後編
「ええー、みなさんお忙しい中お集まりいただきまして、連休中にもかかわらず誠に恐縮しごく・・」
「能書きはいいからよ、とっとと先に進もうぜ」
「・・・・・・」
うちの小説の“受け”のみなさんに集まってもらって、和気あいあいと座談会でも・・・なんて思ったのに、なんだか予想したのと違う雰囲気になってしまった。
日下さん、憮然としながらコーヒー飲んでるし。
この中で彼だけが浮いてるのは否めないもんなぁ・・・
いやいや、大丈夫。
とにかく座談会のMCとして、作者としてがんばらなくてはっ。
「ええと、じゃあとりあえず自己紹介も終わったし、まずはみなさんの日頃の様子を教えていただこうかと」
「日頃の様子って?」
長いまつ毛を瞬かせながら雪ちゃんが小首を傾げる。
ああもう、可愛いなぁこの子。
「えっと、みなさんが普段パートナーとどういう風に過ごしてるのか。読者の方は興味があるところだと思うのよ。私も興味あるし」
「普段は、家でゴロゴロしてるよ。出かけても顔指すからね、俺の場合」
そういう雪ちゃんを、みんなが「ああ・・・」という表情で見ている。
確かに彼は有名人だからね、どこに行っても目立っちゃうだろうなぁ。
そういう意味では家でまったり過ごす方が気が楽なのかも。
「あ、あの・・・普段はお家で何をされてるんですか?」
そう聞いているのは夏輝君だ。
そういやこの子、雪ちゃんのファンだったな。
「う~ん・・・特になにも・・・。俺の仕事は不規則だから昼過ぎまで寝てることもあるし。起きたら龍一は仕事でいなくて、気付けば数日顔を合わせてないなんてこともある」
「ええっ、それって寂しくないですか?」
「まあ、寂しいっちゃ寂しいけど、彼も忙しいしね。仕事であちこち出張行ってるし。俺も今はのんびりできてるけどコンサートとかあると忙しくてね」
「そうなんですか」
「でもいいんだ。一緒に暮らせるだけでも幸せだから」
そう言いながら花が咲くように笑う雪ちゃん。
ホント、きれいな子だよ。
「そういう夏輝君は、普段は何してるの?室伏さんも忙しいんじゃない?」
「えっ・・・俺ですか?」
逆に聞き返されてあたふたする夏輝君。
そんな焦らなくてもいいのに。
「えっと、俺は今受験生なので」
「へぇ~受験するんだ!」
「ちなみに、志望校は決まってるのかな?学部は?」
そう聞いているのは光君。
ふと見ると、真澄さんも興味ありげに夏輝君のほうを見ている。
みんな、若い夏輝君の将来が気になるのかな。
「えっと・・・T外大を目指してます。英語をやりたくて」
「T外大!すごい!国立じゃん」
優秀なんだねぇ~とか、すごいね、頑張ってね、と言われ頬を染める夏輝君。
いいねぇ、眼福、眼福。
「じゃあ毎日勉強で忙しいって感じ?毅彦さんとイチャイチャする時間はあるのかな?」
なんてちょっと突っ込んだことを聞いてみる。
途端に顔を真っ赤にして、耳まで真っ赤にしてわたわたする姿が可愛い。
あひるみたいな口をパクパクさせちゃって。
きっと愛されてるんだろうな、この子は。
「夏輝君は照れちゃって言葉にならないみたいだから、次行こうか。じゃあ光君。普段のいちゃこらぶりを自慢してやって」
「い、いちゃこらって・・・」
「透君には可愛がられてんでしょ?」
「そっ、そんな・・・」
「二人はどんなエッチをするのかなぁ~やっぱり毎晩盛り上がってるの?」
ゴホンッ!!
