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救いを求めて


 生きることを選んだとはいえ、それは簡単なことではなかった。


 わたしはわたしなりに頑張った。自分の気持ちを押し殺して仕事にも打ち込んだ。


 だけど、わたしの身体は、日に日に動けなくなってしまったのだ。目眩がし、息ができなくなり、食事も喉を通らない。微熱が続き頭が締め付けられた。


 病院へ行くと、風邪だと言われたが、一向に症状は良くならない。何か大変な病気にかかっているのだと感じた。息ができない。病名が知りたい。病名がわかれば、治る治らないに関わらず、納得できると思ったのだ。


 寝たきり状態のようになったわたしを心配した両親が、大きな病院へ連れて行ってくれた。


 総合診療科の診察室で症状を話すと、すぐにドクターが「ああ、それは鬱病うつびょうですね」と言った。


 血液検査をしただけだったので「もっと別の検査とか必要ないのですか?」と聞くと「必要ないです。心療内科の方に紹介状を送っておきますね」と言う自信満々のドクターを信用した。そして病名がわかり少しホッとした。


 鬱病だと言われたのに、ホッとしたというのはおかしなことだと思われるかもしれないけれど、病名がわかれば、それを治療できる。


 わたしには、今の状態から少しでも良くなりたいという思いが強くあった。今は体調が悪いので実家にいるのだけれど、かずやと暮らしていたアパートに戻り、そこで過ごしたいと思っている。


 かずやの両親は、早くかずやのことを忘れた方がいい、アパートを引き払うと言ってきた。


 わたしは、なんとか、かずやの両親にお願いをして、アパートはそのままにしてもらっている。アパートに住み続ける為には、なんとか病気を治し働かなくてはならない。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 総合診療科で紹介状を書いてもらった心療内科へ受診をすると、鬱病とPTSD(心的外傷後ストレス障害)パニック障害だということで、薬を処方された。


 それから3ヶ月、きちんと薬を飲み、目眩の症状はなくなったので、わたしは、かずやと暮らしていたアパートに戻ることができた。


 だけど、今まで勤めていた会社は辞めざるを得なかった。長時間の勤務に耐えられる精神力や体力がなくなってしまったからだ。


 だけど、アパート代だけは稼がなくてはならないので、わたしはアルバイトを探し、なんとかアパートの近くにあるドラッグストアで働けることができるようになった。


 それでも身体は辛いけれど、家にひとりでいると、かずやのことばかり考えてしまうので、働いている方が気分が紛れた。


 抗うつ剤はいらなくなったけれど、安定剤で誤魔化すように生きているというような感覚は否めない事実なのだ。


 仕事は頑張れた。身体が辛いのも我慢できた。かずやとの思い出がたくさん詰まったアパートに住み続ける為と思えば頑張れる。


 そして、レジでの接客や、品出し、職場の賑やかな雰囲気に、かずやを想う辛い気持ちも薄れる気がする。


 だけど、仕事が終わりアパートへ戻ると、一気に現実に引き戻される。


 かずやがいないのに、かずやがいた頃と同じ部屋に住み続けることは、もしかすると病気を悪化させることになるのかもしれない。


 何を見てもフラッシュバックが起こる。リビングのダイニングテーブルで、毎日一緒に食事をし、笑いあっていたこと、ふたりの好きな映画のDVD、部屋の何処にいても、かずやの笑い声が聞こえ笑顔があった……はずだった……。


 寂しい、苦しい、怖い、死にたい……。ひとりは嫌だ、誰か助けて、かずやお願い帰って来てーーー心の叫びが声に出そうになった。


 わたしは、何か少しでも救いはないのかと考えた。テレビは観る気にはならない。友人と電話で話す気にもならない。


 このままひとりで、かずやのことばかり考えていると、耐えられなくなり、死ぬことばかり考えてしまいそうだ。わたしはふと、スマホを手に取った。登録していたSNSがあったことを思い出したのだ。


 誰でもいい。リアルな世界から逃げ出したい。バーチャルな世界で誰かと話せば、現実逃避できるのではないかと考えた。


 アプリを開くと、以前と同じようにタイムラインでみんながそれぞれにそれぞれの思いをツイートしていた。


 わたしのフォローフォロワーはどちらも500人くらい。楽しそうにツイートしている人、愚痴を言ってる人、落ち込んでる人、写真を載せてる人……。


 タイムラインは以前と変わらないけれど、わたし自身が以前のわたしとは違うのだ。仲良く会話をしていた人にも、婚約者の死は伝えていない。


 今までの人と話すことはできないと思ったわたしは、新たにフォローする人を探した。


 だけど、一般の人をフォローする際には「フォローしました。よろしくお願いします」などと挨拶しなければ相手からフォローは返ってこない。挨拶などは今のわたしにはできない。


 いろいろ探していると、ある俳優さんのプロフィールに、わたしの住んでいる福岡県出身と書かれているのに目が止まった。榎木田俊一という俳優さんだ。


 テレビでは見たことがなかった。CMやドラマや映画にも出ているようだが、主に舞台を中心に頑張っている方のようだ。


 気になりフォローをした。俳優さんなどの有名人の人をフォローしても、それはファンになりました、ファンです、の意味なので無言フォローでも大丈夫だろうと思った。


 それに、挨拶をしても返事など返ってこないのだ。だけど、同じ福岡県ということが嬉しくて、応援したくて、挨拶をしてみることにした。


「はじめまして。フォローさせて頂きました。わたしも福岡県です。俳優さんなんですね。応援させて頂きます。頑張ってください!」


「ありがとう。同じ福岡県なんだね。応援よろしくね!」


 返事がきた。


 SNSでは、誰が言ったのかはわからないが、あくまでも呟きであり、独り言みたいなものなので、もしリプライがきても返事はしなくても良い、などということが常識なんだとされている。


 わたしはこのことに納得がいかず、片想い(フォローされていない状態)ならまだしも、相互フォローとなっているのなら、話しかけられれば返事をすることが常識ではないのか?と、何度もそういったツイートをしてきた。


 その度に、待ってましたとばかりに、ここは返事しなくてもいいんです、そういうところなんですと、いうリプライが来る。


 そしてまたその度に、人間として返事をすることは当たり前のことだという返事を返し、言い合いになる。


 有名人に返事を求めたりはしないが、有名人だからたくさんリプライが来てもなんとも思わないと思う人も嫌だなと思う。


 別のツイートで、読んでるよ、と一言あるだけでファンは救われるのだ。


 そういうちょっとしたところに人間性が現れるのではないだろうか。


 榎木田俊一さんは、どんな人なのだろう。わたしはもっと榎木田俊一さんという人のことを知り、応援したいと思った。


 早速、プロフィールに添付されていたブログを覗いてみることにした。。2007年から始めたブログをみつけると、そこには、わたしの心や魂に突き刺さるような素晴らしい言葉が書かれていた。



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