23話 朝から生テレビ
私が起きがけにリビング行くと、キッチンから母の声。
「安佳里、あの人しばらく来てないけど、どうかしたの?」
今朝はそんな母の一言から始まった。私はソファにもたれながらダルい返事をする。
「はぁ?あの人って?」
「何よ。しらばっくれて。チビリおぱんつさんに決まってるじゃない」
「何で決まってるのよ(^_^;)」
リュウヤがうちに来た日からおよそ1か月程経過していた。
母は何か勘違いしているようだ。キッチンから顔を覗かせ、興味津津な眼で私に問いかける。
「で、どうなの?外で会ってるの?」
やれやれ。相変わらず野次馬根性旺盛な母には困ったもの。
私はきっぱり言い切った。
「あのね、リュウヤは私の彼氏でも何でもないの。だから全然会ってません」
「??」
キョトンとする母。
「だったらなんでこの前はわざわざうちに来たの?」
「知らないよそんなの」
「バカね。あんたに会いに来たかったからじゃないの」
「まさか。自分のDVDの感想を聞きたかっただけよ」
「そうかしらねぇ…」
「だからお母さん、変に期待しないで。今日も来ないし」
「それは知ってる。今日は10時から生番組に出演予定だもの」
く、詳しい^^;さすがファンだけのことはある。一応母に聞いてみた。
「それ、なんていう番組?」
「生チン」
「`;:゛;゛;`(;゜;ж;゜; )ブッ!ちょっとお母さん、ふざけないで!」
でも母は至って真顔。
「本当よ。“朝生!珍客サンデー”っていうのよ」
「じゃあ朝チンでもいいでしょ!」
「ヤラしいわね。その言い方」
「どっちがよ!!(≧□≦)」
母とこれ以上話すのも疲れるだけと思った私。
テーブルのクッキーをひとつまみしてすぐに自分の部屋に戻った。
もうすぐ10時……リュウヤが出る。。
今までDVDは観たけれど、彼の出るテレビ番組はまともに観たことがない。
彼がどんなことをするのか、全く興味がないわけでもないし…
私は部屋のテレビの電源を入れた。
そこには今週の珍客ゲストとしてリュウヤが招かれていた。
司会は人気の看板女子アナ。
彼女はまずリュウヤの基本的な部分、つまり芸名の由来から訊ねていた。
「よく聞かれるんですけど、僕は気が小さくてビビり屋なんですよ」
「つまり度胸がないってことですか?」
と女子アナ。
「可愛い顔してハッキリ言うんですね。でもその通りです。僕は根性なしです」
「すみません。つい(⌒-⌒;」
「いいんですよ。僕は子供の頃から怖がりだったし、いつもオシッコちびってたんです」
「そんな人が大勢の前でお笑いができるなんてすごいですね」
「だからこの覆面が必要だったんです。素顔ではとても今の芸はできません」
「そういうもんなんですか?」
「ええ。人前に出ても自分の正体がわからなければ、僕はバカにでもアホにでもなれるし、羞恥心も捨て去ることができるんです」
なるほどと今更ながら感心した私。
つまりパンツの覆面は、変態を装うんじゃなくて単なる照れ隠しだったんだ。
トークは順調に流れ、いつしか内容は恋の話になった。
これもまた、お約束の質問と言えるのだろう。
「チビリおぱんつさんは今、恋はしてらっしゃるんですか?」
単純な質問だけど、私もこれには少なからず興味を抱いた。
「…はい。してますね…」
「( ̄▽ ̄;)ええっ?じゃあつまり好きな人がいるってことですよね?」
「はい。今、とても好きな人はいます」
私は自分でも気づかぬうちに、身を乗り出してテレビを観ていた。
(続く)




