ましてや、リュウヤはリリアを気遣った上でウソをついてたっていうのに。

 雨に打たれている冷たさよりも、私の怒りの感情の方が沸々と煮えたぎっていた。

 その後もリリアは一方的にリュウヤを責める。


「アタシのみじめな思い、あなたにはわかるはずもないでしょうね。もう一生の汚点よ」

「・・・・」

「アタシの傷ついたプライドをどうしてくれるの?責任とってくれるの?」

「そう言われても…」

「あなたは引退すればいいだけの話だけど、アタシはまだまだ花を咲かせるの。なのに枯れて行く芸人にコケにされることがどれだけ屈辱かわかる?」

「・・・・」

「せっかくアタシのおかげで世間から注目の的にさせてやったのに!恩をアダで返すってこのことね。この恥知らず!」


 もう限界。とても聞いてはいられない。

 私の怒りはすでにピーク。

 許さない!リリアを絶対に許さない!芸能人かモデルか知らないけど、私にとっては上司でも何でもないただのゲス女。


 ───よし決めた!


 意を決した私は毅然と立ち上がり、勢いよくベランダを開けて中に乗り込んで行った。

                       (続く)

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