幼馴染は俺の敵
暇つぶし程度に読んでいただけると幸いです。
朝、設定した時間に鳴り響く、やかましい目覚まし時計の音で目を覚ます。目覚ましを切って、しばらくボーっとした後、のそりとベッドから這い出る。そのまま自室から出て、一階のリビングへと向かう。
「おはよう」
「おはよう慧。朝ご飯まだだから先に顔洗ってきなさい」
「うーい」
キッチンで朝食の用意をしていた母親に言われ、そのまま洗面所へ向かい、顔を洗う。
顔を洗っている最中、玄関から物音がしたため、いつものように彼らが来たのだろう。顔を洗い終え、再びリビングに訪れれば、やはり見知った顔が二人、すでにテーブルについていた。
「おはようございます」
「あぁ、おはよう慧君」
「おはよーケー君」
いつものように挨拶してくるのは、向かいの家に住んでいる重 茂留、そして重 愛だ。挨拶を交わした後、俺はそのままテーブルにつき、母も入れて4人で朝食を食べる。
どうして向かいの家の人と、一緒に朝食を食べているのかというと……まぁ、話せば長くなってしまうので簡潔に3行で言おうとおもう。
うちは父親、向こうは母親が俺たちが幼少期のころからいない。
子育てのため、お互いに助け合うようになった。
そしてそのままの勢いで今に至る。
と、いうことだ。ちなみに母と茂留さんだが、もはや夫婦といっていいレベルの間柄となっている。
「うん、今日も奈々子さんのご飯はおいしいな」
「あら、ありがとう茂留さん」
ほらこの通り。毎朝飽きずにイチャイチャラブラブ。末永く爆発してほしい。
「二人とも毎日あきないねぇ」
「ほんとな」
そう、向かいに座る愛と話す。愛とは幼少期のころからの付き合いで、幼馴染といえるだろう。そして……
「ん? どうしたの私の顔なんか見て」
「いや、べつに」
彼女は、俺ーー如月 慧太の敵である。
ーーーーー
きっかけは、中学に上がったころだった。
同い年である俺と愛は、同じ小学校に通い、そのまま同じ中学へと通うことになった。
入学してばかりのころは、まったく問題はなかった。小学校の友人に加えて、仲の良い友人もでき、充実した生活が送れていた。当時思春期真っ盛りだった俺は、女の子の友達を作ろうともしていた。サッカー部に入り、ルックスもそれなりだった俺は、簡単に女の子の友達を作ることができた。
しかし、それも最初だけだった。
なぜか女子生徒たちが俺のことを避けるようになったのだ。話しかけても適当な相槌を打たれた後に離れられ、グループ分けの時はあからさまに避けられていた。そんなことをされる理由に心当たりがなかった俺は、女子生徒に理由を尋ねた。すると、こういわれた。
『重さんがだめだって……』
それを聞いた俺は、すぐさま愛を問い詰めた。なぜこんなことをするんだと。すると、愛はニコリと、それはもう楽しそうに笑って、こういった。
『だって、ケー君に女友達なんていらないもん』
まるで意味が分からなかった。どういうことだと問い詰めても、同じように返されるだけだった。何度問い詰めても、同じように返された俺は、最後に愛にこう伝えた。
『よろしいならば戦争だ』
この時から、愛は俺の敵になった。
次の日から、俺はさらに積極的に女友達を作ろうとした……が、愛の女子たちへの影響力はかなりの物だったようで、同学年どころか、上級生すらにも拒否されてしまった。中学の最初の戦争では俺の完敗だった。
中学で女友達を作ることができないと悟った俺が次に行ったこと、それは勉強だ。愛がいけないレベルの高校を目標に、勉強をした。さらに受験校も伝えないという徹底ぶりで、戦いに挑んだ。
結果、俺は見事目標校に合格することができた。……愛と一緒に。愛はいとも簡単に俺と同じ高校を受験し、密かに合格して喜んでいた俺の目の前に合格通知を突き出してきた。ちなみに目標校の密告者は母親だった。敵は一人ではなかった。高校受験での戦い、俺の敗戦。
そして案の定、高校でも愛の妨害によって俺に女友達ができることはなかった……。
『だから、ケー君には女友達なんていらないの』
絶望に打ちひしがれている俺に、愛はそういった。それほどまで憎まれるようなことをやったのだろうか。
一度、茂留さんに相談したのだが、
『……母さんは独占欲が強かったからなぁ』
と、なぜか遠い目をしながら関係のない愛の母親の話をされるだけだった。高校生活での戦い、始まってすぐ敗戦確定。
ならば今度は大学受験だ、と猛勉強して受かった大学には、やはり愛がいた。進路とか考えなくていいのか。
『ケー君と一緒がいい』
まさかこれほどまでに恨まれているとは思わなかった。進路<<<俺への攻撃ですか……。ほんと何かしたかな俺?
