ある日突然私に彼氏ができた
「な、な、な、な! なんで雫様がここに!?!?」
私が飛び上がると、雫様は声を上げて笑った。
「面白いね、君。名前は?」
「えっと……、その……。乙屋円花といいます。あの、一野雫さん、で合ってますよね?」
おそるおそる聞いてみると、雫様は笑って「そうだよ」と答えてくれた。
キラースマイル来たぁ~!!!
「だ、大丈夫!? 鼻血出てるよ……?」
え、本当に!? あ、ガチで出てるよ……。
「大丈夫で……!」
「これ使って」
私が言い終わる前に、雫様はティッシュペーパーを差し出す。
「ありがとう、ございます……」
断わるのもあれだし、私は受け取ることにした。
もう一枚取り出そうとした雫様の手元を見て、「もう大丈夫です」とだけ返しておく。
「私、雫様……、雫くんの大ファンなんです!」
「ありがとう。ていうか、呼び方、どっちでもいいよ」
メディアで見る時よりも、雫様の笑顔はキラキラしていてまぶしい。
夢でもいいや、こんなに幸せだし。
「えっと、その……。君を呼び止めたのは理由があってさ。円花ちゃん、彼氏とかいる?」
「? いませんけど……」
安心したように雫様は胸をなでおろした。
「じゃあさ、俺とつきあってくれない?」
??? …………!?
「ちょ、いきなり何を!? え、その、つきあうって?」
雫様は何を言ってるの?
つきあってほしいって? 雫様が私と?
「だから、俺の彼女になってほしいんだよ。円花ちゃんに」
「私が、ですか!?」
信じられない……。もう、開いた口ふさがんないし、目までふさがんないし。
「うん。……ダメかな?」
雫様の困り顔……。
いただきましたぁ!!
いやいや、こんなこと考えてる間に返事しなくちゃだよね。
「えっと……、私でよければ、お願いします」
「本当!? じゃあ、よろしくね」
乙屋円花、17歳。初めて彼氏ができました。
すごいなぁ~。私があの一野雫の彼女なんて。
あれ? そういえば雫様って……。
「あの、今日の朝、ブログで‘彼女ができた’って言ってませんでしたっけ?」
「そうだよ。だから、円花ちゃんだって、彼女っていうの」
え? これ今日の朝だよね?
まさか私とつきあうの決めてたってこと?
雫様エスパー?
「最初から彼女はいなかったんだ。でも、なんか欲しくてさ~。だから、公表しちゃえば作れるかな、って。彼女いるって言ってんのに彼女いなかったら嘘になるじゃん。それで、俺のこと知ってて、かわいい子探してたら円花ちゃんがいたってわけ」
ん? ってことは、私が好きなわけじゃないんだ……。
まあ、そうだよね。私みたいな一般人、好きになるわけない、よね。
「でもさ、俺本気になるかもよ? 円花ちゃんに、本気で惹かれるかも」
いたずらっぽく笑った雫様に、私はまたきゅんとしてしまった。