9話 私のトラウマ〜幼児期〜
幼かったあの頃の私は、どんな理由で親戚一同が我が家に集まっているのか見当もつかなかった。
記憶にあるのは明らかに夜で、人数は15人以上のオジサンばかり。
まぁ当時3歳の私からしてみれば、全ての男がオジサンに見えるわけだけど。
とにかく、その場はジンギスカンパーティーで賑やかだったことは確か。
お茶の間と隣の和室のふすまを外して部屋の仕切りを外し、長いテーブルを二つくっつけて並べてある。
そこに座ったどのオヤジたちも、酔っ払って声がデカいし、笑いも豪快。
そんな中、マスコット的存在の私は、みんなから頭を撫でられたり、お菓子をくれたりと、申し分のない扱いだった。
だが悪夢はそこから起こる。
「安佳里。こっち来いこっち来い」
まさにそいつがギンゾー。
すでに酔ってゆでダコのように顔が真っ赤のギンゾーが、私をしつこく呼び寄せる。
子供ながらに、何となく身の危険を感じていた私。その思いは見事に的中する。
「ほら、オジちゃんが抱っこしてやるぞ。焼酎飲むか?(≧∇≦)ぶぁっはっはっ」
全然面白くなかった。しかも膝の上に抱っこされ、ギンゾーの口から超酒くさい二酸化炭素をモロに浴びる不快感。
私は逃げようと必死だった。
「いいからオジサンと一緒にいろって。この子ホントめんこいわなぁ。もらって帰りたいくらいだ」
そう言って、私の頬にチューをした。
「やだー!」
膝の上でジタバタしても、大人の抑え込む力には叶わない。
そんな私の姿を見て、更にオジサンの行動はエスカレートする。
「ほら。こんなにほっぺがポニョポニョだ」
そう言って、私の顔に怒涛のキス攻撃。
左右に首を振って抵抗する私を見て、余計に喜んでいる感じ。
───ジジイ!てめぇSかよっ!
と今なら言えるけど、3歳当時の私にはSもMも知識がない。
抵抗すればするほど、キスの拷問をやめないギンゾー。
酒臭さも手伝って、気持ち悪くなって来る。
そこにトドメの一撃が。
ギンゾーの口が、ついに私のくちびるを吸い込んだのだ。
酒臭さと同時に、強烈なジンギスカン臭。ギンゾーの口のまわりに付着したギトギトの脂。タレの味。
私はその場で吐いてしまった。
なのに、ギンゾーはその理由を自分のせいにはしなかった。
「子供はこんな賑やかな環境には興奮するからな。早く寝れば大丈夫」
───てめぇ憶えてろよ!
と、当時ここまで口は悪くなかったけど、それと似たような感情があったのは事実。
現に私は、このあとすぐ復讐に成功する。
一旦、寝たと見せかけて、再びそっと起きて宴会の席を覗いた私。
ふと、床に誰かが無造作に脱ぎ捨てた黒い靴下を発見。
瞬時にひらめいた私は、その靴下を拾ってギンゾーのそばへ。
「おじちゃんおじちゃん」
と、肩を叩く。
「お、安佳里どうした……ふがっ!!」
振り向きざまのギンゾーの口の中に、拾った靴下を思いきり突っ込んだ私。
「`;:゛;゛;`(;゜;ж;゜; )ぶほぉぉぉぉ!!」
ギンゾーは靴下を吐き出したものの、むせて咳が止まらなくなっている。
私はこの時、子供ながらに復讐の達成感を肌で感じていたのである。
しかもまだ3歳の私。幼児のすることなど、誰も叱りはしない。
逆に親戚一同、笑いこけていたほど。
唯一、母親だけが注意をする存在のはず。でも一番ウケまくっていたのが母。
涙を流しながらテーブルを叩いていた。
……まぁ、元々こんな母親だし。
私のトラウマはこんなところから生まれた。でもこれだけじゃない。
この5年後、私のキス拒絶反応を決定づける出来事がまた起こる。
(続く)