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魔術審問官は涙を流さない

作者: 白猫矜持



 まったくもって奇妙な死体だった。両腕を横に広げて脚をそろえている様は、あたかも十字架に貼り付けられた聖人のようでもある。だがその表情はまさしく恐怖に怯えきったもので、相当の苦しみを与えられて死んだものと見える。哀れな死者、二十四歳の若さでこの世を去った青年は、あろうことか私の弟でもあった。生前は溌剌としていたその顔は、まるで萎びた果物のように変わり果てているではないか。炎の魔術に長けていた弟は火焔の美丈夫ともてはやされていたが、もはや面影はない。おお、アジューカス・黒鷺・エーレンブルグよ。哀れなわが弟の魂に安らぎあれ。

「……何ゆえ笑っているのかね、審問官どの」

 怪訝な口調だった。中年の男性、警邏隊の隊長どのだ。私は口元に手を当てて、笑っていましたか、と訊いた。

「何を考えておられるのか知らないが、被害者は弟君だ。いささか不敬ではなかろうか」

「ははあ、これは失礼。お気を悪くしたのならば謝りましょう、隊長どの。あまりにも悲惨な表情で死んでいたものですから、つい、おかしくなってしまいまして」

 隊長どのはさらに表情を険しくして押し黙る。どうにもこの禿頭の男は、私のことが気に入らないらしい。犯行現場、すなわち弟の書斎に私を通したときから、羽虫が目の前をちらついているかのような表情ばかりしている。まったく、私がアジューカスの死体にどのような感想を抱こうとも隊長どのには関係ないだろうに。それとも、現場を荒らされるのがよほど嫌なのだろうか。残念ながら、あなたはこの事件ではまったく役に立たないのだよ、隊長どの。あなたが役に立たないからこそ呼ばれたのではないか、魔術審問官であるこの私が。

「さて、犯人の目星ですが……」私は死体の首元に手をやった。そこには穴が二つほど空いている。獣の牙がすっぽりと当てはまりそうな。「この吸血痕、間違いないですね。血法師の仕業でしょう。身体の血がすべて抜き取られている。このおかしな顔……失礼、苦しみ方からして、腹の足しにした、というわけではなさそうですね。ゆっくりと蒸発でもさせたのでしょう」

「血法師だと……? 莫迦な」

「莫迦もなにも、こうして目の前に犠牲者がいるのですから、否定はできますまい。血法師が伝承の中でのみ生きている存在だとでも教わりましたか? それこそ、莫迦莫迦しいことこの上ないですね……いえ失敬」隊長どのの顔が赤くなってから、さらに青くなった。それがまたなんとも珍妙奇天烈で、私は笑いをこらえるのに精一杯だ。「血法師、血脈魔術師、第三種禁忌魔法術師、ハーカー流魔法使い、ヴァンパイア……呼び方は様々ですが、血を操る魔術を得意とする魔術師は、実在するのです。まあ、隊長どののように魔術と無縁の人々には知る機会などないでしょう。それほどまでに、稀有な存在であることは確かです。が、現に存在している。そしてそれは脅威である。だからこそ、私がここにいるのですよ。俗に言うヴァンパイア狩り、というやつですな。ははは」

「ふうむ……」隊長どのは口をつぐむ。いよいよ自分の出る幕がないと悟ったのだろう。しかしながらその顔からは畏れと怒りの色とが消えることはない。すなわち、血法師への、魔術という得体の知れないものへの恐怖と、私のような小娘がでしゃばっていることへの憤慨。長年にわたってこの町を守ってきた警邏隊隊長としての矜持が云々。実に分かりやすい。

「そういうわけでして、ここから先は私たち魔術協会の仕事です。死体は預からせてもらいますよ」

「……うむ、仕方あるまい。では部下に運ばせよう」

「いえいえ、その必要はありません。リリィ」私はさきほどからずっと背後で控えていた従者に声をかける。リリィ・白妙。私よりも頭一つ、いや二つ分は大きいが、まだ酒の飲める歳にもなっていない、あどけない少女。「この死体を私の研究所に運びましょう。なるべく今の状態を維持しなさい」

「分かりましたぁ」間延びした声がもどかしいが、それでもリリィは優秀な魔術師だ。一枚の白い布を取り出すと、死体の顔にそれを被せる。続いて触媒を取り出し、布の上に載せる。ラディス・クリフ。北国の雪山に生える、雪のような花だ。それから胸の前で手を合わせると、一息置いてから呪文を唱え始める。「Exxxxdxxxx-EyyyyJyyyy-ATANAHLAM」拡張図式の法。白い布は瞬く間に広がって、死体の全身を包み込む。さらに二言呪文を足すと、白い布がみるみる真紅に染まってゆくにつれて、布のふくらみが減ってゆく。ついに布全体が真っ赤に染まったとき、そこには死体の一片も残されてはいなかった。

「何と、これは……」隊長どのは顔面蒼白だ。

「〝空式〟の魔術を目にするのは初めてですかな? ものとものの境目を取り払い、一時だけまぜこぜにしてしまう法のことです」などというのは実に適当極まりない解説だが、詳細に話したところで魔術に疎いものには分かるまい。不得要領にうなずく隊長を尻目に、リリィは布を丁寧に折りたたんで鞄の中に厳重に仕舞いこんだ。立ち上がりざまに、天井の質素なシャンデリアに頭から突っ込んだことを抜きにすれば、見事な手際だったのだが。「何をしているんですかねぇ……」

「ご、ごめんなさぁい、天井が思っていたよりも低くてぇ」

「あなたの背が高すぎるんですよ。ほら、泣いてないで行きますよ、リリィ」

 呆然とするしかない隊長どのを置いて、私はリリィを引き連れて弟の書斎をあとにする。おお、哀れな弟よ。三ヵ月ほど前に酒を酌み交わしたのが最後だったね。まさか、天才のきみが血法師などに殺されてしまうとは思いもしなかった。どうか安らかに眠ってくれ、仇は必ず私がとろう――などとは、小指の甘皮ほども思わなかった。ところで私の小指の甘皮は、普段から手入れされていて実に綺麗だが、これは魔術の大切な触媒のひとつである。紅茶の香りを引き立てるために重宝するのだ。ところが、それが少し、傷ついてしまっている。どこかで引っかけてしまったのだろうか。私にはこれが気がかりでならない。

 まあ、つまりは、そういうことなのだ。



 魔術協会の中でも、魔術審問官といえば忌み嫌われる傾向にある。なぜなら、魔術によって魔術師を裁くからだ。人類の発展に貢献するべく編み出され続ける魔術を、そのような野蛮な行いに使用するなど言語道断、というのが反論者たちの意見だ。しかし考えてみるといい、私たちが裁くのはあくまで魔術を悪用したものであって、それはすなわち平和維持、魔術師という稀有で常識はずれな存在を世間の目から守るに役立っているではないか。むしろ糾弾されるべくは魔術を悪用する罪人ではなかろうか! などと言い返したいのも山々なのだが、大多数の意見が採用されるのは世の常だ。魔術審問官である私の研究所は、魔術協会本部の中でも随分と奥まった場所にある。

 そういうわけで、老若男女様々な魔術師たちがひしめく協会内部を延々と歩いている。本来ならばすれ違う魔術師、特に位階が上の導師などには挨拶をするべきなのだが、あいにくと私は長旅のせいで疲れきっている。何ゆえ弟、愚かなるアジューカスは、都市から遠く離れた田舎町に工房など構えたのだろうか。馬車に揺られること三日、ろくに眠ることのできなかった私は朦朧とした意識で自室の寝床を求めているのであった。反面、私の背後をひょこひょこと追っかけてくるリリィ・白妙ときたら、いったいどういう神経をしているのか、あれほどがたがたと揺れ動く馬車の中でも快眠だった。おっかなびっくりと他の魔術師たちの顔色を伺っては、しきりに会釈をしながらついてくる様からは想像もできない豪胆さである。

「リリィ、もう少し胸を張って歩きなさいな。平板だからって気にすることはないのです、むしろ見せ付けてやるつもりで堂々と歩くがいいのですよ」

「荷物が重いんですぅ、お師匠さまも手伝ってくださいよぅ」

「何を言うのですか、そんな鞄を持ち歩けるのはあなたぐらいのものです。私に手渡してみなさい、その途端に腕の骨はおろか、下手をすれば全身がばらばらになってしまいますよ」何しろリリィが持ち運ぶ大仰な鞄は六〇キロほどもあるのだ。か弱く儚い私には運べない。文句を垂れつつも難儀することないリリィの怪力も相当なものである。

 さて、苦心してついにたどり着いた私の自室兼研究所の扉に手をかけたところで、私の名を呼ぶものがいるではないか。それも魔術師名のラビリスではなく、わざわざ本名のクシャーナ・竜胆・エーレンブルグと、ねっとりとした妙な発音で口にされたものだからたまらない。「くしゃぁーなぁー」と。いくら親しいとはいえ、こればかりはぞっとしない。

「お帰りなさい、クシャーナ。ずっと待っていたのよ」

「あっは、ミシェーラ。今日もまた随分と悲惨な……いやいや、健やかそうで何よりですねぇ。ところで何か御用でしょうかな、私は休養を……いやいや、急用がありましてね」

 水銀をはじめとした流体金属に関する魔術の偉才ミシェーラは、実にけばけばしい、もとい個性的な厚化粧でもって私に迫ってくる。近い。吐息が触れる。加えて流体魔術師からは酸化した鉄のような尖ったにおいがするのだ。それを香水ででたらめに隠そうとするものだから、とんでもない臭気が鼻腔を刺激してくるので、悶絶しかねない。

