3話 3人目・ユースケの巻(前編)
私はキスが大キライ。
そんな事情も知らずに私に告白して来た気の毒な3人目の彼。
そう、私だって少しは相手に申し訳なく思っている。
誰だって、好きな人とキスしたいことくらいわかる。
特に男子の場合、思春期にもなると、頭の中はキスどころか、女の子とエッチすることばかり考えていたとテレビのお笑い芸人が言っていた。
とてもじゃないけど、私はキスの段階でNGだもの。
その先に進むことなんて不可能。
キスに対しての嫌悪感────あの過去の記憶。。
決して彼氏がいらないわけじゃない。むしろ欲しい。
キスさえしなければ、手を繋いでデートもしたいし、旅行も行きたい。
でもそんなことなんて叶うはずないと内心思っている私。
そんな中、私に告白したユースケは、過去の二人に比べるとずっとマシだった。
「まずは1回でいいからデートしてくれないかな?それで俺のことが気に入らなかったら、2回目のデートはなくていい」
“へー、言うじゃないの”と私は思った。
男のたくましさを一瞬感じた私は、とりあえず彼を受け入れることに。
でも実際の話、彼との初デートでは、たくましさのかけらも感じなかった。
はっきり言ってユースケは“なんちゃってナルシスト”
二人で街を歩いていても、ショーウィンドウに映る自分を見つけると、必ず髪と顔の表情をチェックしている。
更に驚いたことに、彼は自分の歩く姿もチェックする。
わざわざ来た道を5歩下がり、再び前進しながら横目でウィンドウを見る。
「何してんの?」
わかっていながら私が突っ込むと、
「うん。将来モデルになるかもしれないから、姿勢良く歩くように心がけてるのさ」
──だそうだ。
でも意外に彼は愛嬌があるので憎めないキャラ。
それに言葉にトゲもなくて気遣いもしてくれる。
ただ難点なのが、ショーウィンドウを見つけると、決まって彼はまた同じこと繰り返すこと。
髪の乱れをチェックし、再び背面歩行で5歩下がる。
しかし、この日3箇所目のショーウィンドウで恥ずかしいドジをしてしまう。
下がる途中で、後方から来る通行人にぶつかってしまった。
普通ならヤバイって思うんだけど、吹っ飛んだのは彼の方。
そう、後ろにいたのはお相撲さんだったから。
どこの部屋の力士かは知らないけど、200kgはありそうに見える(^_^;)
「おわーっ!(ノ__)ノ」
そんなわけで、雄たけびと共にユースケは、トランポリンのように弾き返された。
それを目の当たりにして笑いが止まらなかった私。
そういったドジな部分も、ある意味ひとつの個性に思えたので、この事をきっかけに2回目からのデートも重ねて行くことになった。
そんな彼が私にキスを求めて来たのは、付き合ってそれ程先のことではなかった。
私は考えた。過去の二人のような失敗を繰り返さないためにも、私の秘密を正直に打ち明けた方がいいと。
6回目のデートのとき、ついに私は“キスぎらい”の理由をユースケに告白した。
数分間、私の話に耳を傾けていた彼は、驚いていたと同時に笑いもこらえていた。
私に失礼だと思ったのだろう。顔がヒクヒクしてたけど、決して笑わなかった。
その顔を見ている私の方が本当は笑いそうだった。
彼が私に言ってくれた言葉。
「そういうことなら、安佳里がキスできるようになるまで、俺が協力してやるよ」
こんな言葉を聞くと私、うるっと来ちゃった。この人に打ち明けて本当に良かったと思った瞬間でもあった。
あくまでこの時だけは。。
(続く)