15話 8人目以下同文
部屋にいても飲みに来ても、思い出すのは過去ばかり。
別に過去を振り返りたいわけじゃないのに、なぜかそうなる。
きっと先が見えないからなのだろう。
未来に期待することなんて何もないからかもしれない。
自分しかいないこの店で、一人飲んでるのも悪くない。
誰にも干渉されずにすむし、むしろその方がいい。
酔いたい気分に任せて、3杯目を注文。
1,2杯目は甘いカクテルを呑む気分じゃなかった。
でも、私の報われない回想を掘り起こしてゆくたび、お酒が冷淡な味に思えるようになった。
「すみません。エッグノックを…」
私はほんのり甘いカクテルをオーダーする。
これを飲んだからって、甘い思い出が蘇るわけでもないのに…
でもそうすることで、私の心の悲しみを少しでも和らげてくれる作用はないものかと試したくもなった。
「おいしい。。」
私はテーブルにおでこをつけた。冷たくて気持ちいい。
そのまま顔を横に向けて、手に持ったグラスをボーっと眺める。
───あの時はむちゃくちゃしてたもんなぁ…
妄想族の私は再び回想の世界に入り込んでゆく。
短大時代に付き合ったセフレ7人とは、私が21歳の頃には自然消滅していた。
なんだかんだ言っても、それまでは常時男がそばいた。
でもそれがなくなると、言い知れない孤独感が私襲うようになる。
そこで私が手を出したのが、出会い系。
男は信用できないから、あくまでセフレ募集。その方が傷つかないですむし、堂々とキスだけは拒否できる。
ここまで来ると、もう誰とどう付き合ったのかなんて、全く思い出せない。
その場限りの男もいたし、どうせ偽名だと思ったら、名前なんか覚える気も更々なかった。
相手はえっちできれば満足してスッキリする。当然そこには愛はない。
私にとってもえっちは単なるスポーツ感覚。汗をかくことは大事。
SEXしていれば、ホルモンバランスも保たれて、女性としてのフェロモンも適度に放出することもできる。
短大時代、100人斬りを自慢にしていた友達がいた。
当時の私はそれを聞いて目を丸くして驚いたものだった。
一体、どんなペースで男を取り換えればそうなるのかと。
でも23になった頃の私は、すでにその域を超えていたのだった。
そんな私が24の年女になり、セフレとの関係も一気に冷めてしまった。
その原因になったのは、人の幸せがとてもうらやましくなったことにある。
相次いで結婚をする友達。そして産まれてくる子供。
出産祝いに訪れる度、母になった友達からあふれんばかりの幸せを痛感させられる。
そこには愛が確実に存在する。愛のあるえっち。愛の中から芽生える命。
私は孤独感に襲われた。セフレに抱かれていてもそれは消えなかった。
私のしてることに愛の存在などない。単なる無意味な戯れ。
動物だって、自然界の摂理に従い、生殖本能のままに意味のある行動をしている。
それに比べて私は最低。
遊びとストレス発散のために男と寝る私は動物にも劣る人間。
私は今年、関係している全ての男と縁を切った。
そして今はこのありさま。
仕事以外の休日はほとんどひきこもり。
部屋にいる時間はほとんど回想にふける日々。
最近ではこうして、飲みに来てまで回想する始末。
まぁ今日の場合は、ギンゾーから逃れるためでもあったんだけど。
結局さゆみと食事の約束もドタキャンされて、私は外でも孤独。
ひとり酔い潰れる私…
でも明日はまた来る。
どんなに嫌な気分でも、どんなにこのままここで酔い潰れていたくても、明日は確実に来る。
今の私には、一寸先も見えない状態。
明日はわが身に何が起こるやら…
いや、何も起こらないかもしれない。悲しいけどこのまま永遠に。。
だがこの後、そんな私の堕落した生活に、予想もつかない変化が訪れることになる。
(続く)