「聞いたの。あたくし、聞きましたわ。ああ、麗しいあなたの弟様が、卑しくて汚らわしい血法師に命を奪われたのだとか……なんて可哀想なの、クシャーナ!」

 ミシェーラの芸術的な鬼気迫る表情にも仰天だが、何より「麗しい」と「可哀想」という言葉が私と弟、どちらに掛かっているのかが気になって仕方がない。ぜひとも後者であってほしい、現世の呪いをついでにあの世に持って逝ってはくれないか、弟よ。

「これはこれは、わざわざありがとう。しかし安心してくださって結構です、仇は必ずとりますので」

「もちろんだわ、ええ、もちろんですとも。あなたの魔術は素晴らしいのだから、ええ」私は彼女に魔術を披露した経験などないのだが、どうやら盲目の信仰心を寄せているらしい。「けれども、あたくし、こうも思うの。これを機に、魔術審問官などという野蛮なお仕事はお辞めになってはいかが?」

「ははあ、またそのご提案ですか……」

「あなたに危険な目に遭ってほしくないだけなの。だって、あなたの弟様は、協会では血法師の排斥派だったでしょう? きっと襲われた原因はそれなのだわ。だから、ミシェーラ、あなたにもいつ、あのおぞましい者たちの魔術が降りかかってきてもおかしくないのだわ……ああ、あたくし、それだけが心配で、心配で、気が狂いそうで夜も眠れないのだわ」

 これ以上狂う余地があることになお驚きだが、つとめて冷静にミシェーラの提言を突っぱねる。「いやいや、だから心配はご無用なのですよ。血法師ごときにやられる私ではないし、わが愚弟とて、結界をおろそかにしていたがゆえの結末。魔術師にあるまじき無用心さ、まさに自業自得というやつです。それに、私は、この仕事が好きなのですよ。趣味でやっているといってもいい。ああ、だから、その楽しみを私から奪わないでくれませんかね?」

「まあ、そんな、あたくしは……!」残像さえ見える勢いで、ミシェーラは私の手を掴む。「別に、別にあなたの、クシャーナの楽しみを奪おうとしているのではないのだわ! ただ、あなたの身を案じてのこと……ああ、どうか許して頂戴、気分を害したのなら謝るわ、だから――」

「何も謝ることなどないのですよ。そのお気持ちだけ、頂いておきますので」じんわりと滲むミシェーラの手汗が、なんとも言えない。私はやんわりと彼女の手から逃れると、扉を開けてそそくさと中へ入ってしまおうとする。「それでは、これで失礼しますよ。憎き血法師の手がかりを探さなければなりませんのでね」

「ええ、ええ、あたくしにお手伝いできることがあれば、何でも仰って頂戴な。いつでも、喜んでお受けするわ」

 軽く会釈をして、ミシェーラは去ってゆく。その折に、会話に入れずに呆然としていたリリィに向けた視線ときたら、まるで狂犬だ。ともすれば血法師よりも恐ろしい、兇念に満ちた瞳をしていた。まあ、リリィもリリィできょとんとした顔で頭を下げるあたり、鈍感な神経が実に役立っているようである。

 ともかく、厄介な隣人を追い払ったところで、ようやく我が家にたどり着けたというわけだ。外見はちんまりとした小屋のようだが、入り口に拡張図式が施してあるため、中は構造体の五倍ほどの空間に広がっている。もともとの建物自体が小さいため、空間の拡張にそれほどの効果は見込めない。とはいえ、研究をするついでに居住する目的としては十分だろう。

「やぁれやれ……私は少し仮眠させてもらいますよ。リリィ、アジューカスの死体から魔素の痕跡をあらかた抜き取っておいてください。三時間ほど経ったら戻ってきますから」

「はぁい、分かりましたぁ」

 リリィは返答するなり、莫迦でかい鞄を手に研究室へと引っ込んでいった。魔術を使用すると、そこには必ず魔素が残る。どれほど高位の魔術師であろうとも、その痕跡を隠し切ることは不可能だ。そして、魔素はそれぞれが独特の「色」を持っている。これを手がかりにすれば、使用した魔術の種類はおろか、術式や魔術師そのものまで特定できるのである。もっとも、そこまで調べ上げるにはかなりの技術と鍛錬が必要となるわけだが、小手先の器用なリリィはいともたやすくやってのける。まったくもって優秀だ。さすがは私の愛弟子。師匠が最高だと弟子もいい。

 安心すると、眠気というものは八割り増しで襲い掛かってくるらしい。自室に戻ったところで、私の意識は限界に達した。荷物の整理をする気力さえなく、外套だけかなぐり捨てて私はベッドに倒れこんだ。一、二、三、と数えたときにはとっぷりと眠りの泉に沈んでいって、

 ――気がついたら、十八時間が経過していた。

「……あっは、参りましたね」

 ポチポチと規則正しいリズムを刻み続ける、ミシェーラ特製の水銀時計を気だるく見やりながら、私は強張った体を思い切り伸ばした。長旅の疲れもあって、全身の筋肉が攣りそうになる。未だにしょぼしょぼと霞む目をこすりながら、魔素の抽出を終えているであろうリリィのもとへ向かうことにした。

 すでに日は高く、中天に差し掛かろうとしているところだ。窓から容赦なく侵入してくる日光に目を細めながら、潜まりかえった研究室の扉を開く。案の定、そこにはぐったりと伸びてしまっているリリィの姿があった。寝台にアジューカスの死体を寝かせ、その傍らに伏せって寝入っているのである。これが常識ある凡庸な魔術師であれば何事かと騒ぎ立てるものだが、人の死体ごときをいちいち気にかけるリリィではない。人は死ねば単純な物質になるだけだ。魂の散ってしまった肉体は、その辺りで収穫できるカボチャやニンジンと何の代わりもない。少しばかり複雑な構造をした有機物だ。私にとっての生物とは、まあそのような感じの認識なのだが、俗物的な魔術師たち、つまるところ世間一般の考えとは乖離しているようである。死者は手厚く弔えだの、死体をぞんざいに扱うことは魂への冒涜だのと口やかましいのだが――私から言わせてもらうと、そのような考えこそ痴愚なのではなかろうか。死人の魂はどこにある? 死して未だ肉体に宿っていると? 否、否であるのだよ。この世界は多重構造だ。無限分割される立体的世界線の、もっとも表層部分に位置するのがこの現実で、死した魂はそこから下層へと延々と終わることのない落下に入るのである。つまり、魂はここにはない。失われた魂は二度とは戻らない。よって、死体もまた、純粋に物体に成り下がるしかないのだ――新たな魂を与えるなどしない限りは。

 そういうわけで、死体というモノに敬意を払うというのは、無限落下という苦しみを味わう魂にとっての冒涜である。そう教育してあるので、リリィは私と同様、死体をフラスコや薬瓶と同列の物体として捉えている。魔術審問官としての仕事に必要であれば丁重に扱うし、不要となれば廃棄するだけだ。まあ、それくらいの心構えでないと、この仕事は勤まらない、ということもある。関わる死体の数は、知り合いの数よりも多いのだから。

「ほら、リリィ、起きなさいな。こんなところで寝ていないで」と揺すってはみるのだが、一度寝入ってしまったこの娘がいかに強敵か、私はよく知っていた。時間を無視してしまった私にも責任はあるので、彼女を寝室へと運んでやろうと体を抱え込むのだが、いかんせん図体が大きい。たおやかで繊細かつ非力な、儚き雪月花のごとき私には到底持ち上げることもできず。「ふっ……むぅっ……く――あっ」つるりと手が滑ったときには、ゴン、と強烈な音を立ててリリィの頭は渡栄石の床に落っこちてしまっていた。

「……いい音がしましたね」

「……んうぅ……お師匠様……それはお塩ではなくてユキザクラチョウの鱗粉ですぅ……」などとよく分からない寝言を呟いているので、きっと大丈夫だ。よしとしよう。馬車の中でも快眠だったのだ、床に放っておいたところで問題はあるまい。いやはや、わが弟子のいかに頑強であることか。

「さて、気をとりなおして……」寝台の上で両手を組んでいる、それはそれは血色の悪いアジューカスの肉体には、複雑奇怪な紋様が浮かび上がっている。血管のごとき様相を呈したそれは、魔素だ。藍色でゆるやかな曲線を描いているものは、アジューカスの体内に張り巡らされた、彼自身の魔素回路である。藍の二三番色は、火炎魔術の中でも特に扱いが難しい紫焔塒を用いるものに特有の色だ。さすがはわが弟、天才の名をほしいままにしただけのことはある。

 それと重なるようにして走っている鋭く折れ曲がった赤色の紋様は、ともすれば「回転」を制御する転式魔術の痕跡にも思える。しかしながら、その魔素に秘められた怨念の禍々しさを隠すことはできない。紅の六六番。間違いなく、血法師の手によるものである。アジューカスの四肢を蝕み、物言わぬ物体へと変えてしまった魔術の形跡。

