32話 頭を冷やしてみたら
いつも私は半身浴。
さゆみとケータイで話したあとに入ったお風呂。
もう1時間は入ってるかもしれない。いえ、それ以上かも。
さゆみに頭を冷やせとハッキリ言われて、素直になった私。
反論できなかった。マジで。
それってやっぱりさゆみの言うとおりだから?
心のどこかで認めていたから?
いけない。今はもうそんなことに疑問を持つ段階じゃない。
私はリュウヤが好きなんだ。これは動かしようもない事実。認めなければならない真実。
あのときの会話で目が覚めた私。さゆみに救われた私。
───安佳里の部屋。約1時間前…
私はさゆみに自分の思いつきを説明していた。
「今ね、リュウヤに電話したとこなの」
「えっ?そうだったの?で、彼はなんて言ってた?」
「違う違う。電話に出る前に切ったんだよ」
「はぁ?」
「そのあとメールもしてやった。うまくいけば、リュウヤとリリアはケンカになるかもね」
「……あのさ、安佳里何でそんなことすんの?」
勘の鋭いさゆみにしては珍しい質問。
少し不思議だったけど、親友として正直に話しておこうと告白した私。
「だってね、横瀬リリアってさ、人のケータイをチェックするの得意なんだよ」
「???だから何なの?」
「もうわかるじゃない。リュウヤとリリアは同棲してるって噂もあるんだよ。だとしたら…ね?わかるでしょ?」
「ははぁ…そういうことか」
やっとさゆみも気付いたようだ。
「安佳里が考えたことはこうね。リリアはたぶん、チビリおぱんつのケータイをチェックするだろうって」
「ピンポーンヽ(´▽`)/」
「そのとき安佳里からの着信とか意味深なメールを送っておけば、浮気を疑ったリリアはチビリおぱんつと別れるって」
「さすがさゆみ。その通り!もし今日うまくいかなかったらまた明日すればいいのよ」
「・・・・・」
このときのさゆみは無言だった。
「さゆみ?何か言ってよ。うまくいくと思う?」
このあとだった。さゆみの目が覚める言葉が続いたのは。
「安佳里、あんた自分のしてることがわかってんの?」
「もちろん」
「全然わかってない。何でそんなことしなきゃなんないの?彼に恨みでもあるの?」
「そんなのないよ。私はただ…」
返答に困った私。言われてみれば、なぜこんなことをしたのか理由が言えない。
「じゃあアタシが言ってあげる」
さゆみの口調が鋭くなってきた。なんか怖い。
「あのね安佳里、あんたのやってることはただの嫉妬だよ。あんたはあいつが心の底から好きなんだよ。まだわかんないの!」
「( ̄□ ̄;)ええ〜?」
「あんたは横瀬リリアに嫉妬してる。彼を奪われたくないからよ。好きでもなんでもなかったら、無視してればいいだけでしょ!」
「そうだけど…」
「ねぇ安佳里、昔の話かもしれないけど、彼とはキライになって別れたんじゃないんでしょ?」
「うん。。。」
「例のトラウマが原因してるんだ?」
「うん。。。」
「(;-_-) =3 フゥ」
ケータイの向こうのさゆみは深いため息をついた。でもすぐに強い口調で話し出す。
「安佳里、あんた自己中過ぎるよ!彼が可哀そうだと思わない?」
この言葉には私も反論したくなった。
「さゆみひどい!リュウヤと別れたのは私の自己中が原因じゃない!あのとき私はよく考えたもん。彼を気遣ったのは私の方」
「果たしてそうかな?」
「そうよ!これ以上私と付き合うのは、彼に申し訳ないと思ったからよ」
「そう!それよ。それが自己中だってぇの!」
「…え?何でよ?」
「そんな辛い思いをする前に、あんた自身が自分のトラウマを少しでも克服しようとした?努力した?」
「それは…だって無理だもん」
「ほら、そう思ってる。だからいつも別れは自分から切り出してる。それが自己中だって言うの!」
「・・・・」
「私の知ってる安佳里は、いつも自分に合わせてくれる男だけを選んでた。でも全てそいつらも最初のうちだけだった」
「別にいいのよ。その人たちはみんなセフレなんだから。セフレしか寄って来ないのよ」
「安佳里がそうしたんじゃない!あんた自身はどうなの?人に合わすってしたことがあんの?」
とどまるところを知らないさゆみの口撃に防戦一方の私。
「いい?安佳里。男はみんな性欲のかたまりだなんて思う前にさ、頭を冷やして自分のことをもっと考えてみれば?」
「考えてるよ。。」
「考えてない!聞きなさい。男はバカも多いけど、そんな人ばかりじゃない。わかる?」
「・・・・」
「現にあんたのトラウマを克服しようと、ギャグのネタにまでして考えてくれた人がいたなんて、普通に考えても信じられない美談よ。そんな人に6年間も思われてた安佳里って、どれだけ幸せ者だと思ってんのよ!このバチアタリ!」
私は思いっきり金槌で頭を叩かれたような衝撃に駆られた。
今、この瞬間まで私はリュウヤの長年に渡る真剣な気持ちを曖昧に感じていた。
冷静に考えたら、これだけの一途な思いって、どれだけすごいことなのかと。。
なのに私はなんて罪な女。なんて愚かな女。イヤな女。
さゆみの口調が柔らかくなった。
「ねぇ、もう一度きちんと謝ったら?」
一瞬ためらった私。
「でも…もう無理だよ。完全に嫌われちゃってるもん。彼女だっているんだし」
「それとこれとは別。仲直りしないと、一生疎遠になるよ。それに…」
言いかけてやめたさゆみの言い方が気になった。
「それに?何なの?言って」
「ん〜、これはアタシの直感だけど、チビリおぱんつはそう簡単に安佳里のことを忘れることなんてできてないと思うな」
「??どうしてそう思うの?」
「だって高校卒業してから6年間も安佳里のことを思ってた人なんだよ」
「まぁ、そうみたいだけど」
「で、あんたさ、彼の今のケータイのメアド、何で知ってたの?」
「なんでって…リュウヤは高校のときからメアド変えてなかったんだもん。ただそれだけだよ」
「ほらやっぱし」
「やっぱしって?」
「私思うんだ。それはね、いつ安佳里からメールが来ても、ちゃんと受信できるようにしておきたかったからだよ」
「……そうかなぁ?」
「だって、風変わりで友達いない男だったんでしょ?」
「うん」
「なら絶対そうじゃん。さ、安佳里。もう悩まないで、しっかりしなよ!」
「…う、うん。。」
こうして、さゆみペースでの通話は終わった。
「安佳里ーっ!風呂まだ終わらんのかーっ!?」
「Σ(ノ°▽°)ノハッ!」
父の声に我に返った私。
「俺の一番風呂を譲ってやったのに、ダラダラ入ってるんじゃない!」
「怒んないでよ。もうすぐ上がるから」
父のイライラがわかる。
全くもう、一番風呂が父親からだなんて、いつの時代の話してんのよ。。
その5分後、お風呂から上がった私の心には、モヤモヤなどもうなかった。
(続く)