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39話 天然お人よし

  じわじわと胸に込み上げてくる熱いものがあった。

 私は今ベッドの上。私の定番とも言える場所。眠いわけじゃないけれど、思いにふけるにはベッドが一番。

 これは子供の頃から変わらない。

 横向きになったまま、目は閉じないでいるけれど、向ける視線はどこでもない。

 こんなときの私の目に映ってる光景は、いつもリアルタイムのものではなくて、過去のシーンをリピートしている。


 モッチーと公園で話したこと。

 それはモッチーがリュウヤに対して感じたことであり、確信したこと。

 長いベンチの真ん中に私が座ると、モッチーはすぐ隣りには座らずに、ベンチの端に腰かけた。

 気配りなのか、シャイなのか、そんな一面のある人。デブだけど決して悪い人ではなさそう。


「安佳里さんも見たでしょう。あいつの不自然な態度」

 モッチーは隣の私を見ずに、遠くの正面を見たまま私に話かけた。

「ええ…確かに不自然だったかも」

「真実を言ってる人間はもっと堂々としてるもんです」

「でも、寝起きだったし、酔いも覚めていなかったからかもしれないわ」

「そりゃそうかもしれませんけど…安佳里さんは本当にそう思いますか?」

 ちょっとためらって答えた私。

「……いいえ」

「でしょう?あいつは芸がうまくても、芝居は下手です。あの言動は明らかにウソです」

「だとしたら、その理由は何だと思うの?」

 この質問を投げかけると、モッチーは私の方へ振り向いた。

「あいつは安佳里さんのことが本当に好きなんですよ。昔からずっと。今もその気持ちは変わらないままなんです」

「・・・・」

「あいつはさっきこう言ってましたよね。アナウンサーの誘導に流されてウソをついたって」

「そうね…」

「でも、それこそウソなんです。真実は、誘導に流されて本当のことを言ったんです」

 私はしばし頭の中を整理した。

「えっと…ちょっと待って。じゃあリュウヤが、横瀬リリアを捨てたって発言したのも、流れでしゃべってしまったってこと?」

「それは違います。そのウソはおそらく最初から言う予定だったと思います」

「ん〜ちょっとわかんなくなってきたんだけど」

「つまりですね。あいつが誘導されてウッカリしゃべってしまった事ってのは、安佳里さんを思い続けていたという事実のみです」

「それがウッカリ?」

「ええ。あいつはリリアを捨てたというウソの理由に、そこまで素直に言う気はなかったと思います」

「ん〜・・・」

「だってそうでしょう?単に『好きな人が別にできた』って言えば済むことなんですから」

「そう…なのかな…」

「僕はそう確信しました」

「でもなぜリュウヤは自分の方から彼女と別れた事を言ったのかわからないわ」

「まぁひとつは、司会者に質問されたってのもあるでしょうけど、たとえ質問されなかったとしても、自分から答えは言ったと思いますね」

「そこがわからないの。なぜ自分に非難が集中するようなことを言う必要があったの?」

「その点ならこう言えます。あいつはバカがつくほど、お人好しだからです」

 キョトンとした私。

「え??ごめんなさい。私ちょっと意味分かんないんだけど…」

 モッチーが顔の方向を再び正面に向き直した。。

「そもそも横瀬リリアってタレントは、力のある大手の事務所に所属してましてね、その中でも特に清純派で売ってるんですよ」

「今どき清純派ねぇ…」

「会社も彼女に力を入れてます。そんな彼女が付き合ってる男を利用して捨てたということが公になればどうなると思います?」

「あぁ…なるほどね。彼女のイメージが総崩れになるってことね。会社にとっても不利よね」

「その通り!」


 そんなことを聞いても私は全く腑に落ちなかった。

 だからってリュウヤが…リュウヤが………ハッ(゜〇゜;)


「気づきました?さっきも言ったように、あいつは本当にお人好しです。人に気を遣い過ぎます」

「もしかして、リュウヤはリリアのイメージを守ってやったってわけ?」

「そういうことです」

「いいだけ利用されて捨てられたのに?」

「そう。捨てられたのにも関わらずです」

「そんなのって…自分がバカを見るだけじゃない。天然のお人好しだわ」

「残念ながら…^^;」

「そこまでして何でリュウヤが悪い人にならなきゃなんないのよ」


 私は高ぶる感情を抑え、モッチーを見据えながら話していた。

 それとは逆に彼は私と目も合わさずに正面を見ている。

 たまに通る散歩のお年寄りたちが、不思議な目で私達を見ていた。


「確かにあいつは天然です。でも…よくよく考えてみるとですね。それにもまだ他に理由があると僕は思いました」

「まだ他の理由…?一体どんな?そんなこといつわかったの?」

「今です(^_^;)」

「(ノ__)ノコケッ!今?なんで?」

「それがですね。あいつの性格を想像しながら、安佳里さんと話しているうちに、なぜかわかって来たような気がするんです」

「モッチーさんて、リュウヤのこと、随分詳しく知ってるのね」

「ええ。まぁ…親友ですから。僕がこんな売れない芸人でも、いつも気にかけてくれる奴なんです」

「そう…」

「僕はあいつに結構相談にのってもらってるんですよ。逆にあいつは僕にはあまり言わないですけど、長年ああいう性格を見て来てるし、わかりますよ」

「それでもすごいわ。感心しちゃう」

 少し照れた様子のモッチー。でもすぐに話しは本題に戻した。


「で、その理由の事なんですが…極めて単純だと思うんです」

「単純なの?」

「たぶん。複雑な心理分析とか、そういうんじゃなくて、原点に戻って考えるとわかりましたよ」

「それって……もしかして私のこと?」

「そうです。つまり、あいつはとにかく安佳里さんのことがずーっと好きで、忘れられなかったってこと。その一点です」

「ウソ発言のもうひとつの理由がそれ?よくわかんないけど…」

「繰り返すようだけど、とにかくあいつは安佳里さんがずっと昔から好きだった。その継続していた気持ちの中で、横瀬リリアと付き合い始めた」

「・・・・」

「わかりますか?あいつには後ろめたさがあったんです。安佳里さんに秘めた思いをしまい込んだまま、リリアと交際した」

「リュウヤ…」

「あいつはそんな自分が許せなかったんです。二股を賭けていた自分に非があると思った。だから自分は世間からバッシングされても当然だと思った。そしてついには、自分が悪者になる決意を決めたんだと思います」

 

 私は言葉を失っていた。

 それがどれくらいなのか、一体何分間呆然としていたのか、帰宅してからも記憶にない。

                       (続く)

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