35話 バッシング
リュウヤは一体何を考えてテレビであんなことを言ったのか、私には理解できなかった。
結局、お笑ネタもしないまま、その時間を謝罪に費やした彼。
番組自体も何の盛り上がりもないまま終了した。
頭が混乱する私。
一体私はどうすればいいのか、何かすべきなのか?何もしなくていいのか?
考えれば考えるほど余計にわからなくなった。
私はリュウヤが好き。最近やっとそれに気づいたばかり。
そんな折、リュウヤはテレビで私に対する気持ちを告白してくれた。
普通ならこれで両思いが成立して、めでたしめでたしというところ。
なのに、リュウヤにはそう簡単には済まされない重大な問題がある。
番組放送が終わった次の日のワイドショーでも、この話題を取り上げられた。
そのほとんどがリュウヤバッシング。
彼が横瀬リリアに対して、何の配慮もなくひどい仕打ちをしたというのがメイン記事。
その1.前の彼女が忘れられないという身勝手な理由で、現在の彼女を簡単に捨てた。
その2.テレビでけじめをつけたつもりが、リリアの心とプライドを余計に傷つけた。
その3.リリアを捨てて間もないのに、メディアを使って前カノにアピールするのは卑劣極まりない。
その4.とにかく常識から外れた自己中心的な愚かな行為である。
こんな意見が飛び交って、リュウヤを支持するコメンテーターや芸能リポーターなどは一人もいなかった。
リュウヤへの風当たりは予想よりはるかに厳しく、引退やむなしと誰もが納得する結論に達していた。
正直なところ、私もマスコミと同じ思いだった。
私がリリアの立場だったら、たぶん心がズタズタになっていたと思う。
きっと取り乱して手のつけられない女になっていたかもしれない。
そう思うと、せっかくの両思いであったとしても、嬉しさが半減、いやそれ以下になってしまう。
───リュウヤ…どうしてもっと早く言ってくれなかったのよ。。
リリアと付き合う前にもっと早く。。
このことさえなければ、私はリュウヤの元へ駆けつける勇気が湧いたかもしれないのに。
もう無理。きっと無理。もうあなたのそばへは行けない。。
何度も彼にメールをしようと思いながらも、いつも躊躇してケータイを閉じている私。
そんな繰り返しをしているある日、リュウヤ側からのメールを受信した。
電光石火のごとく、メール内容を確認する私。
“安佳里、先週のテレビ観てくれたかどうかわかんないけど、今回の件では君にもこれから迷惑をかけるかもしれない”
「えっ?…これから?」
すぐに意味が呑み込めない私。メールの続きを急ぎ読む。
“マスコミが君を探し当ててコメントを求めて来るかもしれない。その時は俺のことなんか知らないとでも言ってくれ”
文章はこれだけ。
なるほど。これで少しは意味がわかる。
でも私のところにマスコミが来るなんて……
本当に来たらどうしよう?マジで困るもの。居留守使おうかな?
その後、不安と気疲れからか、不眠症も加わって、仕事も3日休んで部屋で寝込んでしまった私。
ごはんもほとんど食べれなくて、母も心配してくれたけど、リュウヤに関してのことは何も触れて来なかった。
たぶん私への気遣いだと思う。感謝しなくては。。
そんな私のケータイに、次なる予想外の人からの着信コールがかかって来た。
でも番号に見覚えがないし、当然登録もされてない。
きっと間違い電話だろうと思いつつ、とりあえず電話には出てみた。
案の定、声に聴き覚えなどない男の声。
「もしもし、そちらは安佳里さんのケータイですか?」
───ゲッ!Σ(・ω・;|||知らない人が私の名前を知ってる!
「失礼ですが、あなたは誰…ですか?」
「あ、大変失礼しました。僕は母田モッチーといいます」
「ふざけないで!切ります」
「あーーっ!切らないで切らないで!僕はチビリおぱんつと同期の芸人なんです」
「ボタモッチーなんて聞いたことないわ」
「すんません。僕はまだ売れてないので…(^_^;)」
「で、何の用です?なぜ私のケータイ知ってるんですか?」
「あのー実はですね、今、チビリおぱんつの精神状態がかなり鬱でして…」
「リュウヤが…」
「ここ毎日、酒に溺れて正気を失いかけてます。今は僕の横で爆睡してますけど…」
「・・・・」
「今のこいつを救えるのは、安佳里さんしかいないと勝手に僕が思いまして」
「ホントに勝手ね」
「すいません。。とにかく何とかしないとと思いまして、寝てる間にこいつのケータイメモリを見たら、安佳里さんが登録されてたので、かけてしまったというわけです」
「そんなこと言われても…」
「こいつの心はかなり参ってます。このままじゃ精神分裂してしまいそうなんです。何とか救ってもらえませんか?」
私の心が揺らいだ。
何とかしてあげたい気持ちの反面、自業自得だという側面もある。
「私、ちょっと思うんですけど…」
「なんなりと言って下さい」
「ええ。ちょっとリュウヤには酷かもしれないけど、もう一度正式に、横瀬リリアさんへの謝罪会見をした方がいいんじゃないかしら?」
「えっ?」
「仮にそれができないとしても、ちゃんとリリアさんにはどこかで謝罪した方がいいかと…」
「ん〜〜〜」
なぜかボタモッチーという芸人は、唸って考え込んでしまった。
数十秒のち、彼はやっと口を開いた。
「それはできません。ていうか、する必要はないんです」
そんな意外な言葉に疑問しか残らない私。
「私には意味がわかりませんけど?」
「あのですね・・・」
ボタモッチーの声のトーンが低くなり、話すペースも若干スローに変わった。
まるで抑えきれない感情を押し殺しているかのように。。
「安佳里さんにだけ言います。実はですね、こないだの生放送でこいつはウソを言ってます」
「えっ?ウソ??」
「はい。こいつは自分がリリアをフッたと言いましたが、事実は全くその逆です」
「・・・・」
「チビリおぱんつは彼女にボロキレかボロカスのように捨てられたんですよ」
「!!!!」
(続く)