「なるほど、血液を逆流させて首に空けた穴から抜き取ったというわけですか。転式のかたちをしているのは、そのせい」

 複合魔術は、決して難しいというわけではない。それでも属性を考えればという話であって、血液という特定の流体を操る魔術と、回転という運動を制御する魔術というのは相性が非常に悪く、魔術の構築も制御も容易く行えるわけではない。流体を操るために必要なのは求心力であって、逆に回転によって生じるのは遠心力である。この相反する属性を同時に扱うとなれば、そう、私の足元ほどの魔術師でもなければ困難きわまることだろう。アジューカスを誅した血法師は、よほど研鑽を積んだものと思われる。肝心なのは、その身元なのだが――

「……うぅ、何だか頭ががんがんしますぅ……あ、おはようございます、お師匠様」したたかに打ちつけたであろう後頭部を押さえながら、リリィはのっそりと立ち上がった。

「おはよう、リリィ。よく眠れましたか?」とはわれながら白々しいことこの上ない挨拶だったが、リリィもリリィで「はい、ぐっすりと眠れましたぁ」などと朗らかに言ってのけるものだから、やはり私の想像を上回る。

「魔素の抽出、ご苦労様でした。お陰で犯人の尻尾が掴めそうですよ」

「わぁ、さすがはお師匠様です! それで、犯人はいったい誰さんなんですかぁ?」

「ここをご覧なさいな」小首をかしげるリリィに、私は死体の首元を指し示した。「二つの吸血痕の周囲に、ひときわ緻密な魔素が見えるでしょう?」

「はい、これはぁ……蒸発、でしょうか? 炎の術式とよく似ていますけれども、燃焼反応の式が書かれていませんねぇ……単純にものを熱して、状態変化させるための術式かと」

「まあ、そんなところですね。血液のすべてが蒸発するなど、本来ならばありえません。そこに含まれる水分ならともかく、赤色血球組織や白色血球組織、エーテル、アルシトロパン型魔素といった固形物が蒸発するなど考えられませんからね。しかしながら、死体の体内には一滴の血も残っていない……現場にも目立った血痕は見当たりませんでした。それもすべて、この吸血痕に施された術式が原因なのです」

「お師匠様、この魔術は、いったい……?」

「さあ、分かりませんね。見たことがありません」

「えぇぇ~……」

「そう露骨に落ち込まなくてもよいではないですか。流体も燃焼も蒸発も、私の専門ではないのですから、分からないのも当然なのですよ」

「それって、胸を張って言うことでしょうかぁ……」

「おや、この私に口答えするというのですか? リリィ・白妙の分際で?」

「ひゃっ!? あやややや、そ、そんなつもりじゃありませんよぅ!」両頬をわしっと掴まれた奇妙な表情で、リリィはじたばたと抵抗する。

 他者が組み上げた魔術式を完全に理解することなどできはしない。魔術の本質とは、すなわち世界に対して語りかけることにある。自然の法則、神がこの世界を創り給った由来と意味を十全に理解した上で、その「基礎」の上に「自らの法則」を積み上げてゆくのが魔術式だ。魔術式の視覚的構造、つまり紋様のパターンというのは自然法則にのっとったものであるから、類型化することができる。しかしながら、その紋様を形作っている式、ある種の言語によって構成された一連の文脈は、組み上げた魔術師本人以外には決して理解できない。なぜならば、その言語は閉じているからだ。言語を用いた本人にしか意味が理解できない――いや、意味を与えることができるのが、術師本人のみなのである。他者が真似をして術式を書き写したとしても、何も魔術的効果は期待できない。私的言語――それが魔術式の本質である。

 それは例えるならば、異民族との接触に似ているかもしれない。東には魔術を用いぬ野蛮人が住まうとの伝承だが、彼らの用いている言葉を、その意味を知らずしてただ聞いたままを口に出したとて、それで会話が成立したとは言えまい。双方が言葉の、道具の意味を正しく理解してこそ、コミュニケーションは成り立つのだ。魔術式というのは、つまり魔術師と世界との対話に他ならない。かくあれかしと世界へと祈りを奉げる行為、と表現すれば聞こえはいいが、結局は自然の法則を自らの都合のいいように侵食することが魔術。われが、いやわれこそが、と理を流し続ける他の魔術師など、己にとっては狂人にしか思えない――それが魔術の常識というわけだ。逆に言えば、他人の魔術式が理解できるということは、他人の欲望、法則に侵食される危険性を孕んでいるということでもある。ゆえに畢竟、まともな魔術師ならば自分以外のものの魔術式に触れようとしない。私のような魔術審問官が忌避される所以の一である。

「フムン、魔術式や魔素の色からある程度は相手を同定することは可能ですが……気になるのはアジューカスを仕留めた方法ですね。あれはあれで、愚直ではあったが愚昧ではありませんでした。そう簡単に殺されてやるような男ではなかったはずですが」ミシェーラには愚弟の無用心、と述べたが、その実そこまで弟は愚者ではなかったし、魔術の対決という面においても凡才ではなかった。

「寝込みでも襲ったんですかねぇ?」私の指から解放された頬をふにふにと揉みながら、リリィは言った。「不意打ちでもされたんじゃあ……というか、そうとしか思えませんよ。アジューカス様が油断なさるとは思えません」

「そういえば、リリィはあれと会ったことがありましたね」

「はい、とても聡明なお方でした。ご自身の魔術体系に関しても、非常に厳格かつ真摯な態度で臨んでおられて……あと、その、ふふふ」口元どころか顔面全体がとろけてしまったリリィは、つまるところアジューカスの美貌とやらに骨抜きにされてしまったのだろう。そういえば、リリィが幼い時分によく相手をしてやっていた。死してなお女性の心を掴んで止まぬとは、そんなにも魅力的だっただろうか、この朴念仁の顔をというのは。

「とにかく、相手の身元とその手段とを確認すべきですね。いささか情報が不十分ですが、まあできないこともないです。管理局へ行きます、支度をしてきなさい」

「はぁい」

 パタパタと自室へ駆けていったリリィを見送って、私はアジューカスの死体に視線を落とす。苦痛に歪んだ顔、全身の血液を逆流させられた挙句、あらかた抜き取られて面影を失った死者。殺すことが目的ではない、相手に怨念を思い知らせることが目的のやり方だ。そしておそらく、アジューカスの死は手段であって目的ではない。確信はないが、そう直感した。

「……なかなかどうして、飽きさせてくれませんね、ヴァンパイア」

 血液を支配する魔術師の一族。その魔術体系は一家相伝だ。決して外部には漏らさない。というよりも、ひとたび血法師の領分に入ったものは二度と外の世界に逃さない、というのが彼らの金科玉条である。言ってみればひとつの運命共同体だ。血法師たちは人知れぬ辺境に集落を構え、そこで一生を過ごすというが……現に、こうしてわれわれの世界に侵入し、被害を及ぼしている。ゆえに、危険視されるのだ。禁断魔術の誹りを受ける。大人しく、閉じた世界で偏屈な一生を送ればよいものを。

 まあ、外様の彼らがいったい何を思ってわれらが聖域の土を踏んだのか知らないが、そのお陰で私は退屈しないし、魔術審問の報奨金もいただける。アジューカスを失ったのは、余暇を潰すための小説をうっかり川に落としてしまった程度には残念だが、それでかの血法師と戦火を交える機会を得たというのならば、幸運と呼んでもよいのかもしれない。堅物のアジューカスならば私の態度に憤激するだろうが、死者に口なしだ。

 とにもかくにも、血法師を特定しなければ始まらない。魔術協会の管理局では、過去に使用されたすべての魔術が記録として残っている。そんな出鱈目なことをやってのけるのは、協会の頂点に立つ三賢者のひとり、〝白色〟を司るルキウス・観世・グラキエースなる老女の力。彼女の魔術――天眼、我肌、超越的俯瞰図などと呼ばれる〝知式〟はいかにも変態的だ。残る〝赤色〟と〝黒色〟もまた尋常ではない魔術を用いるが、ルキウスのものは規模が違う。この世界全体を、常に監視しているに等しいのである。もっとも、あまりに煩瑣かつ膨大な術式を常時展開し制御する精神力は想像を絶するので、知ることしかできないのが欠点か。つまり、使われた魔術の式と魔素を知り、記録することができるが、言い換えてしまえばそれだけだ。場所も術者の名も分からない。それでも、世界に生じる魔術の数々を、わが身に生じた痒みを感じ取るかのように知ってしまえる、などというのは桁が違う。次元が異なる。私は自らの限界を知りたいとは思うが、ルキウスほどの異常者にはなりたくない。その術式を維持するために、一〇〇年以上も座したまま微動だにしない物置と化すことなど受け入れないし、ましてやその状態を喜ばしいと思うなどと。いやはや、私のような常識人には理解できない思想だ。

 だが、魔術審問官としての役儀をこなすのならば、あの狂人に助力を仰がなければならないというのは情けないものである。いずれは管理局の助けを借りずとも、魔術式と魔素から追跡できるような法則を編み上げたいものだが――

「……?」

 不意に、かすかな緊張が首筋に走った。この工房に張り巡らした結界が、何者かの接近を感じたのである。それだけならば何ということはない、私に用事のある稀有な来訪者がやってきただけの可能性もある。だが、結界に与えた仮設人格は、私にわざわざ「警告」として、悪寒のごとき感覚を送り込んできた。戸口の向こうで、魔術師が、術式を攻勢に組み上げながら、わが城に立ち入ろうとしている――そう告げているのだ。

