はじめての異世界ハンティング①
NPO団体[アメリカ猟区管理協会]は全米ライフル協会の下部組織として発足された。
目的はハンターの登録や管理・把握、市民の要請による害獣等の駆除や保護団体と連携し動物保護等を行う。一種の環境保護団体である。
全米ライフル協会の悪い風評を少しでも払拭、又環境問題にも取り込みそちらの方面でも一枚噛んでおいて今後の自然への規制に圧力を掛けれるように工作をするのが目的の団体だ。
そんな団体の現業系であるのが、タリヤ・キッシンジャーである。
退役した元米海兵隊であるが、そこまで実戦経験はない。
あるのは、海兵隊の歩兵訓練コースの卒業、後に海兵遠征部隊 兵站戦闘部隊として沖縄のキャンプ・ハンセンに配属された経緯がある。
そんな彼女は、今大きな壁なき壁にぶつかっていた。
「部長、なんでアタシが…」
「上からの決定だ。[優秀な経歴の持ち主で尚且部署で実績ある人間]下で働く人間が必要である。その為にお前が選抜された。」
「…その優秀な人間の下の働き蟻の為に[向こう側]へ派遣ッスか…」
「そうだ、民間人としては初めてだ。」
「…なんか嫌ッス。」
タリアは団体本部の現業部部長室で異動を言い渡された。異動というか派遣のようなものだった。
ここ数年で開通された異世界(向こう側)への現業員の派遣だ。
それは、現地で原住民と友好関係を築きつつも向こうの害獣駆除や狩りを手伝う。それにより、地球にはない獣のサンプルや剥製を入手しようという団体の意図がある。
その意図自体にタリアは興味がないが、不安があるのは、向こう側、現地の地理や生態系に不安があるのだ。
先遣隊として、米軍が既に交友関係や両方の人間や言語が話せる友好的人外生物に通訳として育成している。言語の心配は然程ないのだが、ソレ以外が大いに不安要素なのだ。
「大丈夫だ、なんか有ったら在駐軍に頼め。保険も下りる。」
「下りなきゃ問題ッスよ。」
タリアは必要書類と連絡事項を聞いて、部屋を出た。
その顔は憂鬱そうな顔だったが、一歩歩いた瞬間、口角が徐々に上がり、にやけ顔になった。
それは少し気持ち悪いものである。
小さくガッツポーズを取り、自分のデスクに軽やかな足取りで戻った。
タリアの現業とは多種多様な事をこなす。
現在は有害獣鳥駆除や登録したての新米ハンターへの現場指導、森林伐採から植林。場合によっては、管理区域内に於ける行方不明者の捜索等である。
デスクに戻ると、やりかけの駆除活動報告書と狩った獣を卸売りした領収書のまとめ作業に取り掛かる。
勿論、にやけながら。
にやける彼女を周りは、あぁ新しい狩りの仕事を任されたのか…と察した。
-同時刻-
褐色肌に銀色の髪、人間よりも長い耳。それ以外は人間と変わらない種族〈ダークエルフ〉の集落がその〈世界〉には存在した。
森の木々を切り倒して場所を作っては住家を建て、井戸を掘り、貝塚の様な捨て場も設けられている。家は全て平屋建て、高い建物は集落の見張り台位なものである。
そこに住むダークエルフ達は、和気藹々と日々を送っている。男は狩りや職人作業を行い、女は家事や子育てを行う。
生命維持に欠く事の出来ないことを、人間同様に日々の仕事として行っているのだ。
そんな中で、一人の背の小さなダークエルフが暇そうな面持ちで机に向かっていた。何かの実の殻を針金で開けて、中身を器に入れていた。
殻は既に剥いている本人の身長を超えており、そのエルフが何時間その作業を行っているか考えたくもないくらい積み重なっていた。
「…暇じゃ」
ポツリと呟きながらも、殻を開けて中身を器に入れ、殻を積んである床に投げた。投げた殻は、丸く紫色をしていて、紫色の歪な殻の山から転げ落ち床で止まる。
「ワチは何年何ヶ月、この作業をしておるんじゃろかのぅ」
そう呟くも誰も反応しないし、誰も居ない。
屋内の静けさと明るい外の賑わい。外では、他の住民が楽しそうに子供をあやしたり、果実を加工していた。
その風景を見て、ため息をつく。
「平和なのはいいことじゃが、毎日この作業の繰り返しも中々に拷問じゃ…」
すると大きな籠を担いだ恰幅のいいエルフが入ってきた。
「リレイ様、お疲れ様なのは分かりますが、皆各々の仕事を全うしています故…」
リレイと呼ばれた小さいダークエルフは拗ねた風な顔を一瞬して、止めていた手を再度動かす。
針金で殻を抉じ開け、中身を器へ。
「貴様の耳は何処に付いているんじゃ?」
「顔の横ですよ、リレイ様と同じ場所にほら」
「わざわざ見せんでも見えるわ!」
「お聞きになったのは、リレイ様じゃないですか」
リレイはため息をついて、男性エルフの顔を見た。
薄い絹の服装に麻のパンツ、腰には短剣を帯刀している。
「スイパーよ、貴様は言葉の綾ではないが、もうちょっとだな」
「リレイ様と違って300程歳が違うと、やっぱり学が足りないんで、そこはご了承下さい」
「で、スイパーよ。用件はなんぞ?」
針金でスイパーと呼ばれる男性エルフを指して、用件を聞く。
彼は、積み上がった殻の山を見てから彼女を見た。
「回収か、分かった分かった。お願いする」
「お疲れ様です」
スイパーは大量の殻を籠に入れて、出て行った。貝塚に殻を捨てるのだ。
一人になったリレイは、大きな溜息をついた。
「皆みたいに、体格が大きければ狩りにでも行けるのだがなぁ…子育ても、発育が子供並だと…」
自分の貧相な身体を見て触って、更に溜息をついて、また手を動かす。