ある日突然私のなかで王子さまは彼氏になった
『でもさ、俺本気になるかもよ? 円花ちゃんに、本気で惹かれるかも』
はぁ~、雫様の神ボイス。
あの超超人気アイドルの雫様が! 私の彼氏だなんて!
「ほぇぇ~」
「変な声出すな! 円花!」
「いちゃいっ!」
今日も絶好調! とみちゃんのホームラーン!
「なに? また雫くん?」
「そうそう! とみちゃん! 私……」
さすがにここは空気を読んで、小声で言わなくちゃね。
「雫様の彼女になっちゃった!」
あ。とみちゃんがフリーズした。
「おーい、とみちゃーん」
体を揺さぶるけど、とみちゃんは反応なし。
「目覚めないと、人工呼吸しちゃうよ~」
「止めろ、円花! それ、どうゆうこと? ただ単に名前が同じとかじゃなくて?」
「うん。正真正銘本物の、一野雫様の彼女になったの」
とみちゃんはしばらくとみちゃんワールドに入りこんで、ぶつくさと独り言をつぶやく。
「それが本当なら、昨日のブログでの発言は何だったの? 彼女できたって」
私は昨日街中で雫様に路地裏へ連れ込まれたこと、ブログの発言の意味、そして雫様からの告白について話した。
「なるほどね。じゃあ、今は形だけなんだ」
ギクッ! まあ確かに‘仮’かもしれないけど!
「絶対惚れさせて見せるんだもん! 雫様を」
とみちゃんは呆れて声も出ないっていうように、肩をすくめる。
「ま、楽しんで来い」
「ま、楽しんで来い」
「もちろんだよ!」
校門の前にサングラスをかけたスタイルのいい男の人がいる。
何か、あの人……。
男の人はサングラスをずらして、私の方を向いた。
「お、いたいた! 円花ちゃ……」
「わーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
な、な、な、な! なんで雫様が学校にー!?
私はあわてて校門から雫様を連れ去って、人気のない住宅街へと連れ込んだ。
「どうしたの? いきなり叫んで、こんなとこまで連れ込んで」
少し妖艶な雫さまの笑み。
はぁ~。雑誌とかに写ってる姿だ~。
「雫様は、有名人なんですから……。学校なんて人の多いとこに来ちゃダメですよ!」
私が注意すると、雫様はゆっくりと私に顔を近づけた。
「どこに行こうと俺の勝手じゃん? あとそれ、やめて。“雫様”って呼ぶの。“雫“って呼んで」
耳元にささやかれる。
雫様の息が耳の辺りにかかって、私の心臓は破裂しそうなくらいに勢いを増した。
「え、でも……。雫さまっ!」
慌てる私に追い討ちを駆けるみたいに、雫様の顔はさらに近づいてくる。
「あのさ、彼氏に様付けって、円花ちゃん相当M?」
「ち、違います!」
否定してあたふたする地に、雫様の唇が耳に触れた。
「ほら、呼んでみて」
「……雫、くん」
「それでいいんだよ」
さっきとは打って変わった、優しい天使スマイル。
こんなドキドキさせるなんて、雫様……、ううん、雫くんはずるいなぁ。
「家まで送るよ」
「いや、でも悪いですし……」
「いいから、いいから。彼氏なんだしね。あと、敬語もダメ」
「わかりまし……。あ、えっと、わかった!」
彼氏……、雫くんが彼氏……?
はふ~ん!!
「じゃあ、明日も校門の前で待ってるね」
あれ? 雫くん、毎日迎えに来てくれるのかな?
「……仕事は大丈夫なんですか?」
「この時間帯はあけてあるから。あー、携帯持ってる? 番号とメアド教えてほしいんだけど」
私はスクバから携帯を取り出す。
「いいですよ。じゃあ、送りますね」
「うん。よし、届いた。ありがとう。何でも連絡してきていいからね。すぐに返せないかもだけど」
「はい!」
雫くんが目の前にいる。今までは、テレビ越しとか雑誌越しとかで、すごく遠かったのに。
『雫くん』
電話帳を開いて、私は一人ニヤけた。