「お待たせしました、お師匠さ――」鞄を手に駆けてきたリリィを、手を挙げて制する。

「どうやら、敵のようです。構えなさい、リリィ」

「て、敵っ……!?」

 驚くあまり鞄を取り落として足の上に落としたリリィが悶絶するのと、扉を吹き飛ばして闖入者が現れたのと、果たしてどちらが先だったか。豪速で迫り来る扉は、しかし私の手前で制止する。結界が紡ぎだした金属繊維のネットが受け止めたのだ。倒れた木の板の向こうに佇んでいたのは、私のよく見知った顔だった。

「――ミシェーラ」

 けばけばし――いや、華美なことこの上ない化粧と装束に身を包んだ、水銀の魔術師ミシェーラ。その周囲では、求心力に従って形成された小さな水銀の球体がいくつも浮遊している。いわゆる臨戦態勢というやつだった。ついに情念を暴走させて私を襲いにきたか――と思ったがそうでもないらしい。血走った眼はまあ元々なのだが、目じりから頬にかけての毛細血管が真紅に浮き出ているのは、まともではない証だ。眼球がどちらも別々の方向を向いているあたり、正気を失っているらしい。

「く、く、くしゃぁな、くしゃぁなぁ」うわごとのように私の真名を繰り返す有様は、さながら生ける屍。たまったものではない。

「リリィ」

「は、はい……?」呼ばれた愛弟子は、足を押さえながら上目遣いで私を見返す。ギクリ、という擬音付で。

「あの相手はあなたがやりなさいな。確か、来月には昇級試験がありましたね? ちょうどよい機会です。小手調べと思って、調伏して御覧なさい」

「え、えぇぇ、無理ですよぅ、ミシェーラ様のご相手なんて!」

「つべこべ言わずに相手をして差し上げなさい。あれはどうにも、あなたとやる気があるようですよ」

 ミシェーラの視線は定まらないが、全身から立ち上る殺意は明らかにリリィを意識しているようだった。日ごろのうらみつらみ、加えて妬みをここで清算するつもりらしい。健全な状態のミシェーラであれば持て余しただろうが、今の容態ならばリリィでも十分対処できると私は判断した。それに恐らく――彼女はもう助かるまい。見よ、千鳥足でこちらに歩み寄ってくる今も、ミシェーラの鼻腔や眼窩からは、赤黒い血液がしとどに流れ出てくるではないか。先が短いのならば、本懐を遂げさせてやるのが慈悲というもの。ああ、何と慈愛深いのだろうか、私は!

「そ、それでは……よろしくおねがいしますぅ」

 状況を理解しているのかいないのか、律儀にもリリィは低頭する。それに対して、ミシェーラは「お、お、お、お、お、お、お、お、お」と深淵の底から響く地獄の風のようなうめき声を返すだけだった。だが、彼女の術式はすでに展開している。体の周囲を浮遊する水銀――言ってみれば、弾丸を装填して引き金に手をかけているに等しい状態。間違いなくミシェーラが先手を取る。ならば、リリィの成すべきこともまた自ずと決まる。

「お、お、お、お――OOOOOORGMENGAM」血に塗れた唇が紡ぎだしたのは、水銀の槍を形成する祈り。螺旋を描きながら宙を邁進した水銀は、生きる銀の名のごとく意志をもつかのように的確にリリィの心臓へと迫撃し。

「Exxxxxx-Fxxxxxx-Yxxxxxx BORNEXTEM」ひらりと舞った白い布が、暴食の魔獣と化す。水銀の螺旋槍は、鋭利な先端で繊維を貫いた、かに思えたが、切っ先は布を突き抜けなかった。食われているのだ。布の表面に生じていたのは、猫の口に他ならない。猛毒の金属を、そのかわいらしい口が受け止め、噛み砕き、咀嚼し、嚥下する。その先にあるのは消滅のみ。空間魔術を専門とする、リリィが独自に編み出した防禦魔術である。

 さて、魔術決闘の定石とは、一手ごとの攻守の逆転にある。魔術による攻撃などというのは、その威力や可能性は確かに猛威であるものの、対策さえ万全であれば何ら恐れるに足りない手品へと堕落する。ワンパターンなのだ。水銀を操るにしても、その軌道や速度、角度といったものまで制御しなければならない。ひとつの術式でひとつの動きしかできないのだ。そういう弱点を考えれば、魔術よりも武術のほうがよほど使い勝手がいい。

 対して防禦魔術は、相手の攻撃に対して一定の魔術動作を返すだけで成り立つ。魔術を逸らすか、跳ね返すか、せき止めるか。その選択を誤らなければ防禦は容易く行える。術式も、攻勢に比べれば簡略かつ迅速に編むこともできる。そして余剰の寸隙で攻勢魔術に移ることも。

 ゆえに、ミシェーラの水銀槍を防いだ今、リリィが攻撃に転じる番だった。もっとも、ミシェーラにまともな理性が残っていたのならば、の話だが。あれはもはや狂っている。身を守る、命を危険から遠ざけるという当たり前の根源的欲求さえも度外視し、次なる攻撃に移ろうとしていた。それは命を投げ出すに等しい。血反吐とともに吐き出された呪文は、殺意のみで編み上げられたようだった。

「あ、あ、亜嗚呼亜嗚呼亜嗚呼――AMALGAmAlaBHAm」

 そしてそれは、攻撃術式を組むリリィの呪文と重なり。

「WrrrrrrrrrrrQrrrrrrrrrrrrGrrrrrrrrrrrr ROZENCAV」

 水銀の大蛇が現出すると同時に、黄金の獅子がリリィの胸元から躍り出た。しかし獅子の牙のほうが速いのは必定、猛然とミシェーラにあぎとを剥く。そこへ仮設人格をもった大蛇が絡みつくが、いかんせん攻撃魔術、主を守るための動きではない。ただ圧倒的な殺意を発露させ、獅子の巨躯をぎりぎりと締め付けるだけである。ならば当然、獅子の牙はミシェーラに届き。

「あが、ァ――ァ、ァ、ああああ」首の半分が餌となる。明らかな致命傷、気管と動脈とを食い破られたミシェーラはまさに虫の息だった。

 にも関わらず、いまだに動きを止めないのはどういうことか。

「このまま暴れさせてやるのも一興ですが……私の工房がめちゃくちゃにされてしまうのも看過できませんね」

「お、お師匠様、危険です、お下がりください……!」

 リリィの忠告を無視して、ミシェーラと、その首元に食らいつく獅子、それに絡みつく大蛇に歩み寄る。そして下らない喧嘩を諌めるために、三度ほど呪文を言祝いだ。黄金の獅子と水銀の大蛇は求心力を失いただの金属へと還元され、崩れ落ちる過程で融合しアマルガムと化した。そしてミシェーラは、死にゆく身体にわずかばかりの生気を取り戻し、失った声帯を震わせる。「――、――!」

「あなたに私の魔術を披露したのは、これが初めてでしたね、ミシェーラ。できるならば、使いたくありませんでした。わが愛しき友に、このような過酷な痛苦を与えてしまうなど――それでも、私は狂ったままのあなたを見送りたくなかったのです。美しき姿が、あなたの最期であってほしかった。私を赦してくれますか、ミシェーラ?」

「――っ! ――――!」目に涙を浮かべ、首を左右に振りながら、ミシェーラは私にすがりつく。その手が私の体にかかる前に、とうとう力が尽きたのだろう、膝を屈して前のめりに倒れこむ。

「もうよいのです、ミシェーラ。あなたは何も悪くありません。あなたの仇は、私が必ず討ってみせます。だから、安らかにお眠りなさい――」げぼごぼと血の泡が音を奏でる中、私はミシェーラの体を支え、仰向けにする。その瞳は、死を間近に捉えているというのに、歓喜に打ち震えていた。「下層の楽園で会いましょう、わが愛しき友よ」

 ミシェーラの瞼が、ゆっくりと閉じた。口元には安らかな微笑が浮かんでいた。水銀の魔術師、ミシェーラ・累世は死後の安寧を得たようである。

「……さて、これぐらいお膳立てをしておけば、化けて出ることもないでしょう。さぞや満足そうな寝顔……ではなく、死に顔ですし。ところでリリィ、怪我はありませんか?」

「あ、はい、私は大丈夫ですぅ……けれどもお師匠様、いまの魔術は何だったのですか?」

「教えません。教えてしまえば、あなたも同じような目に遭いますからね。知りたければ、自力で答えにたどり着いてみなさいな」

「ええぇ~……いつもそうやってはぐらかしてばかり」と頬を膨らませるリリィを黙殺して、ミシェーラの死体を確かめる。その首元、血にまみれて分かりづらいが、そこには確かに二つの穿孔があった。アジューカスのものと同じ、血法師の痕跡。

「……なるほど、宣戦布告ということですか」

 ミシェーラの肉体から流れ出た血液が、床に紅の文字を形作ってゆく。刻まれた言葉は「VENGEANCE」――復讐の誓いと、決闘の場所。ここで決着をつけてやると、血法師のほうからけしかけてきたのだ。

 アジューカスを狙ったのも、ミシェーラを殺めたのも、すべては私を手にかけるため。もとより単純極まりない、血法師が仕掛けてきた陰惨なる復讐劇ということだ。もっとも、これまで私が裁いてきた血法師は一人や二人ではない。罪を犯したものには必ず制裁を加えるべし――魔術審問官として当然の理念のもと、罪人に罰を与えてきたに過ぎない。それで恨まれるというのだから、いやはや、魔術審問官とはつくづく報われない仕事である。

「手間が省けましたね。お誘いに乗って差し上げましょう」

「ええっ、危ないですよぅ、相手の挑発に乗るなんて!」

「おやリリィ、私のことが心配なのですか?」

「当然です、お師匠様は私のお師匠様なのですから!」

 あどけなさの残る顔立ちに浮かべた必死な表情は、何とも愛しい。

「ならば信じなさい。いかなる罠を用意していようとも、私が血法師ごときに遅れをとるはずがないでしょう」

 そう、私の魔術は、誰にも負けない。負けるという概念など持ちえない術理であるがゆえに。いかなる強力な魔術を用いようとも、それが魔術師によるものだというのならば、私の命は脅かされない。

 口元に浮かんでいた無意識の笑みを自覚して、なるほどこれだから魔術審問官はやめられないのだ、と心の中で独りごちた。


■■■


 血法師とは――その名のとおり、血の魔術を操る一族のことである。血とは即ち命の代替、生きるという現象を凝縮した液体なのだ。命を操る術、それがヴァンパイアという蔑称を受ける、われらが一族の秘伝だ。

 なぜ、われらは蔑まれなければならない?

