20話 母とDVD
「イヒヒヒヒー♪ヾ(≧▽≦)ノ彡☆ばんばん!!
母がお腹を抱えて笑っている。
“チビリおぱんつ”のお笑い芸が満載のDVDを観て。
それは私が昨日リュウヤからもらったもの。
私も彼との約束の手前、DVDを観ないわけにもいかず、リビングで母と二人で観賞タイム。
確かに面白いことは面白い。この冷めた私でさえ、クスッとしてしまう。
それにしても母は異常すぎる。これほどまでになぜ大ウケするんだろう?
ハシが転がるだけで可笑しくなる年頃なんて、とっくの昔に卒業してるはずなのに。
それともオバサン特有の、恥も外聞もない年代に達したから?
「お母さん、これそんなに面白い?」
母は私の質問に驚いたようだ。
「Σ(ノ°▽°)ノエェッ?なんでなんで?あんたこれ観て面白くないわけ?」
「普通」
「あんたホント冷めた子ね」
「てかさ、これって初めて観るネタ?」
「違うわよ。テレビでお馴染みのネタばかりよ。だから面白いんじゃない」
「ふぅん…」
私には母のこういうところが理解に苦しむ。
同じネタを何べんも観て何回も笑えるのって、ある意味すごいと思うけど、それじゃ単なる幼児。
昔、親戚にいる当時4歳の男の子に、ついヘン顔をしてやったら超ウケされて、永遠に繰り返しせがまれたことがある。
そのおかげで顔の筋肉が痙攣してしまった。
今そのことを思い出したのは、母がそのときの男の子と同じにように見えるから。
私がリュウヤこと“チビリおぱんつ”のギャグを観たのはこれが初めて。
彼はピン芸人だけど、そばには必ず彼女に見立てたぬいぐるみがそばに置いてある。
その中には人が入っているわけではなく、単なる等身大の人形のようなもの。
彼がステージで“ひとりコント”をしながらも、突然彼女にキスをする。
それは決してディープなものじゃなくて、あくまで軽いソフトの繰り返し。
リュウヤはコントの合間に数回それを取り入れている。
これが今年1番ブレイクしたギャグ“フィッチュ”だそうだ。
意味は『不意にキス』→『不意チュー』→『フィッチュ』だとか。
私が街でよく見かける恋人たちのフレンチキスは、これを真似たものだと初めてこの時知った。
そして第2弾ギャグとしては“デコスリ”“ハナスリ”がある。
相手は必ずぬいぐるみ。お互いの鼻やおでこをスリスリとこすり合わせるだけのことだけど、これをコントと組み合わせるとなかなか面白い。
もしこれがリアルなフィギュアだったら、エロくて変態チックで、とても子供には見せられないだろう。
ましてリュウヤは頭からパンツをかぶってるんだし、放送すらされないかもしれない。
でもまぁそこは、彼も計算した上でのギリギリのパフォーマンスなのだろう。
それに彼のコントは基本的にエロネタではない。
意外にも“スポコン”というものらしい。
スポーツと根性の略ではなくて、スポーツとコントの略。
このDVDには、テニスやバスケ、バレーなどが収録されている。
例えばテニスの場合、リュウヤはステージに予め用意された移動式の壁を相手に見立て、それにボールを当ててラリーをしながら、おしゃべりコントを展開する。
でもすごく弱くていつも顔面にスマッシュを食らってばかり。そしてその都度ぬいぐるみの彼女に癒してもらうという設定。
なかなか考えたものだと笑うより感心した私。
ステージでこれだけ的確にボールをコントロールすることなんて、相当練習していなければ……ハッ(゜〇゜;)
そっか……そうだったんだ……
鈍感な私がようやく気がついた。
リュウヤは高校時代から、お笑いを目指していたんだ。
あのとき…あの公園で誰からも不気味がられたいたあのとき…
一人で黙々としていたトイレの壁打ちラリー。
あれがこの時のためのものだったなんて。。
(続く)