34話 一発屋トップ3
日曜午前10時からの人気バラエティ番組、朝生!珍客サンデー。
今週のゲストは去年、世間をある程度ブレイクさせたピン芸人の3人。
しかし言葉を変えると、今や人気も急激に下火になっている3人でもある。
そんな3人がなぜ番組に呼ばれたか?
それは今週の番組のサブタイトルが物語っている。
“一発屋芸人特集!今日でこのネタも見おさめ?”
いかにもブラックユーモア過ぎて苦笑いしかできない。
そしてその中の一人に“チビリおぱんつ”ことリュウヤがいる。
他の芸人のことはあまり詳しくないけど、母から何かのついでに聞いたことがある。
一人は、自称すっとこどっこいの“すっとこドンキー”
芸風としては毎回ステージ上で、とても食べられる代物とは言えないオリジナル料理を作る。
ウケの良かった料理としては、すっとこ土鍋、すっとこどんぶり、すっとこドリンクなどがある。
そしてもう一人は女性で“寝耳二水菜。
世間からはすでに“ミズナちゃん”という愛称で定着している。
自虐ネタが世間で意外にウケて、有名なオチとしては、
「こんなんなったらあかんでぇ〜!」
と、自分の丸い顔や体型をボロカスに卑下し、更には性癖や失恋話までも暴露して笑いをとる。
なんとも悲しい芸風に思えるのは私だけなんだろうか?
メイン司会は以前リュウヤが単独で出演したときと同じ女子アナ。
各自、司会者と10分間のフリートークがあり、その後5分間のネタ披露。
トップバッターは、すっとこドンキー。二番手はミズナちゃん。
でも残念なことに、この二人のトークもネタも全く笑えなかった私。
スタジオ内でも笑いが起きず、むしろ気の毒に思うほど。
司会の女子アナの引きつる愛想笑いも視聴者にはバレバレ。
やはり時代の流れの変化に対応できない芸人はこうなる運命なのか。。
そしていよいよリュウヤの出番になると、なぜか恐ろしく緊張してしまう私がいた。
ならば観なければいいだけなのに、観ておかないとと思う真逆な自分もいた。
まずはフリートークから。
司会の女子アナがリュウヤのプライベートに迫る。私のドキドキ感も更に高まった。
「以前、チビリおぱんつさんがこの番組に出演されたときに言ったこと、覚えてますか?」
「全然覚えてません」
「あら(ノ__)ノコケッ!」
「教えてくれたら思い出すかもしれませんけど(^_^;)」
私は部屋のテレビを食い入るように見入っていた。
積極的に質問を投げかける司会者。大体その意図はわかる。
ネタに飽きた視聴者に興味を持たせるのは、ゲストのプライベートな部分を際どく攻めること。
女子アナが質問を続ける。
「チビリおぱんつさんは高校時代から6年間、ずっと好きだった女性がいるって言ってたじゃないですか」
「あー…はいはい。そのことですか」
───リュウヤはわざとボケたんだろうか?
「それじゃ聞いちゃいますけど、それって今交際中の横瀬リリアさんのことだったんですか?」
「いえいえいえ、それは違いますよ。一般の人ですからリリアさんとは関係ないです」
「あら、それじゃ結局その彼女に告白しないまま、リリアさんと交際を始めたということですか?」
「いやその…」
言葉を濁すリュウヤに女子アナの表情がハッとなり、すぐに謝罪の言葉に変わった。
「あ…すみません。私、余計なことしゃべったかもしれません。別にリリアさんとの仲を裂こうとしてるわけじゃなくて…」
「あー平気ですよ。わかってますから」
意外に淡々としているリュウヤ。
「生放送ですので、言えないことは無理に答えていただくて結構ですから」
と一応弱腰に見せているような女子アナ。でも本音は絶対違うはず。
「いいんですよ。ここで僕がちゃんと答えないと、見ている視聴者の方も面白くないでしょう」
「えっ?じゃ…じゃあ」
女子アナの顔から、してやったりという表情がうかがえた。
「ハッキリ言いますよ。僕は横瀬リリアさんとはもう終わってます」
「Σ(ノ°▽°)ノえええええ!」
このビックリ発言にはテレビを観ている私も驚いた。まさにダブルショック。
一つは付き合っていたという噂が事実だったこと。
もう一つは、それがあっという間に破局していたこと。
司会の女子アナも、どう話を進めていいかたじろいでいて、オーソドックスな質問をするのが精一杯。
「それは、チビリおぱんつさんがフラれたってことでいいんですか?^^;」
「ハハ…普通はみんなそう思うでしょうね」
何やら意味深な発言のリュウヤ。
「あの…もしよろしかったら、破局の原因を教えていただけますか?」
「ええ」
リュウヤは簡単に返事はしたけど、緊張した表情がありありと観てとれる。
「横瀬リリアさんには本当に申し訳なく思っています。お付き合いを終わらせたのは僕の方なんです」
「Σ(ノ°▽°)ノうっそおぉぉぉぉ!」
女子アナと一緒に同じ叫び声をあげたテレビの前の私。
「一体、何があったんです?今大人気のモデルさんをフルなんて…」
「はい。僕はバカなんです。理由は至って単純なんです。僕は…僕はどうしても高校時代から好きだった彼女が忘れられないんです」
「!!!!!」
これで私はトリプルショックになった。
「関係者の皆様や、リリアさんのプライドも傷つけてしまって本当に申し訳ないと思ってます。テレビで言うべきことじゃなかったんですけど…でも…」
「でも…何です?」
「万が一、僕の忘れられない彼女がこのテレビを観てくれているなら、この思いを伝えたいと思って…」
私は固まっていた。廊下からドカドカと足音を立てて母が部屋に飛び込んできた。
「安佳里、テレビ……観てたのね。。」
リュウヤは更に言葉を続けていた。
「それと、今も言いましたけど、テレビでこのことを公表したことで、リリアさんサイドに深くご迷惑をかけた責任をとろうと思います」
もうすっかりバラエティ番組ではなくなっていた。
リュウヤは最初から、このことを言うつもりだったのに違いない。
でも、責任をとるって一体なんだろう?
私は聞き耳を立てて、リュウヤの次の言葉を待った。
「僕は…僕は、これをもって芸能界から引退します」
「!!!!!」
今日、4つ目のショック。。
(続く)