 なぜ、われらは虐げられなければならない?

 そもそも、なぜ、われらは閉じた世界で生きなければならない?

「――お前には、血式を繰るだけの理由がある。生きるため、命をつなぐためには欠かせぬ法よ」

 荘厳なる玉座、血法師一族の城に住まうわれらの王はそう告げた。齢二〇〇を超えるであろう老体からは想像もつかぬ重々しい響き。身体はすでに朽木に等しいが、闇に光るその双眸だけは、若き日のまま、炯炯たる輝きを失っていない。

「ならば、ならばなぜ――!」私は王の言葉に反論していた。王に楯突くなどと不届き極まりないが、それでも語気を強めずにはいられなかった。耐えられなかったのだ。「なぜ、わが一族が化生の型に嵌められなければならないのです!? 生きながらえるため、命を繋ぐために血式は不可欠であるのに……われらに生きる権利はないと?」

「そうではない。そも、生きることは権利ではない。生命の義務だ。生まれたのならば、生きなければならない。血式はそのためのよすがに過ぎん。だが、それを理解せぬものも、中にはおるのだ。嘆かわしいことにな」王は目を伏せる。「中には」というのは、協会の中という意味ではないのだろう。われらの、血法師の中に意味を取り違えるものがいるのだ、と王は嘆いているのだ。「血式は『己の内』でのみ扱うべき術式。決して、外の世界へと流れ出してよい理ではない」

「ですが、魔術師にとって、仇討ちとは常識――真理の伝承にも等しい肝要な儀礼のはず」

「一般的な魔術師の場合には、そうだ。だが、われらは違う。われらには、魔術師の作法など要らぬ。住む世界が違うのだからな」

「では、黙って見ていろと……? われらが同胞が、魔術審問官なる悪魔によって不条理な裁きを受けるのを、ただ指を咥えて眺めていろと……!?」

「それが、われらが貫くべきわれらの正義というものだ。協会の掲げる復讐法など知ったことか。裁きを受けるのもまた、相応の罪あってのこと。この里の中で一生を過ごしておれば、断罪者の手にかかることもあるまいに」

「同胞が裁かれるのは、自業自得であると仰せか……? そのような理不尽、甘んじて受け入れることなどできません。もとはといえば、これはあちらから仕掛けてきた闘争なのです!」

 はじまりは、狂った魔術師が犯したひとつの罪だった。わが一族の幼子を、悪魔狩りだと称して殺めたのだ。魔術協会の定める復讐法によれば、魔術審問官の立会いのもと、命を奪ったものには同等の行いにて罪を贖わせることが認められている。死には死を。その魔術師の間では当たり前の行いを、しかしわれら一族は許可されなかった。穢れた一族、閉じた世界と蔑まれ虐げられるわれらに、魔術師にあって当然の権利などないというのだ。そしてわれらを殺めた罪もまた、魔術師の世界においては軽く扱われるのだ。狂人は、その精神の異常性を危険視されたにも関わらず禁錮刑が下されたのみで、生き永らえているという。赦せるものか。弱者の立場を強要されることなど。高みからわれらを睥睨し、あたかもそこが自分たちだけの世界であるかのように、傲岸不遜に振舞う協会の魔術師どもを。

 だが、王は――血法師の頂点に君臨する永世血式王は、その怒りをも飲み込めという。己の内で、墓穴に入るまで燻らせておけという。魔術師どもの専横を看過できぬとした私の父は協会に繰り出し、狂人を殺めようとし、逆に命を絶たれた。父の盟友であった私の師は、その憤激を抑えきれずに協会へと挑み、決闘の末、魔術審問官に殺された。私の姉も、妹も、友人たちも、復讐の念に駆られ、この里を離れ、そして二度と帰ってはこなかった。里には、もう私の肉親はいない。友も、愛すべきものも、みないなくなってしまった。奪われてしまった。世界の不条理なる構造に。弱者という汚らわしい冠のために。この私の悲憤を、赫怒を、激情を、己の内でのみ燃やし続けることを、王は望んでおられる。

「復讐は、復讐しか生まぬ。下らん法規だ。反吐が出る。認めてはならんがゆえに、われらはただ黙すべきなのだ。たとえ、一族の誰かが殺められようとも。われらは、おまえたちとは違う、下賎で野蛮なる狂人ども、協会などとは違うのだと、遥か高みより端倪する姿勢であらねばならぬ」

「それでは、ただの現実逃避です。未来永劫、われらは虐げられる立場から逃れられない。立ち向かうべきなのです!」

「その言葉は、力あるものが口にすべきものだ。われらには、いまの協会に、世界に反逆できるほどの力がない。いまは、な。これから先、遥かなる未来になるやもしれんが、いずれ天と地は逆転する。栄枯盛衰、万物は流転するのだ。愚昧なる協会が滅され、あるいは魔術師という概念そのものが根絶されることになるだろう。そのとき、生き残ったわれらが勝つのだ。いずれ太平天の下を歩く日を迎えるために、われらは閉じた世界の中で黙しておらねばならぬ。幸いにも、われらには寿命を操る術がある。外の世界との不干渉を貫けば、利はこちらにある」

「……っ!」

 王の言葉は、われらの安寧を願ってのものであった。確かに、耐え続けていればいずれ条理は覆されるかもしれない。だが、それでよいのか? 私は納得できない。そこには正義がないのだ。これまでに虐げられ、奪われてきたわれらがともがらに対する正義が、決定的に欠落している。その魂に、どのように救済を与えてやればよいのだ。

「私は……私は、それでも協会を赦してはおけません。魔術審問官を誅伐せねば、私の正義は腐り果ててしまう。わが父母、師、友人たちの無念を晴らさねば――」

「絶対なる正義など在らぬ。われらの内なる正義を信奉せよ」

「いいえ、私は抗わなければならないのですッ! そのために、私は生きている! 血式によって、とうに朽ちていたはずの命を繋ぎとめておいたのです!」

「その復讐心こそがわれらの閉じた世界に亀裂を刻むのだと、なぜ理解ができぬ? 怒りを鎮めることができんほど、おまえは無知蒙昧なる獣でもあるまい?」

「この怒りは、鎮めるべき怒りではありません、義憤なのです! 果たさなければ、魂に救済は訪れない――それに」私は精一杯の抵抗心をもって、王へ毅然とした視線を向けた。あるいはこれが、私の天運の終着点になるのかもしれない。それでも、なおそれでも、と反駁し続けてでも果たすべき矜持が、ここにはあるのだ。そう、矜持。血法師として、血式で生き永らえてきたひとりの人間として、その生きるよすがを侮辱され、侮蔑された瞋恚を、解き放たねばならない。「それに、もはや手遅れなのです、王よ。間もなく、魔術審問官が遣わされてくることでしょう」

「シィカ――おまえは」

「お許しください、とは申しません。これもすべて、私の独断によるもの……追放も、あるいは死刑も、お望みならば喜んで受けましょう。ですが、その前に魔術審問官との決闘を、認めていただきたいのです。いえ、見逃していただくだけで結構」

「血式は、血法師の本性は――!」

「闘争にあらず……存じております。ならば、もはや私は血法師であらぬに等しい。このシィカ・黒江、外の世界に向かって血式を唱える、ただひとりの吸血鬼となりましょう……!」血法師の世界、里から抜け出すことを、私は選択する。他者に対して血式を用いるのは血法師の所業ではないというのなら、もはや私に血法師を名乗る資格はない。この里にとどまり続ける由来もない。この選択が、王の統べる世界によき変革をもたらしてくれることを私は望んでいる。しかし、父も、師も、姉も友人たちも、同じ決断を下したのかもしれなかった。血法師という属格を捨て、独我論的な魔術法則のもとで協会に一矢報いんとする、世界におけるたったひとりの閉じた狂人となる英断。彼らと同じ轍を踏んでいるのかもしれない。だが、それがどうしたというのだ。すでに一石は投じられた。結局のところ、私はただ私のためだけに動いているのだろう。私の怒りを、悲しみを、怨敵殺めんと叫び続ける魂魄の欲求を、ただ満たすために動いている。しかし、この抑圧されるべき卑俗なる感情とされるものこそが、血法師の世界に決定的に足りないものなのだ。感情を押さえ込まなければ血式の世界に生きる資格がないというのならば、私はそこから立ち去るのみである。憤激を忘れ去った生き物など、生ける屍ではないか。王はいずれ協会の転覆を予期しておられるが、このままでは転覆以前に、血法師たちは植物のごとき形骸と化してしまうだろう。ただ、血式によって己の内で真紅の液体を回転させるだけの、人形に。