今度は自分の母親に相談したのだが、
『お父さんはめちゃくちゃ鈍感で大変だったなぁ……』
と今度は自分の父親の話をされるだけだった。大学受験での戦い、やはり敗退。そろそろ怖くなってきた。
そして現在、まったく女友達ができないまま、俺は灰色の大学生活をエンジョイしていた。
だがそれも今日まで。大学の女子たちは一部を除いてすでに距離を取られているが、女性が大学生だけだとは思うなよ! 今日は合コン。以前から大学の友人とともに秘密裏に計画していたのだ。お相手は友人に選出してもらったので、愛が付け入るスキはない。ふっふっふ、ついに敗戦続きの俺の戦争に勝利の二文字が……
「それじゃ、行ってきます。前言った通り今日は晩飯いらないから」
「あ、うん、行ってらっしゃい」
「……行ってらっしゃい」
「あ、まってケー君私も行く!」
追いかけてくる愛とともに、ウキウキ気分で家を出た。なんか母さんと茂留さんが気の毒そうな、かわいそうなものを見る目で見てきてたような気がするが気のせいだろ。よっしゃまってろ合コン! 今行くぞー!
ーーーーー
「--それじゃ、さっそく自己紹介していきましょーかー! まずは俺から……」
現在、メンツが集まり自己紹介中。
大学の講義が終わり、いざ合コンへ!、と意気込み指定されたカラオケ店にて、俺は……
「(……なんでだ)」
絶望に打ちひしがれていた。理由は……まぁ、見ればわかるよ。
「では次は私ですね。重 愛です。よろしくお願いします」
順番が回り、愛が立ち上がり、自己紹介を行う。……そう、合コンで集められた女性のメンツに、愛が含まれていたのである。どうやら女性のメンツが一人来れなくなり、代わりに来たとのこと。十中八九、愛が手を回したのだろう。なぜだ……なんでこいつはここまで……やはり俺はこいつには勝てないのか? ……いや。
諦めるな俺! 今まで何のためにここまで頑張ってきたんだ! 女友達を作って、灰色からバラ色の大学生活を送るためだろう! 予想外の妨害が何だ! 多少は予想できていただろうが! まだだ、まだ終わってない! ずっとずっと待ってたんだ。こんなところで諦めてたまるか! 俺の物語はまだ始まってねぇ! ちょっとくらい長いプロローグで絶望なんかしねぇ! いい加減始めるんだ! 俺の物語を! 愛になんて絶対に負けねぇ!
「ーーんじゃ慧太。俺この子と二次会行ってくらー。お前はその子と仲良くなー」
「……おう」
「お気をつけてー」
……愛には勝てなかったよ。
……やられた。完璧にやられた。見事にこいつ俺以外の男子にほかの女子を当てやがった。見事にカップリング成立させやがった。もうこいつ何なの? 合コンの神なの? なら俺にも恵みをくれよ……。
「なんどもいったじゃんケー君。ケー君には女友達なんていらないの」
「……どうしてですか」
「いらないから」
それはあれですか? 俺の子孫とかいらないとかそういうやつですか? ほんともう、俺はあなたに何をしたんですか……。
「帰ろっか」
「……おう」
ーーーーー
「……ねぇケー君。まだ女友達を作ろうと思うの?」
「え?」
帰り際、横に並んだ愛が唐突に言ってきた。
「なんでケー君は女友達を作ろうとするの?」
「いや……それは……」
「答えて」
なんか怖いんですけど。
「……彼女がほしいから……かな?」
「なんで彼女がほしいの? デートとかしたいから? キスがしたいから? 触りたいから? Hがしたいから?」
「いや……あの……」
なんでこいつこんなグイグイ来るの!?
