28話 初めての相談
リュウヤにサヨナラと幻滅されて、一人お店に取り残された私。
そんな私も気付くとひとりで自宅に帰っていた。
でもどうやって帰ったのか記憶にない。ただ足が痛い。
待ち合わせ場所からは10Kmはある。電車もバスも使わずに歩き続けたせいだろう。
俗に、ごはんも喉に通らないほどのショックと言うけれど、私の場合は真逆だった。
ごはんでもお菓子でも、ありとあらゆる家の食べ物に手をつけた。
来る日も来る日も、ただひたすら食べ続けた。
こんな心の醜い自分なんて、超肥満になってしまえばいいんだ。
もっともっとデブって体も醜くなればいんだ。それで心と比例する。
古い言葉だけれど、これが“ヤケのヤンパチ”と言うのだろう。
でもそれはあまりにも無謀で幼稚な方法だった。
過食症にもなれない中途半端な私は、単にお腹を壊しただけ。
汚ない話だけど、下痢も止まらず腹痛にも見舞われて、逆に落ちてしまった体重。
さすがに普段は無頓着な母も、目に余る私の現状に心配になったようだ。
「安佳里、あんた全然教えてくれないけど、チビリおぱんつさんと一体何があったの?」
「なんでそんなことわかるのよ?」
「それくらいわかるわよ」
「意味わかんない」
母の前ではちょっと強がって見せるけれど、心はズタズタに弱っている私。
今まで母には悩み相談なんてしたこともなかった。
特に反抗したことはないけれど、過去の悩みは全て自分で解決してきた。
いや…全部解決したというのはウソになる。
今まで自分で処理できないものには全てフタをしてきた。
あるいはそこから遠ざかった。避けた。逃げた。関わりを根絶して来た。
けど、今の私はたまらなく孤独。自暴自棄。
別に答えを見つけてもらおうとは思わないけど、自分の胸の内だけに収めておくにはあまりにも苦しい。
リュウヤのことも含めて、今までに破局した恋愛の全ては、私の自分勝手な事情から起きたこと。
この世に生まれて24年、今私は初めて母に、自分のトラウマを告白した。
またそれと同時に、間接的ではあるけれど、そのために失った恋愛の数々についても話した。
こんなことってあるのかな?
母にひとつ話せば、次から次へと言葉が勝手に連なってゆく。これってなんだろう?
母は私が話し終わるまで一言も口を挟まなかった。
うんうんと頷きながら、優しい目で私を見つめながら聞き入ってくれている。
そんな母の表情からにじみでるオーラが、私の重たい口を開かせてくれたのかもしれない。
これがおそらく、真剣な眼差しだとしたら、私は途中で口を閉ざしただろう。
とっても不思議だった。
思いのたけを母に伝えると、気持ちって本当に楽になるものなんだなって。
なぜなんだろう?別にハッピーエンドになったわけでもないのに。。
「ごめんね安佳里。お母さん、あんたのトラウマなんて全然知らなくて」
やっと口を開いた母が、いきなり私に謝るなんて、驚くばかりだった。
「お父さんには絶対内緒だよ」
と、念を押す私。
「当たり前でしょ。そんなことよりあんたからまだ聞いてないことがあるわ」
「……え?別にもう何も…」
「あるわよ。だから悩んでるんでしょ?」
「私は…私は自分の馬鹿さ加減が歯痒くてたまらないだけだよ」
母は私の顔を数秒間、じっと見つめてから穏やかに言った。
「安佳里。あんただって、今もチビリおぱんつさんのことが好きなんじゃないの?」
「!!!」
(続く)