 私は、私でありたい。私は人間だ。人間なのだ。

「王よ、私に血法師たる名を与えてくださったご温情、感謝いたします」こちらに手を伸ばす王に、私は背を向けた。私は王の意志に反抗した。もう、王の安寧にすがることはできない。私には離反する道しか残されていない。それでよいのだ。私に王たる器はない、指導者たる人格などないのだ。ならば、私にしかできぬこと――協会に対してわれらの怒りを示すことこそ、私の宿命。私の魂の悲願。

 王の城を後にして、私は因縁の敵手を迎えるべく、自らの居城へと向かった。



 急性左心室石化病――私の心臓を蝕んだ病理は、七歳のとき何の前触れもなく発症した。体内をめぐる魔素が原因となって、心臓の一部を石灰化してしまう、不知の病だった。当時もいまも、治療法は確立されていない。魔術も医学も何の役にも立たず、私はやがて死に絶えるはずだったのだ。それでも、いまもこうして生きている。心臓はすでに全体が石と化してしまって、使い物にならない。私を生かしているのは、心臓に刻まれた血式――体内を回転せよと血液に命じる、血法師の秘術の恩恵だった。血式を用いるものは、私と同じように、そうせざるを得なかった人々が大多数を占めている。血式は私の命を救ってくれた。いまもこうして、命を繋いでくれている。その私の命綱を嘲笑するのであれば――生きる術を伝えてくれた父と、さらなる秘術を与えてくれた師と、閉じた世界にも希望をもたらしてくれた姉、友人たちを蔑むというならば、私は貴様を赦しはしない。

「――クシャーナ・竜胆・エーレンブルグ」

「できることなら、ラビリスと呼んでいただきたいものですね。私の魔術師名ですので」

 私に与えられた最後の砦、居城の玄関ホールに、忌まわしい魔術審問官の姿があった。豪奢な外套に、触媒と思わしき貴金属の施された魔術衣。協会の人間だと一目見て分かる、腹立たしいことこの上ない装束だ。傲慢とはこのことだろう、やつの口元には、不敵な笑みが貼りついている。私は他者に決して劣らないのだと、そう信じて疑わない類の魔術師の哀れな微笑。今宵、貴様は後悔することだろう。この私に復讐の動機を与えたことを。

「リリィ、罪状を読んで差し上げなさい」

「あ、はい」そう言って大仰な鞄から一枚の羊皮紙を取り出したのは、おそらく魔術審問官の助手か弟子と思われる長身の女だ。少女と言っても過言ではない年齢であろう。魔術審問官の身内だ、忌むべき相手であることに変わりはない。「おほんっ、ええと……シィカ・黒江、魔術殺人および、第三種禁忌魔術発動の罪によって、ここに魔術審問官ラビリス・竜胆による術理剥奪の刑に処す。なお、抵抗する場合には命の保障はされないものと認識されたし――だそうですぅ」

「だそうですー、は余計なのですよ。まったく、緊張感に欠けますねぇ、あなたは」

「ご、ごめんなさいぃ……」

「……」私は階段の中腹から、この珍奇な二人組みを見下ろしている。何なのだ、こいつらは? すでに私の防禦術式のうちにあるというのに、緊張感の欠片も感じられない。そう、まるで戯れているかのように。

「さて、シィカ、とか言いましたか。そう闇雲に眉根を寄せるものではないですよ、ミシェーラよりは美しい顔に皺が残ってしまいます。ああ、ほら、それですよ、そう怒りを露にするものではありません。いったい何に腹を立てているのか知りませんが――」

「貴様、嘗めているのか? 魔術審問官というのは、みな揃いも揃って愚か者ばかりであるとはな、知らなかったぞ」

「天才、奇才と褒め称えられることはありますが、愚か者、とは……ふふ、冗句のセンスがおありのようですね」

「貴様のような……貴様のような道化師に……!」

「あなたについては、こちらに赴く前に調べさせていただきました。なるほど確かに、あなたの姉君、サヤカ・黒江とご友人三名については、この私が、しかるべき処罰を与えました。協会の定める魔術法規に従いましてね。ですので、あなたが『復讐法』に基づいて私怨を晴らそうとするのも、まあ理屈としては分からないこともないです。しかし残念なことに、あなたがた血法師には復讐法の行使は認められていない――わが愚弟アジューカス、ならびに友人ミシェーラを、血法師の理を用いて殺害したのは、紛うことなき罪悪。処罰の対象なのです」

「そのようなこと、言われずとも承知している。いまさら貴様ら協会の理解など、得ようとも思わない。私はすでに私の理で動いている。血法師という名で私を縛り付けるな」

「……なるほど、破門された、あるいは自ら里から出ることを申し出たのですか。しかし、それでいったい何になるというのです? あなたはもとより血式によって生きる身、血法師たる立場を捨てたところで、血式の束縛からは逃れられません」

「私の怒りを、貴様らに知らしめるためだ。もはやこの命がどうなろうと、知ったことではない。私が復讐を成したところで、彼らの魂が深層領域からの帰還を果たすわけでもないのだからな。だが、それでいい。私はもう、貴様をこの手で殺めることができるのなら、それで充分なのだ」

「おや、恐ろしい……捨て身の獣ほど恐ろしいものはありませんね。ところで、ならばなぜ、始めから私を狙わなかったのです? アジューカスやミシェーラを手にかけずとも、私だけを狙えばよかったではありませんか、迂遠なことをせずとも」

「決まっているだろう、私と同じ悲憤を知らしめるためだ!」と私は声を荒げていた。焦燥に駆られていたのだ。この魔術審問官は、いわば虎穴に捕らわれた野兎にも等しい存在。すでにわが防禦術式の影響を受けているはずであり、その気になれば一息に殺してしまえる立場にある。そのことが分からぬほど低劣でもないはずなのに、顔を強張らせることもなければ、恐怖にすくみ上がることさえもない。敵の牙にさらされる魔術審問官、という役を演じているかのような不自然さ。そして何よりも、私の言葉を理解していないのではないか、という危惧がある。

「悲憤を知らしめる……ああ、そうですか、なるほど。考えてみれば、当然のことでしたね」朗らかに微笑み続ける魔術審問官の異様さ――いっとき、私の怒りを恐怖が上回った。この違和感の正体に気づく前に、私は再び負の感情で武装し、ガーターリングから魔具を引き抜いている。三本の針。施された幾重もの装飾は、簡易術式だ。

「私の痛みを知るには、まだ足りんと見える――!」私の居城に張り巡らされた防禦術式、その効力を、ついに顕現させる。この空間に立ち入ったときから、二人組みの魔術師はすでに術中にあった。ただ効果が発露していなかっただけで、私の魔術に侵食されていたのだ。その証に、魔具を手にした私が従者の背後に回っていることさえも気づいていないではないか。眼球の水晶体に幻影を映し出す〝図式〟――天井のシャンデリアから発せられる光に、魔素と術式を仕組んでおいた。このときのために長年の研鑽を積んできたのだ。愚鈍な二人は、音を立てねば気づきもしまい。

 私は長身の魔術師の頚椎に、針の一本を突き刺した。致命傷には至らないが、先端には神経毒が塗ってある。長躯だが華奢な身体がびくりと震え、ようやく何が起きたのか悟ったようだ。もう、遅い。「この従者――貴様にはよほど大切なようだ」

「ぁ、ぉ、ししょ――さ、ぁ――」首筋に残る二本の針を突きつけられた娘は、自由の利かぬ体で必死に助けを求めようとしている。あるいは、許しを請うているのかもしれない。それに対して、魔術審問官は――笑みを崩さない。

「リリィを殺しますか。それで、私にあなたと同じ気持ちを味わえというのならば、無駄ですよ。私には無意味です」

「強がるな……化けの皮を剥がしてやろう」白く繊細な肌に、針の先端を食い込ませる。うっすらと浮かび上がった血の玉が、やがて首元に赤い筋を結んだ。「さあ、赦しを乞えッ! 跪き、貴様が殺めてきた血法師たちに詫びろッ!」

「ですから、無駄だと言っているでしょう――」

「ならば、その脳裏に焼き付けてやる、血式の秘伝を」躊躇いなど一片もなかった。私は、一息に二本の針を突き入れた。気管と食道を貫いた魔具は、私の魔素を対象の全身に循環させるための触媒となる。蜂が毒を流し込むかのごとく。あと一言、決定的な命令を術式にして口にすれば、この娘の命は私の手に落ちる。「DIsCe-LiBenS」

「か、はっ――」桃色の唇が紅に染まる。痙攣する指先が、血の花を咲かせる。肉が弾け、骨が砕け、外に向かって開いてゆく。指先から始まった開花現象は、瞬く間に腕へ、体へ、足へ、そして顔へと伝播していった。「ご、め――な――」薔薇よりも紅く、濃い香りを漂わせる鮮血の花弁。血管も、骨も、眼球も、脳髄も、身体を構成するありとあらゆる物質が花開き、死を咲き誇らせる。これが、私の編み出した血式の頂点。相手の体内に蓄積された魔素を、相手の魔術に合わせて暴走させる奥義。炎ならば血を蒸発させ、水銀ならば血を混合し意のままに操り、そして、空間拡張、〝空式〟ならば、血肉に開けと命じさせる。対象の血液、すなわち命に刻み込まれた記憶を利用するだけでよい。魔術師は、基本的に相手の法術を理解することができない。だが、私の魔術は、相手の魔術がいかるものであろうと関係ない。相手に相手を殺させるのだ。アポトーシスを促す致死の毒、それこそが私の血式の真髄。この瞬間のためだけに磨き上げてきた、私の本質的欲求そのもの。

