33話 沈黙の日々
自分の気持ちに気づいた私に新たな難題が圧し掛かっていた。
いくらリュウヤが好きだとわかっても、彼にはもう彼女がいるんだもの。
しかも相手はモデルでタレント。私のような冴えない一般人なんか、もう出る幕もない。
それがもどかしくて私は鬱気味になっている。
リュウヤの心の大きさ、優しさ、一途さ、愛情の深さをなぜもっと早く受け止められなかったのか?
セフレと毎日ダラダラ過ごしていた私に、救いの手を差し伸べてくれていたのはリュウヤ。
ずっとテレビ画面からサインを送り続けてくれたリュウヤ。
なのに、それに気づいたときには彼の気持ちを逆なでするような振る舞いをしていた私。
全ては遅すぎた。横瀬リリアに嫉妬するくらいなら、なぜもっと早くその前に。。
今更だけど後悔ばかりが先に立つ。
決して人のせいじゃない。気づくのが遅れた私が全て悪いだけ。
そもそも私の経験した恋は全て軽いもの。
いつも表面だけの恋で、恋愛と呼べるものじゃなかった。
今までの恋は全て私のわがまま。さゆみの言うとおり。
別れたら次があるとクールに割り切っていた。
数多く付き合えば、恋多き女だなんて勘違いしてた。
私ってなんて幼稚だったんだろう。この年まで何も成長していない。
いたずらに時が過ぎて行った。
メールしようと思いながらも、一通も出せずじまいに終わる日々。
何でこうなっちゃんだろ?私って情緒不安定?
ホント不思議なもの。
嫉妬の念に駆られたときは、いともた易く迷惑メールを打てたのに、今は文字を打っては取り消してばかりで、送信ボタンが押せないでいる。
───今の私はリュウヤに何をしてあげられるんだろう?
ふとこんなことを思ってしまった。
何もできないことはわかっているのに。
だからメールも打てないでいるのに。
リュウヤに今の彼女がいる以上、私が関わるのは余計迷惑なだけ。
彼のためにしてあげられるとしたら…
それは黙って静観していること。それ以外にないのかもしれない。
そんな中、事態に変化が現れたのは、年が明けてからのことだった。
それは私ではなく、リュウヤの方。
お笑い芸人の一発ギャグは寿命が短い。
大ブレイクしたとしてもせいぜい、その年の1年間だけ。
流行は年をまたぐとまたたく間に衰退し、影も形もなくなるもの。
世間ではもうフィッチュやデコスリ、鼻スリなどのギャグは誰もしなくなっていた。
リュウヤの出演する番組は激減し、時代の波と共に彼の存在もテレビ界から消えつつあった。
ほとんどテレビを観なかった私が、やっと観るようになった連ドラやバラエティ。
なのにそれと反比例してリュウヤが画面から遠い存在になってゆく。
やっぱり私とリュウヤは最初から縁のない存在なのかな?
と、本気でそう思う私。
休日のこの日はけっこう激しい雨。
外に出る気もさらさら起きず、日曜の午前中は部屋でまったり過ごすことに。
そんなとき、何気にテレビの番組欄を見ると、ある一点で目が釘付けになった。
「あ!!これからリュウヤが出る!しかも生放送だ!」
(続く)