25話 頭の整理
私にしては珍しく、数日間考え込んでいた。
もちろん家にこもりっきりとかじゃなくて、仕事にはちゃんと行ったけど。
家にいても職場にいても、どうしても心に引っ掛かっていることが拭えない。
それはリュウヤの好きな彼女は一体誰かということ。
でも全く見当もつかない。
高校時代、リュウヤが私の次に付き合った子の存在なんて、知りもしなかった。
この事実のおかげで、全ての説明がつかない。
この1週間、私は高校時代の卒業アルバムまで引っ張り出した。
そして一人一人の写真をチェックしてみたけれど、リュウヤと噂のあった子なんて誰もいない。
だいいち、リュウヤのような変わり者に近づく子なんて、私くらいのようなもの。
だから余計に私の頭の中は整理がつかなくなっていた。
“彼女に観てもらいために作ったネタ”
これはリュウヤがトークバラエティで言っていたこと。
なぜ?単に彼女に笑ってもらいたかっらから?
発案の秘密って、このことと関係があるの?いや、きっとある!
今までずっと考えて来て、そういう結論に達した私。
私はリュウヤの持ちネタである一発ギャグを、もう一度母に確認してみた。
「なんなの安佳里?あんたもギャグしたいの?」
「そんなのやるわけないでしょ!ただの確認だってばっ!」
「なんで確認するのよ?」
「ちょっとね。いいから教えてよ!」
「あーはいはい。えっとね、やっぱり代表的なのは“フィッチュ”ね」
「うんうん。まだあったよね?」
「あとは“おでこスリスリ”“鼻スリスリ”が有名よ。もらったDVD観ればいいじゃない」
「めんどくさいもん。それほど面白くもないし」
「あんたねぇ…(`ヘ´#)」
つい母に向かってまずい言動をしてしまった私。ちょっとだけ反省。
母の言う通り、ここはDVDを見直して検証してみる必要があるかもしれない。
再生デッキはリビングにある。うちにはノートパソコンがないから自分の部屋で観れないのが難点。
思った通り、私がDVDを再生すると、母もそばにやって来て一緒に観賞することになった。
「お母さん、よく飽きないよね」
「あんたが好きな歌を何べんも歌ってるのと同じよ」
ちょっと意味が違うと思うけど、とりあえずそれは無視した。
案の定、母のウケは相変わらずすごいものだったけど、私は冷静に観終えることができた。
笑うより何かヒントを得るために。
そしてその大きなヒントが、まさか母から与えられるとは思いもしなかった。
「今年の流行大賞は間違いなく彼よ」
「たぶんね」
と気のない相槌の私。
母は構わず持論を展開する。なんせチビリおぱんつを語れば熱くなれる人だから。
「彼のギャグはね、人とのコミュニケーションになってるからいいのよ」
「まぁ確かにね」
「だからおでこスリスリなんて、年寄りでもマネしてるし」
「へー、知らなかった…」
「フィッチュだって幼稚園児もやってるのよ。可愛らしいじゃない」
「幼稚園児はオマセだもんね」
「キスって感覚じゃないのよ。もっと軽いスキンシップね」
「ふうん…」
「若者の間でもね、今やディープなキスは嫌われるんだってよ。リポーターが取材してたもの」
まさか母の口から“ディープなキス”なんて言葉が飛び出すとは…(^_^;)
「お母さん、それ娘に言うこと?(⌒-⌒;」
「もうあんたもいい大人なんだから平気でしょ」
母は最近私と友達感覚だ。まぁそれはそれでいいんだけど、私の相談相手にはなれない。
部屋に戻った私は、またベッドに仰向けになり、リュウヤのギャグを再度振り返ってみた。
母の言葉からも、明らかになっているチビリおぱんつの社会現象。
ひとつひとつのオチがキュートで可愛い。覆面の変態ぽさがなけれなもっといいのに。
「ディープなキスは嫌われる時代…か。私にとっては嬉しいことだけど…」
────────ハッ!?(゜〇゜;)
私はベッドから飛び起きた。
そう、突然気づいたのである。
ひらめくというか、なんというか、こんなことは学生時代のテスト中にもなかったこと。
────そっかぁ…そうだったんだ。
私は一番重要な部分を思い違いしていたことに気づいたのだ。
ホント、バカな私。もっと早くわかっても良さそうなのに。。
その後、いろいろ考えさせられた私は、夜になるまで迷ったあげく、リュウヤにメールした。
「リュウヤ、時間の都合教えて。会って話したい」
(続く)