 床にくずおれたそれは、もはや原型をとどめてはいなかった。わずかに蠕動するだけの、醜怪な肉の塊。鉄と油の腥臭を撒き散らす、生者だったものの成れの果て。まもなく死ぬ。死んで、複雑な構造をした有機物と化す。その魂は下層領域へと落下をはじめ、奈落の底まで死の暗闇を味わい続けることになる。私の父と同じように。私の師と同じように。私の姉と、友人たちと同じように。

「貴様も、同じ目に遭わせてくれる」まだ、私の憎念は晴れない。首筋を貫いた針の感触も、鼓膜を叩いた小娘の悲惨な断末魔も、まだ私の復讐心を満たすには足りない。だが、貴様には応えただろう? 信頼し、信頼され、あたかも母と娘のような関係を築いてきた存在を、こうもあっけなく消されたのだから。私の痛みを、私の怒りを、私の嘆きを知るがいい――「――何だ、その、顔は」

「うん? どうかしましたか?」そう言って片眉を吊り上げた魔術審問官は、あろうことか、笑みを深くしていた。喜劇を前に、優雅に楽しむ貴族のように。

「なぜ、なぜ笑っている――?」

「笑っていましたか? いや、これは失敬。あなたの顔が、あまりにも、その、おかしかったもので」

「――」何なのだ、この人間は? 仮にも身近な人間が死んだというのに、負の念を抱いていない? 表情を取り繕っているだの、感情の濁流を押さえ込んでいるだの、そういう次元の反応ではない。すべてが、喜劇に見えているのか。現実から、ずれた位置にいる。物語を楽しむときの姿勢。

「リリィ、ああ、リリィ。あっけない最期ですね、何とも情けない。仮にも、この私の弟子であったというのに――ああ、なるほど、アジューカスもこのようにして死んでいったのですね」

「貴様――貴様は、何も感じないのか!? 死んだのだ、私が殺してやった! 私が奪われたように、貴様からも奪ってやったのだぞ!」

「そう必死にならずともよいのに――いえ、失敬。常識的には、そうですね、あなたの反応が正しいのでした。いやはや、先日も誰かにお叱りを受けた気がしますね」

「何を、言っている――?」

「残念ですが、あなたの行いはすべて徒労でした。まあ、アジューカスにミシェーラ、そしてリリィの命を奪ったことで多少なりとも怒りが静まったのであれば、収穫はあったということでしょうか。ですが、私にとっては、どうでもいいのです、そのようなことなど」

「どうでも、いい――?」

「この世界には、苦痛が満ちています。痛みが多すぎる――私には耐えられないほど。いや、耐えられなかった、と言うのが正しいでしょうか。生来、私は体も心も弱い人間でしてね。私の父が母を殺し、三人の姉を嬲った後に殺したときなど、あまりの惨状に危うく廃人になるところでしたよ」からからと魔術審問官は笑う。「父が捕まると、私は残ったたった一人の親族、弟のアジューカスとともに親戚の魔術師のもとへ預けられました。そこでも、日常的に虐待は繰り返されていましたので、私の心身はますます荒みましてね。心ある女性に救われなければ、私は自殺していたことでしょう。ええ、その方こそ、私の師匠となる魔術師でした」饒舌に語るのは、この魔術審問官の過去なのか。それにしては、あまりにも、口調に主観性が欠如している。ひとつの物語を語り聴かせる吟遊詩人によく似ていた。「その方のもとで、私とアジューカスは魔術を学びましてね。天性の才能なのでしょう、魔術の腕はすぐに上達して、協会に入ることもできたのです。師匠はまるで自分のことのように喜んでくださいました。失声症になりかけていた幼い時分の私を抱きしめて、こうも言ってくれたのです。『ラビリス、あなたは幸せになりなさい。あなたの魔術は幸せになるためにあるのです』とね。師匠は私と弟の幸福だけを願って、その秘伝を授けてくれたのでした。ところが」魔術審問官は首をわずかに傾けた。その動作があまりにも人形じみていて、私の背筋を汗が伝った。恐怖、しているのか、この私が?「師匠は、殺された。協会に殴りこんできた、とある血法師の手によって。それはそれは、悲惨極まる殺され方でしたよ。血法師に因縁をもつどころか、むしろ擁護する立場をとっていた彼女が、通り魔的にぐちゃぐちゃにされたのですから。その狂った血法師はすぐに捕らえられ、処刑されましたが、彼女は戻ってはこなかった。当然です、死んだのですから。そしてそれを皮切りに、どういうわけか、血法師が断続的に協会に喧嘩を売るようになってきたのです。ですが、二度目の襲撃のときには、私は心神喪失状態にありました。何せ、師匠は私の盾になったのですから。目の前で十字架のオブジェと化した彼女の姿は、当時の私の精神を切り刻み、破滅の淵に追いやっていたのですから。それでも、完全には壊れなかった。辛くて、悲しくて、苦しくて、死にたくて死にたくてたまらなかったのに、師匠の幻覚が、私に死ぬことを許可しなかったのです。『幸せになりなさい、幸せになるのです』と、夢の中で、あるいは忘我の只中で、私の目の前に現れた彼女は、その呪いを呟き続けました。幸せって、いったい何なのでしょうね? 当時の私には分かりませんでした。そして、いまの私にも、明確な答えというものは出せません。私は弱いのですから、そんなことなど考えたくもありませんでした。いえ、いまも、考えたくありません。考えることから逃げ続けています。三度目の襲撃のとき、私が私自身にかけたある魔術によって、私は世界から逃げることにしたのです。この世界には、苦しみが満ち溢れている。悲しみが多すぎる。痛みが蔓延している。この世界で生きるには、私は弱すぎました。ですが、師匠が私に死ぬことを許さない。幸せに生きなければ、幸せにならなければ、私は死ぬことさえもできない――その矛盾に苛まれた結果、私はある選択をしたのです。この世界の内にあって、この世界から逃れる道に、進むことにした」そして浮かべたのは、仮面の、紛い物の、道化の化粧。「私は、私の心の一部を消しました。悲しいと、苦しいと、痛いと感じる心の部分を。どのような悲劇が降りかかってこようとも、どのような理不尽が襲い掛かってこようとも、私は二度と涙を流さないで済むのです。三度目の襲撃、ええ、あなたの姉にあたる血法師ですが、彼女が協会に襲撃してきたとき、私は魔術審問官として彼女の裁く立場にありました。自ら進み出たのです。いやはや、あなたの姉君の憤怒もすさまじいものでした。その次にやってきた、あなたのご友人も。そして、あなたも同じように。死者を悼み、その無念を晴らそうと、猛る竜のごとく決闘を挑んでくるものですから、まあ大変ですよ。それでも、ああ、私はあなたを、あなたがたを羨ましいと感じるのです。あなたがたのその強さを」笑っている。微笑んでいる。嬉しいと、面白いと、心の底から思っている。それ以外の感情を、この女は殺してしまったのだから。「大切なものを奪われ、心に大きな穴を開けられた、その悲しみは大いに理解できます。いえ、できました、昔の私ならば。ですが、その感情を復讐という行動へと昇華させる、その強靭なる精神に、私は敬意を表したいのです! 私には持てない強かさ! 魂の輝き! ああ、あなたがたはなんと高貴な魂をお持ちなのか! そして、ああ、なんと可哀想なのでしょう! 苦しいでしょう? 悲しいでしょう? 辛いでしょう? その狂おしいほど熱く美しい怒りも、結局のところはあなた自身の救済にしかならないのです。あなたが私のたったひとりの弟であった焔を殺し、私の師匠の妹であった水銀を殺し、私のかけがえのない弟子であった白百合を殺したところで、満足するのはあなただけ、あなたのその真っ直ぐな狂気に満ちた正義感だけなのです! ですから、私があなたを本当の意味で救って差し上げましょう。もう、苦しまなくて済むように。解放してあげます、私の魔術で。師匠から伝授された、幸福にするための術式で、あなたの魂を救って差し上げましょう。そのために、私はここにいるのです。この世界から、すべての不幸を取り除くために、私は魔術審問官となったのです」

「――っ」ここでようやく、私は意識を取り戻す。呑まれていた。この女の人形のような瞳に。この女の掲げる、どこまでも閉じた救済とやらに。私は、戦うべき相手を見誤っていたのかもしれない。「近寄るな、っ――!」

「抵抗は無意味ですよ、私の魔術に、師匠の望んだ幸福に、欠陥などありません。防ぐ、などというものは、意味を成さないのです」

「寄るなと、言っている――ッ!」何を仕掛けてくる? どこから仕掛けてくる? 駄目だ、ここで理性を手放してはならない。相手は未だに防禦魔術の内にある。私の姿を捉えることは不可能なはずだ。ならば、魔具を手にし、やつの首元に打ち込んでしまえば、私の勝ちになる。一度、精神に蠱毒を与えてやるだけでいい。それで、あの忌まわしく姦しい口を塞ぐことができるのだ。

