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41話 女に嫌われる女

「いい勉強になりました。これが私にとって、乗り越えなきゃならない試練だったと思います」


 画面の中の横瀬リリアが、うるうるした目でしゃべっている。

 途中からテレビをつけた私だけど、たぶんリュウヤとの別れについて話していたに違いない。


 でも私には、涙を浮かべてる彼女を観ても、同情する気には全くなれない。

 モッチーの話を信じている私には、むしろ、しれ〜っとした目で観ているだけ。

 確かにリリア側の言い分も聞くのが本当だけれど、画面の彼女を観ていると、全てがウソ臭く感じてしまう。

 これって私だけ?私の偏見のせい?先入観が強すぎるから?

 いや、絶対これはお芝居に見える。

 同情どころか、よくもまぁこれだけの演技ができるものだと驚くばかり。

 それプラス、腹立たしさも加わって、私は手に持っていたチョコパイを一気に口に押し込めた。

 怒りの矛先がこのおやつとは、なんか自分も情けなくて、また別な意味の苛立ちもある。


 そんな中、リリアは更にこんな言葉をぬけぬけと語る。


「私のファンや、このテレビを観ているみなさんに言いたいのは、チビリおぱんつさんを責めないでほしいんです」

「優しいんですね。リリアさんは」


 ───司会者も彼女の味方なんだ。。


「彼には元々私より好きな人がいただけの話。それをテレビで言ったのは、自分に正直になれたってことです」

「まぁ確かにそうですけど…」

「もし、ウソをつかれたまま彼と付き合い続けていたら、私は今よりもっと傷ついたでしょう。これは彼の私に対する思いやりなんです」

「思いやり…ですかね?言葉が悪いかもしれませんけど、あなたは彼に捨てられたんですよ?」

「ええ。でも…私は彼に対して恨みも悔しさもありません。ホントになにも。。」

と言いながら、リリアは大粒の涙を流した。


 ───うまい。。すごい演技。アカデミーの新人賞並みだわ。


 もはや苛立ちを通り越して、感心してしまった私。

 これでリリアへの同情票はうなぎのぼり。好感度UPも間違いなし。

 表の顔は童顔でフェミニンな清純派モデル。

 でも実際はかなり知的な策略家であり、レベルの高い演技派。

 凡人の私には同じことなんてきないし、なすすべもない。

 いつかリリアの化けの皮を引っ剥がしてやりたいと思っても無理な話。


 憎しみ───それは人間として醜いことだけど、今の私は彼女に対してその感情しかなかった。


 

 翌朝の通勤電車の中。

 男子学生のバカ数人が、さっそくその話題を持ち出していた。

「昨日おしゃれ気分観たか?リリアって、めちゃくちゃ可愛いよなぁ」

「おう、観た観た。リリア、いいよなぁ。年上でも彼女にしてぇよ」

「だよなぁ。それにしてもリリアを泣かせたあのパンツ野郎、ボコボコにしてやりてぇな」

「全くだ。落ち目芸人のくせに、身の程知らずもいいとこだ」


 やっぱりこいつら男どもは、見事に彼女の術中にハマっている。

 あの茶番なお芝居を見破る有能な男子なんて、いやしない。

 そんな男子を求めても所詮それは無理な話。みんな彼女のとりこなんだから。


「でもよ、パンツ野郎が言ってた“忘れられない女”なんてよぉ、リリアより可愛いんかな?」

「んなわけねぇじゃん。あれ以上の美人どこにいんだよ。どうせブサイクに決まってんじゃん」

 ちょっとカチンと来た私。

「その女もパンツかぶってたりしてイヒヒヒヒー♪ヾ(≧▽≦)ノ彡☆ばんばん!!」

「がハハハハハ(⌒▽⌒)ノ彡彡☆ぱんぱん」


 ───て、てめぇらぁ…ぶっ殺しちゃろかぁ(`ヘ´#)


とハラワタの煮えくりかえっていた私。自分の顔が火照って来るのがわかる。

 ───いけない。ここは冷静にならなきゃ…


 なんと言ってもこいつらはまだ思春期の男子。言葉を真に受けてはダメ。

 好き勝手に話すまだ青二才の男子。やがて彼らの話は男の本能的な話題へと変わっていった。

「しかしよぉ、あのパンツ野郎うらやましすぎるぜ。別れるまで一体リリアと何回ヤッてたんだろう?」


 ───下ネタかよっ!全くこのクソガキどもは…(-_-;)


「俺には想像できんな。ヤッてないんじゃないの?」

「バカ!付き合うってことは、ヤリまくるのが当然だろが!」

「でもよぉ…チクショウ!そんなこと想像したくねぇ!」

「だったらすんなよ。凹むわマジで俺も」


 こんな低レベルな会話を人前で平気に話す男子に聴き耳を立てている私も私。

 iPodでも聴いていれば良かった。


 それにしても世の男たちをここまで自分の味方につける横瀬リリアはやっぱりすごい。

 私はモッチーから事情を聴いてるからだけど、もしそうでなかったら、ひょっとしてこの学生たちと同じ意見だったかもしれない。

 そう思うと、少し怖くなってきた。そして、それと同時に余計な迷いも生じてくる。

 それは決して私が思ってはいけないこと。惑わされてはいけないことなのに…


 ───もし、モッチーの言うことが違ったとしたら?

    リリアの言葉が本当だとしたら?あれが演技じゃなかったとしたら?


 モッチーもリュウヤも信じているのに、そしてリリアに対してもムカついているにも関わらず、こんなことが頭によぎってしまう私。

 今日の仕事帰りにはリュウヤの家へ行く予定。

 そのとき、リュウヤの口から直接聞けばハッキリするはず。

 そうよ。それでいじゃない。今迷うことなんてない。

 もう私は迷っちゃいけないんだ!

                    (続く)

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