⑤
「ヒット、子供を倒し親子は逃げていきますね」
「地球の獣向けストッピングパワーでここの世界の獣も倒せるのかぁ、ちょっと意外ッスね」
タリアはMMRHunterにセフティを掛け、スコープから目を離す。
いじったスコープのダイヤルを元に戻して、一息つく。
手早く三脚を畳み、バックに突っ込んで立ち上がった。
「じゃあ、撃った獣を回収しに行くッスかね」
「エルフの保護ではなくですか?」
「その仕事はお任せしたッス。民間人が絡むとややこしい話になりかねないッスからね」
「…成る程、了解」
ジェイソン二等兵は諦めたようにため息をつく。
仕事が増えたというか、厄介なことになると思ったのだろう。
二人は、自前の銃を手にして撃たれて悶え苦しむ獣と子供らしいエルフが居る地点まで、早歩きで向かう。
一応、猛獣や未知なる生物が居るかもしれないので、警戒はしておく。
手負いの獣や子供を守る親の獣は、時として予想外、予想以上の行動、攻撃力を発揮するからだ。
そう考えると、タリヤはセカンダリーを常備するべきだと思った。
「さぁて、言葉が通じないかも知れないから、説明、保護には時間が掛かるかもッスねぇ」
「その場合はどうしましょうかね」
「放置は人道上良くないんで、任意同行でもしてもらうッスか」
「それって、誘拐、拉致と変わらないのでは?」
「…と、世間が思えばそうなるッス。ほら、民間人保護ッスよ保護」
正直、今のタリアの内心はエルフも少し期待しているが、スコープで見た感じとしては地球の一般的イメージと変わらないので粗方容姿は想像出来た。
しかし、獣は違う。
見たこと容姿であるので、期待している。
毛はどんな感じか、食べると美味しいのか。
角はどんな風に美しいのか。
ワクワクが止まらない。
歩いていくと現場に着いた。
「…居ないっすね、エルフの子」
「逃げましたかね、それならそれで」
現場に到着すると、もう死にかけの獣しか居なかった。
エルフはどうやらその場から離れたらしい。
二人からすれば、厄介事が無くなって少し安心した。
タリヤは青いゴム手袋と解体用のナイフセット、ロープを出す。
ロープを近くの樹にかけ、獣の脚に括り付け、吊るしてしまう。
逆さまの宙ぶらりんにして、血液が頭の方に下がる格好にしてしまい、ナイフで獣の頸動脈を切ってしまう。
赤とは言わないが、赤みかかった紫色の血液が止めどなく胸の銃創と、頸動脈から溢れ出す。
草等に落ちてはボタボタ水音を鳴らし撥ねて、彼女のズボンを少し汚してしまう。
しかし、タリヤはゴム手袋のまま獣の血を触り、粘性を確認した。
「あ、意外と粘性あるッスねぇ、ちょっと傷口大きめにしないとかな?」
そう言って、片方だけ切った頸動脈を左右切ってしまう。
血液の流れる量が増える。
「美味しいと思います?コレ」
「どうなんでしょうね」
「鹿肉は偶に食べると旨いけど、ここのは未知なる肉ッスから、とりあえずは戻ってから…ん?」
狩った獣のことについて話していると、遠くから悲鳴が聞こえた。
「掛かったッスかね、罠に何かが」
ナイフに着いた血を酒精綿で拭いて口角を上げるタリヤだった。
リレイは訳も分からず、とりあえずその場から逃げ出した。
獣が突然、胸に穴を開けて打ち倒されてしまったのだ。
次は自分かもしれない。
正体不明の恐怖が、リレイの精神に襲いかかる。
「魔法でもないし詠唱を聞いていない!なんじゃアレは!」
そう考えてことを口にしながら、草原を走っていた。
逃げて、距離を置いて、それから…と考えていた。
しかし、突然足首に何かが絡まり、激痛を伴ってきた。
「あぁ!!」
そのまま頭から地面に倒れてしまう。
「…こ、今度はなんじゃ、酷く痛いではないか」
リレイは痛みの原因である足首を見ると、金属の紐が彼女の足首に綺麗に絡まり離さない。
しかも、鬱血しそうなくらい強く足首を固定してくるではないか。
金属の紐を解こうとするが、何かの力で全く動かない。
「なんじゃコレは!金属の紐なんぞ見たことないぞ!!」
痛さと硬さで、また泣きそうになる。
このままでは、先ほどの状況に戻ってしまう。
逃げられないから、獣に襲われて美味しく頂かれてしまい、髪の毛と骨以外は残らない。
そう考えてしまうと、一刻も早く金属の紐を解かないといけない。
しかし、ビクともしない金属の紐。
細い金属が編み込まれ、想像も出来ない強度に仕上がっている。
リレイはこんな技術を未だかつて見たことがない。
自然の成すものではない事は一目瞭然。
「は、はやく、解いて逃げないと…また襲われて」
あたふたしていると、遠くから人影が2つ、リレイの方へ向かって歩いてくるではないか。
見たこともない服装によく分からない棒のような物も持っている。
リレイは歯を食いしばり、鉄の紐と格闘する。