いきなりガタンという物音と共に咳ばらいが室内に響いた。
「そういう話題はご遠慮願えませんか」
「あ、真澄さん・・・」
「千春もいますので」
「そ、そうだよね・・・ち、千春ちゃんの前でちょっと今の発言はまずかったかな。あはは」
真澄さんがすご~く怖い顔をして睨みつけてくる。
おお怖えぇ。
綺麗な男が起こると妙に迫力があるねぇ。
しかし、この人でもこんな顔することがるんだね。
よほど千春が大事なんだな、きっと。
「えっと、そういう真澄さんは普段は千春ちゃんとどう過ごしてるの?」
「私は・・・今はまだ、色々身辺があわただしくて落ち着かないというか」
「まだ事件は片付いてねえからな」
「く、日下さん」
「あんたが早く続きを書かねえから、真澄先生だって落ち着かないんだろうが。どうなってんだよ、続きは」
「ええっと、そうですね。まあそのうち・・・」
「はぁ?!そのうちってなんだよ。あんた無責任すぎねえか?!」
「いや、その・・・(ああ、藪蛇だったぁ。っていうかやっぱこの座談会、無理があったかも・・・)」
「あの、日下さん、そんな風ににゃあさんを責めないであげてください。彼女も色々忙しそうですし、そんな中こうして懇親会を開いてくださったんですから」
「ま、真澄さん・・・あなたって人は、なんて良い人なんでしょう(涙)」
「にゃあさん、早く続きを書いてくださいね。そして私と千春が安心して暮らせるようにしてください。お願いします」
サラリときれいな黒髪を揺らしながら頭を下げる真澄さんを見て、千春も同じように頭を下げてくる。
ああ、この二人を早く幸せにしてあげなくっちゃ。
「ええと、じゃあ光君、エッチの話はおいといて、普段の暮らしぶりについて語ってくれるかな?」
「え、俺?もう終わったのかと・・・」
「そんなわけないでしょう。あなたの私生活も知りたい人はいるのよ」
「う~ん・・・私生活って言っても大したことないよ。普段は店があるから仕込みとか忙しいし。朝は透を送り出して、その後はネットしたり買い物行ったり、昼過ぎからは店の掃除、それが終われば夜の仕込みだね」
「でも休みの日があるでしょ」
「そうだけど・・・店が休みでも透さんが非番とは限らないんで」
「そっかぁ、刑事って仕事も大変だもんね」
「はい、質問!」
勢いよく手を上げたのは、雪ちゃんだ。
この子はすっかり明るくなって、以前とはまた違うきらきらオーラが出てきたね。
「雪ちゃん、どうぞ」
「日下さんの恋人について、知りたいで~す」
「はぁ?!」
この場にいる全員が思っていたであろうことを、雪ちゃんが代弁したようだ。
そう、この受け子さんたちの集まりには似つかわしくない、ひときわ目立った存在。
そんな彼を抱いている相手とはいったいどんな人物なのか。
「あんた、ルカとは何度か会ってるだろ」
「そうですけど、でもルカさんに関して何にも知らないですもん。日下さんと一緒にいる日本語ぺらぺらのチョー美形の外人さんっていうくらいしか。モデルさんなのかなと思ったけどどこのエージェントにも属してないみたいだし」
「え、モデルさんじゃないんですか?」
「俺もてっきりモデルだと思ってた」
夏輝や透も驚いているようだ。
まあ確かに、あそこまでの美形とくればモデルか何かだと思うよね。
実はヴァンパイアなんだけどね。
それはさすがに言えないよねぇ・・・
「いや、まあ、日本に来る前はそういうこともしてたらしいが・・・」
苦しそうな表情で日下さんが答えている。
その辺は適当にごまかすしかないよね、うん。
やっぱり、そうだよね~そうだと思ったと、これまたみな口々に言っている。
「日下さんの恋人は外国の方?」
そう聞いてきたのは真澄さんだ。
「そうだよ~ルカちゃんって言ってね。日下さんを陥落させた凄腕の持ち主!」
「おい、陥落ってなんだよ」
「おや、本当のことでしょう?彼と一生離れないって誓ったでしょ、日下さん」
「うっ・・」
「透さんとも言ってるんですよ、日下さんとルカさんはいつどこで何がきっかけで知り合ったんだろうねって」
「龍一も言ってたよ。日下さんは特定の相手は作らない主義の人だと思ってたのに意外だって」
「まあ、それはその・・・なんていうか・・・成り行きっつうか」
「運命の出会いだったんですねっ」
大きな目を輝かせて、両手をギュッと合わせながらそんな可愛い事を言うのは夏輝だ。
君それ、まるでおねだりのポーズみたいだよ・・・
「運命かぁ」
「そうだよね、俺と龍一も運命だと思うもん」
「私も、千春との出会いは運命、いや、宿命だったと思っています」
「俺は毅さんに拾ってもらわなかったら今頃転落人生だったと思う。彼は俺にとって救世主であり運命の人なんだ」
「俺も、透さんがいなかったらきっと独りで無味乾燥な人生を送ってたと思う。彼との出会いは運命だったのかな」
みんながそれぞれに自分たちの境遇を思い返しては、何やらうんうんと首を振ったりウットリどこか空を見つめたりしている。
ああ、完全に自分の世界に入っちゃってるよ・・・
「よう、こいつらみんな頭大丈夫か」
「ひどいなぁ、日下さん。あなただってルカちゃんは運命の相手だと思ってるくせに」
「なっっ・・」
「照れなくてもいいってば。とにかく、ここにいるみんなは運命の相手に出会えた幸運な人たちってことね」
みんなが夢の世界に旅立って収拾つかなくなったので、座談会はここで打ち切ります!
これからも、彼らには幸せな毎日を送ってもらいましょう。
ではでは、また機会がありましたら、こんな座談会を設けたいと思います♪(゜▽^*)ノ⌒☆