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19話 高校以来のふたり

 収録の終えたリュウヤはスタッフを先にロケバスで帰らせた。

 私は今、リュウヤと二人きり……ではあるのだけれど。。


「ねぇ、何でこんな暗いとこで話すの?」

 ここは一人鍋屋さんの休憩控え室。少しの間だけということでリュウヤが借りた。

 涼しげな北側の部屋で、小さな窓から見えるわずか1メートルの視界には、雑居ビルの薄汚れたグレーの壁。

「アハハ…薄暗いのも逆にムードあると思わないか?」

「別に」

「返事早っ^^;」

 すっかり不機嫌になっていた私。

 そりゃ自分の不慣れのせいで収録を台無しにしてしまったのかもしれない。

 でも素人だもの。仕方ないじゃない。

 それに鍋を食べていたのはリュウヤの方で、私はお腹が空いたまま。

 当然彼がごはんやお茶に誘ってくれるのを期待してたのに、いつゴキブリが出て来てもおかしくないこんな湿った部屋でのツーショット。

 言い換えれば、拉致監禁には絶好の部屋。


「もっと別な場所でお茶でもするのかと思ったら…」

 つい愚痴った私。

「ごめんな。そうは思ったんだけどさ」

「じゃあそうしてよ」

「でも今の俺ってほら、一応有名じゃん。外でお茶すると目立つんだよ」

「(;-_-) =3 フゥ」

 昔からどこか1本神経の違っていたリュウヤ。今でもそれは変わらない。

「頭にかぶってるマスク脱げばいいじゃない。素顔は誰にも知られてないんでしょ?」

「ハッ…(゜〇゜;)そ、その通りだ。何で今まで気付かなかったんだろう」

「((ノ_ω_)ノバタッ」

 私は呆れるしかなかった。

「よし!じゃあこれから覆面外してお茶しに行こう!」

 そう言われたところで、すっかり気分は萎えている私。

「もういいよここで。私に何か用件があるんでしょ?ここで言って」

「お茶は?」

「あとでいいから先に言って」

「う、うん…じゃあ言うけど…」

「ちょっ、ちょっと待って!」

 私はリュウヤの言葉を止めた。

「なに?どうかした?」

「あのさ、言う前にその覆面とってくれる?」

「あ…そうでした( ̄┰ ̄;)ゞ」

「・・・・・; ̄_ ̄)」

 彼とは嫌いになって別れたわけじゃない。

 せっかく何年ぶりかで会うから少しはワクワクしてたのに…



 指摘されるとあっさりパンツのマスクを脱いだリュウヤ。

 その顔は昔とほとんど変わっていなかった。短髪にしているのはおそらく毎日マスクをかぶるせいだと思う。

 あと、右目の上が少し内出血しているようにも見える。

 私がそれを凝視していたせいか、リュウヤが察したようだ。

「あぁ、この目が気になるかい?別に平気さ。俺の芸風だし」

「芸風?」

 テレビを観ない私には全然ピンと来ない。

 ここに来る前に母の録画したチビリおぱんつの番組を観ておけば良かった。


「安佳里は俺のネタを一度は観たことあるだろ?」

「ゲッ!Σ(・ω・;|||ええと…」

「チビリおぱんつの正体が俺だってわかってた?」

「全然」

「良かった。なら正直な意見が聞けそうだ」

「???」

「安佳里に聞きたかったんだ。俺の一発ギャグを初めて観たときどう思った?」

 いきなりのきつい質問。

 正直に全く知らないと言った方が後々のためにもいいかもしれない。

 だいいち、さっきの収録でもテレビは観ないって言ったんだし。


「ごめん。知らないの。リュウヤのギャグ…」

「!?工エエェ(゜〇゜ ;)ェエエ工!?」

「そんなに驚かなくたって…^^;」

「この1年間、テレビで何千回もやって来たのに…」

「だから私テレビ観ないんだってば。何万回やっても知らないわよ」

「・・・・・」

 なんだかリュウヤは気抜けしたように見える。

 目の上が黒っぽい上に表情が暗くなると、まるで霊がそばにいるよう。

「そんなにガッカリしないで。これからは少しテレビも観るから」

「う、うん…」

「そんなに気を落とさないでよ。リュウヤにはファンがいっぱいいるんでしょ?」

「隠れファンが多いんだ。隠れることないのに…」

「あら、うちの母親はチビリおぱんつのれっきとした“表ファン”よ」

「ハハ…お母さんがねぇ(^_^;)」

「今度ライブDVD買うって言ってたわ」

「ホントに?…じゃあちょっと待って」

 リュウヤが自前のショルダーを開けて、ゴソゴソ中身をまさぐると、出て来たのは1枚のDVD。

「それってもしかして?」

「うん。俺のライブDVD。これあげるから観てくれる?」

「うわー!ありがとう。母も喜ぶわ。そのジャケットにサインしてくれる?」

「いいけど…1番観てもらいたいのは安佳里だよ…」

「えっ?」

 一瞬固まった私。なんか意味深な言い方。

「観たら安佳里個人の感想が聞きたいんだ。いいかな?」

「え、ええ。それはもちろん…」

「じゃあ俺の連絡先教えるから」

「…うん」


 かつての恋人との会話はそっけなく終わった。

 ドラマでよくある同窓会で再燃するカップルとは程遠い。

 実際はこんなもんなのよね。。。



 リュウヤと別れた帰り道、待ち合わせたカップルがフレンチキスをしていた。

 その後、目と目を合わせながらお互いのおでこをくっつけ、そして鼻の頭までこすりつけて合っている。

 なんか可愛らしくて、遠くからつい見入ってしまった。

 そういえばこんな光景、最近よく見るようになったな。。

 フランス映画っぽいような気もするけど、フランス映画を観ない私が言うのも変よね。。。

                      (続く)

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