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37話 彼のアパートにて

 アパートのドアを中から開けてくれたのは巨体なデブ。

 体の横幅がハンパじゃなくて、この狭い扉からどうやって中に入ったんだろうと思うほど。


「安佳里さん…ですね?電話でお話させてもらったボタモッチーです」

 言われなくてもすぐにわかったけど、これほどの力士体型だとは予想外。

 どう見ても芸人には向いてなさそう。

 デブキャラタレントなら他にも結構いるし、お客さんがドン引きしちゃいそう。

 むしろ相撲界の方がピッタリ。てか似合い過ぎ。


「リュウヤは?まだ寝てるの?」

 私はこの関取に問いかける。

「ええ、奥にいます。どうぞ中へ」


 そのまま黙って後ろからついて行く私。

 デブの後頭部から首にかけてのタプタブなお肉が横しわになって、2段のカガミ餅に見えた。

 もちろんそんなこと、本人には言わないけど。

 

 玄関から茶の間まで、狭い廊下が2メートルほどあり、この巨漢芸人は体を横にしてのカニ歩き。

 前向きに歩くと廊下を進むことができない。

 とは言っても、横向きになったところでお腹が壁につかえている。

 そんなとき、彼はおもむろに息を吸い込んでお腹を数センチ凹ませながら奥へ進んだ。

 可笑しすぎてちょっと吹き出しそうになった私。

 下手なコントを観てるよりずっと面白いかもしれない。


 ───いけない。こんなときに笑ってちゃ^^;


 すぐに気を取り直していよいよリュウヤと対面へ。

と言っても、彼は床に寝転がって爆睡中だった。

 テーブルの上には、空になった焼酎の1升びんや、飲み干した缶ビールなどが散乱している。

 窓も閉め切った陽あたりの悪い部屋の中。アルコールの匂いがかなり充満している。

 いくらお酒好きな私でも「うっ」となるほど鼻につく。


「起こしてもいいのかな?私」

 私に背を向けて寝ているリュウヤ。

 ぐっすり寝入ってる彼を起こすのも何となく気の毒。

 私は彼の肩をゆするのをためらった。

「平気ですよ。安佳里さんならきっと大丈夫です」

 デブにそう言われても“きっと大丈夫”の根拠がわからない。


 その時だった。リュウヤが寝返りを打ってこちらに向き直って薄目を開けた。

 ちょうどその顔の正面にしゃがんでいた私。

 でも目と目が合ったわけじゃない。うつろな目のリュウヤがボソッとつぶやいた。


「パンチラ…」


「Σ(ノ°▽°)ノハウッ!」

 タイトミニでしゃがんでいた私。

 リュウヤの言葉に驚いて、後ろに尻もちをついてしまった。

 パンチラどころか、開脚パンモロ状態。

 そしてなぜかその瞬間、我に返ったリュウヤ。


「あ、安佳里っ!」


 リュウヤが飛び起きて叫んだ。

「えっ?…えぇ?これって夢?」

「違うよ。一応」

 体制を整えてとりあえず正座になった私。

「ここ俺んちだよな?何でお前がここにいんの?」

「私が来たからよ」

「???何でここがわかった?」

 私は隣の巨体をチラ見して言った。

「この“ブタモッチー”さんに教えてもらったの」

 この言葉には即座に反応した本人。

「あのー、確かによく言われますけど僕、ブタモッチーではなくて、母田ボタモッチーですが(^_^;)」

「ハッ(゜〇゜;)」

「安佳里、わざと言った?」と、リュウヤ。

「違う違う。ごめんなさい。わざとじゃなかったの。本当に間違えちゃったの^^;」


 見た目のインパクトで、つい言ってしまった言葉。

 だって豚にしか見えないんだもの。それかチャーシューの塊。

 でも私も大人。失礼な発言はきちんと謝った。

「ホントごめんなさい。もう絶対言わないから。じゃあボタさんて呼んでいい?」

「あのー、省略して呼んでくれるなら、モッチーの方が…( ̄ー ̄;」

「わかったわ。じゃあそうする。モッチーね」

 今日はホント不思議な日。やること見ることみんなコントみたいだわ。


 少し正気に戻ったリュウヤがモッチーに小言を言った。

「何でここに呼ぶんだよこのバカ!安佳里に迷惑だろ!」

「…わりぃ。でももう呼んじゃったから。アハハ(^□^;A」

 私はリュウヤに言った。

「違うよ。そんなことない。迷惑なんかじゃない。私が来たいって思ったんだもん」

「ウソつけ!無理すんなよ」

「無理なんてしてない」


 一呼吸おいてからリュウヤが言った。

「お前、ひょっとしてテレビ観てたのか?」

「うん…観てたよ」

「そっか。じゃあ尚更だ。俺があんなこと…テレビであんなこと言っちまったから来たんだろ?」

「それもあるけど…」

「あんなこと気にすんな。ウッカリ言っちまっただけだ」

 リュウヤは再び座り直して頭をかいた。

 私は彼の意味不明な発言を問いただしてみる。

「わかんないよ。ウッカリって、どの事に対して?横瀬リリアをフッたこと?」

「……いいや。そうじゃない」

 リュウヤの口調がやや重苦しくなったように感じた。

 私は彼の次の言葉を待った。


「安佳里のことが……忘れられないって言ったことさ」

「??それがうっかり?」

 思わぬ言葉にキョトンとしてしまった私。

「…あぁ、あれは…ウソだし」

                (続く)

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