24話 彼の好きな彼女
テレビ画面の中のリュウヤは、至って生真面目だった。
ネタ見せ番組ではないにしろ、お笑い芸人がこんなに素でいいんだろうかと思うほど。
そんな中で私がビクッとした彼の一言。
「好きな人はいます。もうずっと前から」
司会のアナウンサーは驚きと共に、これぞ好機とばかりにリュウヤから更なる言葉を引き出そうとする。
「ずっと前とは具体的にどのくらい前なんですか?」
一瞬だけ話すのを躊躇する気配もあったように見えたけど、結局は素直に答え始めた。
「…高校以来ずっと…ですかね」
私の心臓が大きくドクンと脈を打った。
「Σ( ̄□ ̄;ええ?そんなに長く付き合ってる人がいるんですか?」
という司会者の質問には、
「…いえいえ、違います違います。僕の勝手な片思いなんですよ」
と返答するリュウヤ。益々落ち着かなくなる私。
まさかとは思ったけど、母がさっき言ったことが現実味を帯びて来ている。
───好きな彼女って私のこと?私を指してるの?
番組は更に進行してゆく。
「いいんですか?チビリおぱんつさん。これ生放送ですよ?編集できませんけど?」
「あ…やっぱまずかったかな?(⌒-⌒;」
「その片思いの女性がこれを観てからびっくりするでしょうねぇ?」
「ん〜、あまりテレビを観ない人だから…」
───私なら今観てるんだけど…(^_^;)
「これからどうするつもりですか?彼女に告白しないんですか?」
「まだわかりません…」
「でもこれ、生放送で今言っちゃったわけですよね?もう告っちゃった方が良くありません?」
結構ズバズバ言う気の強そうな女子アナ。別な意味で感心する私。
「いや、一般の人だから、迷惑かけると困るんで今のところは…」
「でもそんなモヤモヤしたままの気持ちでいつまでも我慢できますか?」
「モヤモヤ?僕が?」
「しないんですか?」
「全然。毎日スッキリしてますよ?」
「はぁ?」
理解に苦しむ顔をしている女子アナ。それはテレビを観ている私も同様のこと。
「あのー、お言葉ですけど、そんな片思いが続いてるにも関わらず、お笑いに打ち込めたりするものですか?」
「はい。平気ですけど?」
「全然、支障がないと?」
「僕の芸に?」
「ええ」
「ないですね。ていうか、全くその逆ですよ」
「逆?どういうことです?」
リュウヤがテーブルに置かれていたオレンジジュースのストローを外して一気に飲み干した。
「すみません。のどがカラカラだったもんで…(^_^;)」
「どうぞ御遠慮なく。おかわりはいかがですか?」
「下さい」
(ノ__)ノバタッ!と私はコケた。普通こんな場面、おかわりなんて遠慮するんじゃないの?
更に仰天したことに、司会の女子アナは、
「じゃあ私ので良かったら」
と言って、自分の飲みかけジュースを差し出したのだ。
で、それを平気でまた飲んでしまうリュウヤもリュウヤ。
これってバラエティ番組だから?(-_-;)
リュウヤの喉も潤ったところで、早速本題に戻った。
「逆ってどういう意味なんですか?片思いが芸のこやしになるってことですか?」
「いえいえ、そういう意味じゃないんです」
「ではどういうことか説明してもらっていいですか?」
「まぁたいしたことじゃないんですけど…」
「あのー生放送ですからなるべく早く言ってくれます?ヾ(-д-;)」
「あ、すいません。つまりですね・・・僕のギャグのほとんどは、彼女に観てもらいために考えたものなんですよ」
「( ̄▽ ̄;)えっ?片思いの彼女のためにですか?」
「はい。だからいつも手が抜けませんし、気合が入ってるんですよ」
「あのギャグは今や街中で社会現象にまでなってますけど、発案はどういったことから思いついたんですか?」
「それは秘密です」
「Σ(ノ°▽°)ノえええっ?片思いしてることは言えるのに、ネタのことは言えないっておかしくありません?」
「でも言えないんです。でもヒントはさっき言いましたよ。これで勘弁して下さい」
「なんか変なのー^_^;」
「元々変な人なんです僕。これがチビリおぱんつのキャラだと思って頂ければ幸いです」
「……そうですか。。なんか煮え切らないですけど、お話ありがとうございます」
「もう終りですか?」
「時間ですから。でも最後にひとつだけ。その彼女に最後に会ったのはいつ頃ですか?」
「最後に?あ、えっと…6年くらい会ってないですかね」
「えっ?じゃあ高校卒業して以来ずっとってことですか?」
「…そういうことになりますかねぇ」
────ん?なら私のことじゃないってこと?
番組はお料理コーナーに移り、リュウヤの出番は終わった。
それと同時に私の部屋に入って来た母。
「あんたテレビ観てた?」
「一応」
「お母さんね、チビリおぱんつさんの片思いの相手って、てっきり安佳里のことかと思ってたら、結局は違ってみたいね」
「・・・・」
「6年会ってないなんて最後に言うんだもの。あんたは一月前に会ってるわけだし」
「別にいいでしょ。そんなの」
「あ〜ぁ、なんかちょっと残念だわ」
「なんで残念なのよ?(⌒-⌒;」
「さて、お昼は何食べようかしら」
母は私のツッコミには耳も傾けず、自分が言うだけ言ったら部屋からさっさと出て行ってしまった。
ちなみに母はB型。
私はまたいつものように、ベッドに仰向けになって天井を見つめていた。
でも今日は妄想ではない。それは現実的な考えごと。
“リュウヤはネタの発案をなぜ秘密にするんだろう?”
ヒントは────
さっき言ったことの中に……ある??
(続く)