17話 対面番組本番前
最近、世間では一人鍋の店が流行ってるらしい。
鍋が食べたくても、一人暮らしの身だと家で自分の分だけ作ってもむなしいだけ。
量を作り過ぎて余しても材料の無駄。だから結局は作らない。
そういう人たちのためにあるのがこの店で、なかなか人気があるらしい。
今、この”ひとり鍋屋さん”の別室でリュウヤと対面するために待機している私。
そう。私がテレビ局からのオファーに承諾したから。
最初はてっきりテレビ局のスタジオに行くものと思っていた。
でも詳しい話を聞くと、出演するタレントの行きつけの店で収録するという設定。
そんなわけで、リュウヤがチョイスした場所がココ。
芸人になっても彼は相変わらず孤独なんだと感じた私。
リュウヤはすでにカウンターで食事をしながら、番組のMCと収録が始まってる。
もう少しで私の出番らしい。
何も事情の知らないリュウヤの前に、いきなり私が現れるといったサプライズ企画。
某局”ウチくる”のパクリとも言える。
私がテレビ出演をOKした一番の理由は、母からの情報に興味を持ったから。
なんせ母は”チビリおぱんつ”の大ファン。
そんな母に今回の事情を教えたら、目を丸くして飛び上がった。
「うっそぉ〜?安佳里の元彼だったのぉ?」
「うん」
「何で別れたのよ?変態だったの?」
「違うよ(^_^;)」
相変わらず言葉を選ばずにしゃべる母。
「安佳里、あんた絶対テレビに出なさいよ!親は同伴できないのかしら?」
「たぶんそれは無理(⌒-⌒;」
「だったら絶対サインもらって来てね!できればヨリ戻して来なさい」
「あのね…(-_-;)」
「驚いたわ〜。チビリおぱんつの初恋の人があんただなんてねぇ〜」
「ビックリしたのはこっちの方よ。私、テレビ観ないし、今のリュウヤがどんなことしてるのか全然わかんないんだから」
「チビリおぱんつの本名はリュウヤって言うの?カッコイイ名前じゃないの!」
明らかに母のテンションはハイ。
「一体、チビリおぱんつのどこがいいの?パンツでもかぶってるの?」
と適当に聞いてみる私。
「そうよ。あんたわかってるじゃない」
「(ノ__)ノコケッ!」
「パンツっていうか、パンツ風にデザインした覆面なのよ。毎日テレビに出まくりだけど、NHKだけには出演できないらしいわ」
「パンツかぶってりゃね…やっぱり彼は変態だったのかな…; ̄_ ̄)」
「下品なネタは言わないのに気の毒だわ」
50代の母の同情を買うほどまで大人気のリュウヤ。
彼は昔とは変わってしまったのか、それとも…
それを確かめたくなったせいもあって、翌日の電話で出演を承諾した私。
元々、彼とはケンカ別れしたわけじゃないし、嫌いになったわけでもない。
「安佳里さん。そろそろ出番です。こちらへ」
スタッフに呼ばれて私は立ち上がった。
いよいよ“時の人”チビリおぱんつと対面のよう。
リュウヤ…悪いけど私、あなたの芸は知らない。
今日来たのはただの興味本意と懐かしさだけ。きっとあなたもそうでしょうけど…
(続く)