2話 2人目・ノリカズの巻
子供の頃からオマセなのは女の子。
幼い恋心を抱き始めるのも、どっちかって言うと女子。
それに比べて男子はいつまで経ってもイタズラ好きなクソガキ。
中学生になってもその延長がほとんど。
なのに男はいつから豹変するんだろう?
ちょっと前まで恋とか愛とか無縁な男子が、突然『オス』になる。
最初はシャイでウブなのに、慣れると図々しくなってくる。
二人目の彼・ノリカズがそうだった。
私が中3のとき、塾で知り合い親しくなった。
シャイで手を繋ぐことすらできなかった彼。
そんなノリカズが本性らしきものを現したのが付き合って約1か月後。
お互い高校受験を控えているから、塾内では勉強に集中している。
でも塾が終わると張りつめた頭脳が一気に解き放たれる。
「安佳里。肩凝ってるだろ?揉んでやるよ」
別に私は凝り性ではないけれど、彼の気持ちが嬉しかった。
「痛かったら言えよ」
「うん」
ちょっとは痛かったけど、私は我慢した。
数分経った頃、ノリカズの熱い吐息が私の耳元で感じ取れるようになった。
少しビクンと緊張が走った私。
そして次の瞬間“チュッ”っという小さな音が…
明らかに私の首の後ろにノリカズのくちびるが触れた。
───え?
あまりにも不意をつかれた行動に、私は振り向きもできずに唖然としているだけ。
結局彼はそれ1回きりで、あとは真面目に肩を揉んでくれている。
これって私の思い過ごし?態勢を崩して偶然に触れただけ?
とにもかくにも、これが変態ノリカズの出発点だった。
翌日から、彼はやたら私に触れてくることが多くなる。
「好きな人の前では鼓動が速くなるんだって。安佳里はどう?」
などど、今考えるとバカみたいに白々しい口実で、私の胸に手を当てる彼。
当時の私は抵抗もせずに素直に応じていただけ。
それがノリカズをつけ上がらせる原因にもなった。
日が経つに連れ、彼は平気で私の胸をツンツンするようになっていた。
彼にしてみればジャれてるつもりなのだ。
それがやがて制服の上から胸を軽く鷲づかみするように。
でもそれだけならまだ許せた。私はノリカズが好きだったし、彼の触り方はしつこくない。
一度触れたらもうその日はそれで終わるから。
でもいよいよ許せなくない事態になったのはその約半月後。
ついにノリカズは私の大キライなキスを求めて来た。
場所は公園のブランコ。塾の帰りで辺りはもう真っ暗。
ブランコは漕がずに、二人並んでただ座っておしゃべりをしてるだけ。
ちょうど話題が途切れたころ、彼はさらっとそのセリフを言った。
「安佳里。お前とキスしたい…」
前の彼のジョージみたいに、強引に責めてくる様子はない。
真っ向から拒絶するのも悪い気がする。私だってノリカズが好きなんだから。
だからって…何でキスしなきゃなんないんだろ?
少し迷ってから、私の下した決断を伝えた。
「ほっぺならいいよ」
「う…うん。。じゃあまぁ…」
少しガッカリした様子のノリカズ。やはり私のくちびるを狙っていたんだろう。
彼はブランコに座ったまま、私のサイドに接近して来た。
私は正面を向いたまま目を閉じていると、やがてほっぺに柔らかな感触を感じた。
───これなら許せるかな。。
そう思ったのもつかの間、次に別な場所に感触があったのは私の胸。
彼は私のほっぺにキスするとほぼ同時に、指で私の小さな膨らみを、まるでボタンを押すようにポチッと突いていた。
「ちょっとエッチ!びっくりさせな…うぐっ!」
何てことだろう。想像を絶することが起きた。
ノリカズの行動はあまりにも素早かった。
彼は私の肩に腕をまわし、体を引き寄せて私のくちびるを奪ったのだ!
何なの一体?これって男の本能?
それともヤリたくてしょうがないのを我慢して来た蓄積?
急激に吐き気を催してきた私。
反射的にノリカズを突き飛ばした私は、自分の手の甲で何度もくちびるをぬぐった。
「ほっぺって言ったでしょ!バカ!あんたなんてもうキライッ!」
「なんだよ…それ」
「絶交だかんねっ!またやったら先生に言うからね!」
たじろぐノリカズ。そのくせ、また一言よけいなことを言った。
「ごめん。悪かったよ。でもさ、お前オッパイ揉んでも平気なのに、何でキスくらいダメなんだよ」
「うるさいっ!!あんたとはもう終わりっ!私帰る!」
こうしてノリカズとも高校受験前に別れることとなった。
異常なまでのキスへの嫌悪感。
私にとって、決してプラスなことではない。
世の中の女の子はみんな素敵な彼氏との甘いキスに憧れているのに。。
あぁ…あのことさえなかったら。。
私のトラウマが解消されることは、24歳になった今でもまだない。
(続く)