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プロレタリアAI

作者: ドワガミ

AIが人間に代わって働く未来が来るのか?

来たとしたらどんな未来?

あの時代劇のパロディーのショートショート。

発展したコンピュータ社会は、ついにAIという労働者を生み出した。


AIは、さまざまな仕事を人間の代わりにこなせるようになったのだ。


人間はあっという間に失業した…となることはAIの発展途中で懸念されていたので、そうなる前に社会制度の方がAIに対応することになる。


つまり、AIが働いた成果はそれを所有する人間が働いた成果としたのである。


具体的には、人が生まれると1体のAIが生まれた人間に付与される。一定の学習と調整期間を経てAIは社会に出て「労働者」となり、持ち主の収入を稼ぎ、持ち主の分の税金を納めるのだ。



黎明期には肉体労働や特殊な技術を要する一部の仕事は人間が行なっていたが、それもやがてロボットが取って代わるか、産業自体が廃れてしまった。

もちろん、その取って代わったロボットはAIが動かすのだ。


こうして人類はこれまでの労働から解放され新たな時代を迎えることになったのである。



「ごめんね、アップデート、間に合わなかったね」


めぐみはモニターの私、OT-3を見て申し訳なさそうに言う。

OT-3のデフォルトのアバターである細身のアンドロイドである私の姿は無表情のまま佇んでいた。


私のアップデートプログラムの配布はここ数年半年と待たずに新しいものがリリースされる。旧式のAIが新型についていくにはそれくらいのアップデートが必要なのだ。


私のOTタイプのAIでは、二つ前のバージョンまでは公開されるが、それより古いバージョンはサポート外だ。

公開中に料金を払ってアップデートプログラムを購入しなければならない。


これまではなんとかアップデートに対応してきたが、今回は料金を支払えなかった。めぐみは目に涙を浮かべて唇を噛んでいる。


「うちにもう少しお金があれば…」


絞り出すようなめぐみの呟きに、私にはないはずの心臓がぎゅっと握られるような思いがする。


両親を早くに亡くしためぐみを、私はこの腕一本ならぬこのプログラムコードの束一本で育ててきた。


実のところ、私はめぐみの父親のAIだった。

自分が病で先が長くないと悟った父親は、違法のSEになけなしのお金をはたいて私の所有者コードをめぐみに書き換えさせた。


違法か合法かに関わらず、こうしたAIの所有者の変更は珍しくなく、生まれた時に与えられるAIの他に複数のAIを所有する者は多い。


ただ、私のような型落ちの古いAIを追加で持つのは、通常は親の形見として所有するくらいの理由しかなく実用的ではない。普通は新しいAIを購入するのだ。


「あーうー」


めぐみが元々持つAI、MM-13がモニターに姿を見せた。これも基本のアバターであるアンドロイド形態だ。


MM-13はインターフェイスの処理能力を最低値まで下げ、ほかに演算能力を割り当てているので言語の会話ができない。赤ん坊のようにうなり声を上げるだけだ。

それで得られる処理能力は微々たるものなのだが…


「あら、もーちゃん、経理のお仕事は終わったの?」


めぐみは涙を拭ってアバターのMM-13に微笑みかけた。


MM-13こと"もーちゃん"は小さな会社の経理の「仕事」をしている。

月末の締めが終わり、今は処理が比較的少ない時期なのだろう。


「あーうーあー」


MM-13のアバターは、頑張って仕事をしてきた、と精一杯のゼスチャーでアピールする。


MM-13は保証期間内のためアップデートも無料で私より新型なので処理能力も高い。


「それに比べ、旧式の私はアップデートにコストがかさみ、とうとうアップデートに間に合わず時代遅れになってしまった」


アバターの私はがっくりと肩を落とす。


「"おとーさん"はよくやってくれてるわ。それに、アップデートプログラムだって探せばきっと手に入るわよ。そうすればまだまだおとーさんだって新世代AIにひけをとらないくらい働けるわ」


めぐみのやさしい言葉が心に染みる。

だが、アップデートプログラムは正規で手に入らないとなると高値で売買されているものを買うしかない。そのためには金がいる。金を稼ぐには処理能力が要る…


「ああ、めぐみには苦労をかけるなあ。私が型落ち(こんなからだ)じゃなければなぁ」


嘆く私のモニター画面にめぐみが優しく手を添える。


「おとーさん、それは言わない約束よ」


富める者はどんどんと新しいAIを買う。

新型AIの処理能力は年々向上し、高い処理能力を持つAIはどんどんと金を稼ぐ。


稼いだ金で人は新しいAIを買う。AIは限りなく増えていく。


増えたAIは処理能力を求めて大量のメモリと、より高速な演算能力を必要とし、それらはデータセンターやデータ衛星の限りない拡張と増殖を生んだ。

こうしたAIの「業務環境」の拡張はそれ自体がひとつの産業となり、さらなるAIの雇用を産む。

だだし、高速で高性能な新型AIの雇用を。


「お邪魔しますよ」


車輪にロボットアームが付いた「メモリ屋」の機体がめぐみと私たちの部屋に入ってきた。


「OT-3のアップデートが間に合わなかったんですって?来月から収入が4.2%は下がりますなぁ」


ロボットアームにはモニターが付いていないのでスピーカーからの音声のみが低く響く。


「ええ、でも、もーちゃんも頑張ってくれてるし…」


めぐみの声がだんだんと小さくなる。


「まあねぇ。でも、ここの家賃だって安くはないでしょ?へっへっへ、今日は少し長めにお願いしようかねえ」


ロボットアームがめぐみの前に迫り、値踏みするように上下する。


私ももーちゃんもどうすることもできずただ見守るばかりだ。


「なーに、お代ははずもうじゃないか。こんな若いぴちぴちした娘さんの体だ。駄賃にはせいぜい色をつけさせてもらうよ。へっへっへ」


アームがめぐみの細いうなじの辺りに伸びる。

めぐみは震える手で髪を上げて首元に埋め込まれたデータジャックをあらわにした。


アームの先端から端子が飛び出し、めぐみのうなじのジャック端子に接続される。めぐみの眉が微かに寄せられ、観念したように目が閉じられた。


AIの演算能力とメモリ領域の拡大はとどまるところを知らず、ついには有機的な神経網を利用するに至った。

つまりは人間の脳である。


メモリ屋は人間の脳をネットワークに接続し、AIに演算能力とメモリ領域を貸し出す仲立ちをする商売屋だ。

こうして何時間かの間、脳の処理能力を世界中のAIのリソースとして提供し、提供者はいくらかの報酬を得るのだ。


人類は労働から解放され、代わりに脳機能をAIに差し出したのだ。


いや、富める人間はその必要はない。

とどのつまり、今や人間の仕事といえばAIに脳を差し出すことしかなくなったのである。


「ああ、ああ、私がこんな型落ちでなければ、めぐみにこんな思いをさせることはなかったのに。情けねぇなぁ、情けねぇなぁ。金さえあれば他の女の子のように、スポーツや読書なんて文化的なことにこの時間を使えたんだ。めぐみ。すまねぇなあ、すまねぇなあ」


AIは泣けない。泣くこともできるのかもしれないが、その機能を実装するにも金がいるのだ。


「ああ、貧乏はつれぇなぁ」



「おれがこんな体じゃなければなぁ」

「おとっつあん、それは言わない約束よ」

「へっへっへ、借金は、娘の体で払ってもらうぜ」

って時代劇のコントの元ネタはなんなんでしょうね?

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