「ああ、ああ、そう逃げずともよいではないですか。私の水晶体に干渉する防禦魔術、なるほど見事なものです。しかし、何度も言いますが、無駄なのですよ。あなたが決闘などという形式を選ばず、闇討ちでもしていれば、その本意を遂げることができたかもしれませんが――もう手遅れです。私の魔術からは、逃げられませんよ。あなたほどの強い心をお持ちの方に、この魔術をかけねばならないというのは、甚だ遺憾なことですが、甚だ光栄でもあります。さあ、幸福になる準備はよろしいですか?」

「黙れ――黙れッ!」背をとった。相手はまだ気づいていない。針を振りかぶる。首筋に狙いを定める。そして、過たず、針の先端は皮膚の下へと食い込んだ。刺さった。埋まっていった。私の、魔術が、審問官の全身を蝕み。

 弾ける。燃える。花が咲く。血の花が。血液が焔に巻かれて蒸発してゆく。水銀が全身の血管を支配する。花が咲く。眼窩から吹き上がった焔が、私の父の顔を描いた。私を見つめている。安らかな笑顔で。鼻腔からあふれ出た水銀が私の師を描いた。私を見つめている。安らかな笑顔で。四肢に咲いた血肉の花に、人の顔をした種子が実っている。私の姉と、友人たちの、無数の顔が、私を見つめている。安らかな笑顔で。安らかな笑顔で。安らかな笑顔で。安らかな笑顔で。みんな、笑っている。安らかな笑顔を浮かべている。それは、私がもたらした安息ではない。魔術審問官が与えた、幸福のために、笑っている。幸せだ。幸せだ。幸せだ。これは幸せだ。この魔術は幸せだ。そう、幸せなのだと、笑っている。

「無駄だと口うるさく言っても、それこそ、あなたには無駄なようですね」魔術審問官の声が、耳元にかかった。振り向くと、そこには、さきほどと寸分たがわぬ健常さで、女が立っていた。安らかな笑顔で。

「な、んで――」確かに感触があったはずだ。私はこの女を穿った。血肉が爆ぜるのを見た。焔を吹き上げ、水銀を吐き出し、花を咲かせるのを見たはずだ。だが、そこにあるはずの死体はない。消えてしまった。いや、はじめからなかったのか。分からない。私は、何を見ていた? 私は、何を穿った? 私は、何を――私は――私、は――

 私、とは、

 わたし、とは、だれだ?

「私と会話をしようなどと思ったことがあなたの最大の敗因です。私の魔術は、対象の意識そのものに作用するのですから。名づけるならば、そう、〝意式〟といったところでしょうか」

 目の前で喧しい笑顔と口調と言葉とを吐き出し続けているのは、クシャーナ・竜胆・エーレンブルグ。シィカ・黒江の仇敵だ。私の。この、私の。この、わたし。これ。これとは、何だ? 私は、わたしとは、どれだ? この身体、顔、手、足、は、確かにシィカ・黒江のものだ。この記憶も、この憤怒も、恐怖も、すべてシィカ・黒江のもので間違いない。だが、このわたしとは誰なのだ? わたしは、いつからシィカ・黒江だった? なぜ、この記憶と、この身体と、この人格をもっている? なぜわたしはシィカ・黒江であって、それ以外の私でなかった? なぜ、わたしはシィカ・黒江が私と呼ぶところのわたし、なのだ? いや、そもそも――私は、わたし、なのか? シィカ・黒江なのか? どちらが本当の私、なのだ?

「人間には、世界を感じる主体と、その主体の存在を知る主体、そしてその主体の存在を知る主体の存在を知る主体……というように、無限に後退する自己認識作用があります。普段は、あまりに当たり前のことすぎて気がつかないものですが、私の魔術はそれを自覚させる。複雑な術式も、高価な触媒も必要ではありません。ただ、少しだけ、ちょっとした言葉で精神のたがを外してやればよいのですから」

 目の前でぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつと講釈を垂れているこの人間の言葉など、私にとってはどうでもいいことだった。だが、その私とは、シィカ・黒江たる人物なのか、それともシィカ・黒江たる人物の存在を自覚しているこのわたしなのか、判別がつかない。わたし、私、わたし。「お、あぁ、あぁ、ぁ、ぁ……!」私は、涙を流している。分からない。なぜ涙を流しているのだろう。悲しいのか、それとも嬉しいのか。シィカ・黒江という人物は、復讐に燃えていた。憎念に駆られ、必ずや死んでいったものたちの無念を晴らさんと、誓っていた。わたしは、それを知っている。でも、それは、わたしの、ものではない。私の、シィカ・黒江のものであって、このわたしのものではないのだ。ああ、私は、なぜ泣いているのだろう。なぜ、こんなにも苦しんでいるのだろう。わたしは、いつからこの私、シィカ・黒江であったのか、分からない。生まれたときからそうだったのかもしれないし、つい数秒前に、わたしはこの私、シィカ・黒江になったのかもしれない。どうでもいい。分からないことなのだから。ただはっきりと分かることは、シィカ・黒江という人物の向かう先に、真の幸福などないということだ。復讐心のみに突き動かされて、仇敵を殺して、そして血法師という立場さえ失い、里を離れ、それで、終わりだ。それ以上も、それ以下もない。このわたしは、この私を、とても悲しい人間であると認識する。しかし、私は、復讐しなければならない。そのために、生きていたのだから、わたしはそれを否定し、私は否定にさらに反駁を重ね、復讐を成し遂げんとし、わたしはその私の生き方に途方もない悲しみのみを覚え、私は、そのわたしの感じる憐憫に対して答えるべき言葉を持たず、わたしは、私の、わたしと、私、の中にあるわたしに、私に、わた  し、   私、  に      わ   た し     










■■■


 この世界には、悲しいことが多すぎる。生きているうちに、人はいったい如何ほど多くの痛みを体験するのだろう。そして、奇跡的にも痛みの少ない人生を送ったところで、待っているのは久遠の暗黒、死だ。自己の、死。この私が死ぬということ。ならば、私と死とを切り離すことができれば、少なくとも最大の不幸は防げるのではないか? そう思い、私は意式を編み出した。

 私の思う幸福は、本当に正しいのだろうか? その問いに、死者は答えるすべを持たない。こうして墓の前に立っても、やはり、死者は答えない。単なる物質なのだから。ものは、人とは違う。

「アジューカス……ミシェーラ……リリィ……」並ぶ三つの墓石に刻まれた名。二度と戻ることのない、私にもっとも親しかった三人の名。口に出してみても、悲しみは湧き上がってこない。そんな感情は、何年も前に捨てたのだから。

「あなたは、どうなのですか?」私は、背後で杖をつくひとりの女性に問うた。生者の言葉に答えるのは、やはり生者だけだ。そして、私の求める答えを返してくれるのも、いまは、この女性だけ。

「……わたしは、だれなのだ?」

「あなたは、あなたです。それ以外の何者でもありませんよ。怒りも、憎しみも、悲しみも、その体の持ち主のものであって、あなたのものではないのです。どうですか、復讐心から解放された気分というのは?」

「わたし、は……この怒りも、憎しみも、悲しみも……『私』のものであって、『わたし』のものではないのか……?」

「そのとおりです。人格と主体との乖離――どうです、あらゆる負の感情が、空虚なものに思えてくるでしょう?」

「……わからない……わたしがどんな気持ちなのか、わからない……何も、感じないのだ……私の感情は、わかるのに……わたしには、感じ方が、わからない……」杖にもたれかかり、女性は虚で満たされた瞳を墓に向けた。彼女が殺めた、三人の魔術師の墓に。左半身が石灰と化してしまった体は、しかし、シィカ・黒江のものであって、『彼女』のものではない。シィカと呼ばれた女性はもういない。いるのは、ただひとりの女性。

「それが、幸福ということです。何も理解する必要などありません。あなたはただ、純粋にあなたであればいい。感情も、正義だの善悪だのといった価値観も、いらないのですよ」

 人は、生きている限り、感情を抱くことから逃れられない。何かに対して自分なりの価値基準を当てはめて、善悪、好嫌といった判断を下してしまう。それが不可避であるというのなら、その判断の場から立ち退いてしまえばいい。ただただ端的な事実として、そういう感情が、価値判断がそこにあるのだ、と傍観する立場であればいい。それが、負の感情から逃れるために残された、人間にとっての唯一の道――自我乖離。そこには幸福だと感じる余地さえないのだから、反対に、不幸を受け止める必然性もなくなる。これこそ、真に、絶対的な幸福なのではないだろうか?

「いずれ、私の術理でこの世界を覆って差し上げましょう。人類が真に幸福であるために――あらゆる価値観を、感情を無に帰すのです。最後には、この私も」

 その世界には、喜びも楽しみもないだろう。しかし、怒りも悲しみも、苦しみも痛みもなくなるのだ。ああ、それは何と素晴らしい世界なのだろうか。真実も虚偽もなく、ただ純粋に生と死とが事実として残る世界。

 私の理想郷を知れば、協会は黙ってはいないだろう。魔術審問官としての地位を奪われるかもしれない。だが、それがどうしたというのか。たとえ極刑になろうとも、私が悲しむことはないのだから。そう、悲しむことは、絶対に、ない。

 ああ、このことの意味を正しく理解できる魔術師が、いったいどれほどいるだろうか?

 もしかしたら、ひとりもいないかもしれない。

 それでも――私は、笑顔を浮かべ続けるのだ。


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