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22話 タイムアップ

 私の部屋にお菓子を運んで座り込んだ母。

「どうもはじめまして。安佳里の母です。オホホホホ♪」

 どう聴いても不自然な母の笑いに戸惑うリュウヤ。そして私も。

 でも母はそんなのお構いなしにミーハー根性丸出し。

「チビリおぱんつさんでらっしゃるんですって?私、大ファンですの。良かったらあとでサインいただいてよろしいかしら?」

「えっと…はい、いいですよ」

 リュウヤがチラッと私に目線を向けた。

「ごめん。お母さんにリュウヤの正体言っちゃったの」

 そして間髪入れず母。

「まさかうちの安佳里と知り合いだったなんて露知らずで…全く驚きだわ。オホホホホ」

 彼は心持ち苦笑いをしたように見えたけど、そこはすぐに切り替えたようで、

「お母さんのような年代の人が僕のファンだなんて光栄です」

と、見えすいたおべんちゃらを言う。でも母はそれに気づいていない。

「チビリおぱんつさんの素顔って、とてもりりしいのねぇ。オホホホ♪」

 普段、大口を開けてガハハハと笑う母が、口に手当てて笑う姿も異様なもの。

「りりしいだなんてそんな…僕は冴えない男ですよ。パッとしない男なんです」

「ハッつ|ll( ̄▽ ̄;)||l」

 母が思いついたように息を呑んだ。

「リュウヤ、もしかしてさっき私とお母さんの会話聞いてた?」

 私が母をチラ見しながら問いかけると、

「この部屋のドアも空いてたしね。勝手に聞こえてきただけだよ」と彼。

 当然慌てふためく母。


「あらららら。ごめんなさいねー。オバサンさっきはホラ、寝起きだったからよく顔を見てなかったの。ねぇ安佳里。そうよね?」

 普段絶対に自分のことを“オバサン”なんて言わない母が動揺している。

「知らない(^_^;)私に振らないで」

 苦し紛れの母の弁明が続く。

「とにかくオバサンはね、チビリおぱんつさんの大ファンなの」

「お母さん、それさっきも言ったよ」

と突っ込む私。

「ウソだと思われたらイヤだもの。これは絶対本当の話。チビリおぱんつさんが出る番組は全てチェックしてるんだから」

「…そりゃどうも^^;」

 少し恐縮したようなリュウヤ。

「遠慮しないで食べてってね。コーヒーは飲み放題だし、チョコパイならまだあるから今持って来るわ」

「あの…別におかまいなく…」


 リュウヤがそう言ったときには、すでに母は立ち上がっていた。

 けれど、母は足元に置いてあった私のクッションに足を取られ、真後ろに開脚しながら転倒してしまった。

「ギャアアァァ!」

 あまり可愛くない叫びの上に恥ずかしい大失態。

「お母さん…パンツ丸見え(-_-;)」

 タイトスカートだった母。なんてドジなんだろう。。

「あらやだ。オバサンのあられもない姿、見ちゃった?」

 体制を立て直した母の古めかしい言葉にドン引きした私。

「お母さん、そんなこと聞かなくていいから^^;」

「見ちゃいましたよ僕も」

「リュウヤもいちいち答えなくていいから^^;」

「でも今日はこれでパンツ見るの2度目だし」

「Σ(ノ°▽°)ノエッ!なんで?どういうこと?」

「さっきお母さんがスクワットでしゃがんでたときに見えました」

「そんなこと黙ってればいいのに…」

「だって聞いたからじゃん」

 リュウヤは至って冷静。とてもお笑いをしている芸人には見えなかった。


「あのさ、俺のDVD観てくれた?どうだった?」

 いきなり話が切り替わった。たぶんこれがリュウヤにとっての本題だったのだろう。

「あぁ、あのDVDなら…」

「観たわよ観たわよ!!あのフィッチュがもうおかしくって──」

 いきなり割り込んで来る母。

「お母さん、リュウヤは私に聞いてるの(⌒-⌒;」

「あらごめんなさい。つい^^;」


 ここで数秒間の沈黙───

 さすがの母もこの重苦しい空気は読み取れたよう。

「あ…じゃあオバサンはこのへんで行くわね。安佳里、サインちゃんともらっておきなさいよ」

「はいはい」

「それからエッチはNGよ」

「いいから早く行って!ヽ(`⌒´)ノ」


 なんか気疲れした。それも自分の母親に。

「なんか独特なキャラしてるね。安佳里のお母さんて」

「気にしないで。舞い上がってるだけなの」

「で、俺のギャグとか観て、どう?」

「うん。面白かったよ。街でカップルがマネしてるって最近わかったの」

「…そうなんだ」

「ごめん。私、何年もテレビ観てなかったから」


 コーヒーを一口すすってリュウヤが再び話そうとするけど、今度は言いにくそうだった。

「あのさ…今は彼氏とかいるの?」

「いないよ」と即答する私。だって本当だもの。

「ずっといなかったのか?」

「ん〜そうでもない。最近いないだけ」

 本当は長いこと彼氏と呼べる人なんていない私。

 なのになぜこんなときに見栄を張ってしまうんだろう?

 確かにセフレなら途切れなくいた。かぶってもいた。

 でもそれは所詮セフレ。かぶってたって自然なこと。


「じゃあさ…アレは…アレはまだ克服できてないのか?」

「アレ?」

と聞き返した私。でも本当は気づいていた。リュウヤが言おうとしていたことを。

 でもそのことは、私自身今も避けて通っている問題。

 だからなるべくなら触れて欲しくはなかった。

 ……けど。。


「キス…できるようになったのか?」

 ズキンと心に響く。

「…………まだ」

 私から目をそらせて窓の外を見るリュウヤ。

「そっか…まだか。。」

「うん。リュウヤは?彼女とかいるの?」

「俺?いや、いない」

「仕事忙しいから彼女なんて作れないでしょうね」

「別にそんなことはないんだけど…」


 なんか会話がたどたどしくなって来たので、私は最近気づいたことを彼に聞いてみた。

「話変わるんだけど、高校時代にさぁ、あの公園で壁打ちしてたのは、今の芸風を作るためだったの?」

「そうだよ。なんで?」

 意外な即答にあっけにとられた私。

「いえその…私、そうじゃないのかなぁって最近気づいたもんだから」

「最近だったんだ; ̄_ ̄)」


 益々会話が弾まなくなるうちに、リュウヤの制限時間がやって来た。

「じゃあ仕事の時間だからこれで」

「うん。。」


 何も盛り上がりのないまま終了したトーク。トークと言えたのかどうか疑問。

 しいて言えば母が一番盛り上がっただけかも。


 それにしてもリュウヤはたったこれだけのために私の所へ来たんだろうか?

 単にDVDの感想を聞くためだけに。。。?

                      (続く)

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