「か、関係ないだろ!」
「関係ない?」
「そうだよ! お前は俺のただの幼馴染ってだけだろ! そこまで干渉することないだろ!」
「ただの幼馴染?」
「そうだよ!」
「……ふーん。そうなんだ……ただの幼馴染かぁ」
「……愛?」
「ふふふ、そうなんだぁ……」
「あの……愛さーん?」
愛は、何やら怪しい雰囲気を出しながら、黙りこくってしまった。
結局、その重苦しい空気は家に着くまで続いた。家に帰った俺は、シャワーを浴びて着替えて、部屋に入って寝ることにした。合コンはまた計画しよう……。そんなことを考えながら、俺は眠りについた。
ーーーーー
異変に気付いたのは寝返りを打とうとしたときだった。
「ん……なんだ?」
体が動かない。金縛りにでもあったように、体が動かなかった。何か重たいものに乗っかられているような……そんな気がした。
「あ、目が覚めた?」
「……は?」
目を開けると、俺の上に可愛らしいパジャマを身に付けた愛がいた。
「……何してんの?」
「夜這い」
「あぁそうかそうか夜這いか……はぁ!?」
ナチュラルにつぶやかれた単語に、俺は驚愕した。ひとまず愛をどけようと、腕を動かそうとしたが……動かない。
「……はぁ?」
見ると、腕に手錠がかけられていた。え、ちょ……なにこれ。
「あ、逃がす気ないから、拘束させてもらったよ」
「は、ちょ……か、母さーん! 母さーん!」
大声で母の助けを呼ぶ。息子のピンチですよー! お助けー!
「あ、奈々子さんなら私の家の方で寝てるよ」
「母さーん!?」
「ご近所迷惑だから静かにね」
「むぐぅ!?」
お前が現在進行形で近所迷惑してるよ! と言おうとしたら口をふさがれてしまった。くそ、なんでこんな時に限って家にいないんだ。
「ケー君を食べに来ましたっていったらごゆっくりってあっちの方へ行ったよ」
母さあああああああああああああああああああああああん!? 何を了承してるんだ!? ていうかまずは茂留さん止めようぜ!?
「お父さんは頑張って来いって言ってた」
茂留さぁあああん!? なんですか親公認ですか!? なにがどうしてこうなった!?
「だから何度も行ってるじゃん。ケー君に女友達はいらない。私がいればいいって」
言ってない! 最後のは言ってない! ていうかどういうことだ!?
「ケー君に女友達なんかいらない。そばにいる女は私だけでいいの。ほかの奴なんかにはあげない……そう思ってたのに」
押さえつける力を強めながら、愛は続ける。
「ケー君は私のことをただの幼馴染だっていう。全くこっちを振り向いてくれない。だったら……」
ニコリと、もはや見慣れた笑顔でこういった。
「既成事実を作ればいいじゃない」
その思考はおかしい。そしてそんなことを言いながらも、器用に服を脱ぎ、脱がせてくる愛。おいばかやめろ。
「それじゃ、いただきます」
まておちつけはなせばわかるこんなことするひつようは…………
アーーーーーーーッ!
ーーーーー
……結局。
既成事実を作られてしまった俺は、責任を取って愛と付き合うことになった。自分の意思を伝えた愛は、かなりべたべたしてくるようになった。既成事実を作られた次の日に、茂留さんが肩をたたいて頑張れと言ってきたときの顔は、忘れられない。
まぁ、愛の思いが分かった今となっては、過去のことを思い出すと、完全に惚れられてたんだなぁと認識する。嫉妬深いけど、かわいい奴だと思える。
「ふふふ、ケー君大好き!」
今も愛にくっつかれているが、スペック上でも全く不満はない。むしろ好きと言われて嬉しくなってくる。
こうして、俺の幼馴染は、敵から彼女へとーー
「ーーふふふ、ケー君大好きだよ。結婚したらケー君は私たちの愛の巣から一歩も出ないでいいからねー。お金は私が稼ぐからねー。仕事なんかして害虫が付いちゃったら大変だもんね? 私頑張るから。ケー君は私に愛をささやいてくれるだけでいいんだよ? それ以外、何もしなくていいんだよ? 私が何でもしてあげるから。素敵な未来が想像できるね。ね? ケー君?」
「……いやぁ、俺も外に出たりはしたいかなぁって」
「ダメだよ? ケー君かっこいいんだからいつどこで害虫が寄ってくるかわかんないよ」
「いや、そんなこと……」
「だめ」
……訂正しよう。
「……よろしいならば戦争だ」
こいつはいまだに、俺の敵だ。
アオイです。
合コン失敗という単語から、この作品は生まれました。
……はい、自分でもどうしてこうなったのかわかりません。
ただ、合コン失敗の理由を考えていたら、いつの間にかこうなっていました……。




