十二干支 戌と卯
「何だ・・・いったいどうなっている?」
さっきまで暴れ回った男達が急に止まった。それもはず、大軍のコブリンがやられにもしていないのに、いきなり黒い霧となり山の方へ飛んでいったのだ。万単位のコブリンが、だ。
「・・・イヤな予感がするな」
「ああ。だが、今は手当てが先にしよう」
「コブリンもなかなか強かったな。質よりも数ってやつか」
一時的に気休みができた男達は今後の対策を立てた。元気な者は監視に残して、重傷の人から優先的に治療を受けさせた。
*
山奥の特に深い所で、赤熊が居た。そこに黒い霧が集まってきて、熊を包んでいく。
長い時間をかけて、霧を集めて、肌を黒色に染めていく。
やがて、朝になり、包んでいた霧が消えた時ーーーそこはただの熊ではなかった。
恐るべき殺傷力を持った魔熊と成り変わっていた。
*
陽が昇り、その光を浴びて、ウォンは気絶から目覚ました。相変わらず夢は無い。
手にふよふよとする。ベットだ。とうやら誰かに運ばれたらしい。個室で机、椅子までもある。
「ええと、最後にロラに会ったから・・」
記憶を辿るうちに、段々、思い出してきた。・・・そういえば、3万のコブリンはどうなったんだろう。
よし。個室から出てみよう。爪を引っ込めて、ノブドアを開けると、廊下にロラとアリアが居た。何やら会話している。
「ーでね。クロノが私へのプレゼントをするって袋から出したの。丁寧に包んであって、それはもう嬉しかったわ! とうとう告白されると思って」
「ほうほう、遂にか。今まで恋人関係に発展しなかったのが不思議ぐらいだな」
「こっ、恋人・・・・!? ああああ、あんな奴と? えっと、時期が早いっていうか・・・」
「ん? 告白されたのではないか?」
「それがね、プレゼントされたのは、肉だったのよ。私が大好きだし、この方が嬉しいと思ったらしくて・・・だから、蹴り飛ばしてやったわ。いっそ、形に残るものが良かった・・・・。例えば猫時計とか」
「それは・・・ご苦労さん」
あの凛々しいアリアが何とも言えない感情になっている。僕までも苦笑し、2人に近づいた。
「今度、クロノに会った時、僕が言おうか?」
「ウォン! 目覚ましたのね」
「それはやめた方がいい。あいつは気づかない」
「あはは、そうするよ」
その後、しばらく話し込んでから、ピーコの居る部屋へ向かう。彼も気絶中らしい。・・・山に良くない気配がする。周りが気づかないうちに片付けたい。被害が増えない方がいいからな。
ピーコを発見すると、魂技を用いて、魂エネルギーを送り込む。自然回復を待つのも一つの手だが、非常時はこれをする。数秒間の気絶を体験した後、起きたピーコに話をかいつまんで説明。
ロラとアリアは船で帰るらしい。僕らは後から行くと言い、宿屋から離れた。ロラにいろいろと話をする約束をしたが、それは数年後になるだろう。
直ぐにウォンとピーコはLv1<<瞬光>>で山へ、戦場へ向かう。
真っ直ぐに山に近づいているうちに敵とお互いに気づいた。
*
魔熊はウォン達の気配を感じていた。
その魔熊はビル5階分はあるだろう、すっしりと重い大木を根ぞそぎ引っ張り上げ、ウォン達が居る所へ構えて、ロケットスタート投げをした。
信じれないスピードで飛んでいく大木は、もはや巨大なロケットミサイルと化した。
それに対して、ウォンはLv1<<瞬光>>を用いて、大木をプロック形に空中分解する。一番被害が少ない草原へピーコが叩き落とし、魔熊へ近づいていく。
地面に足が着いたウォン達。同時に魔熊は腕を振り下ろした。それだけで衝撃波が広がっていき、大量の木々を切り払う。
「っ!?」
「さっげんな・・・・!」
衝撃波目前に迫る。ウォンは跳んで、ピーコは身を伏せた。見えない刃は過ごして行ったが、魔熊が残っている。
その熊は獲物を確実に殺す為、猛進の体当たりする。それを気づき、声にならない悲鳴を上げ、直ぐに回避する。すると、複数の木々が吹っ飛んでいった。ただの木々もそれなりの耐久力があるというのに。
ここまできて、ウォン達はようやく気づいた。
「・・・・・これは、ジャレにならないね・・・・」
「というか、普通に死ぬだろ」
体当たりは自身にもダメージが来るのだが、そんな様子も無く、ゆらりと立ち上がる魔熊。瞳にとこまでも深い闇。
嫌な予感して、反射的に攻撃を仕掛ける。最初の一撃はかわされたが、次は当てた。続いてピーコも全力全開のパンチをこれでもかというほどの連鎖で繰り出す。<<パワーギア>>で強化した空中ダブルキックも当たった。ウォン達の超強化連鎖コンポによって、魔熊は倒れると思われた。
ーーーだが、倒れるところか、傷一つも見当たらない。
堅すぎるのだ。それも異常なほどに。
「駄目だ。Lv3を使おう」
「あーあくそっ。ミアリーとしばらくお別れだな」
Lv3。その代償は数十年~数年の意識気絶。最悪、100年は眠り続ける。さらに、今まで培ってきた性能が初期化される。ウォン達の最後の「切り札」だ。これが駄目なら、なす術が無い。
狙うは、一瞬の隙。
またにしても、魔熊が突進してきた。ギリギリでかわし、動きが止まった所で一気に間合いを詰める。ウォンは右手を、ピーコは左手を魔熊の肌に合わせる。
「「魂技 Lv3
<<亜空>> 」」
次の瞬間、魔熊の腹に小さな穴が生まれる。いや、それは穴ではなかった。極小ブラックポールであり、魔熊を別の空間へ送るものだ。送り先は、遙かな宇宙だ。無酸素に過酷な環境なら確実に死だ。
その穴に、吸い込まれる魔熊。悲鳴のような叫びと共に、宇宙へ消えていく。
魔熊の最後を見届けた後、ウォン達は視界が暗くなっていくのを感じた。
これから眠るのだ。いつになるか分からない永い眠りにーーーー。
*
約2万5千のコブリンの能力を吸収させた魔熊が宇宙に飛ばされ、ウォン達が眠りについたのを魔界が確認した。その報告を受け、俺はミアリーと嵐の子とエランをフィラリアのギルドに呼び集めた。
ミアリーはともかく、エランは女装をしており、嵐の子は王族なのに、庶民服を着ていた。
「なんだよ。時間が無いから手短めにしろ」
「・・・今日も護衛から逃げているの?」
「そろそろ諦めた方がいいと思うの」
「うっせえぇ!! お前らなんかにオレの気持ちが分かってまるか!」
「うん分かんない」
「まぁ、アリアのような凛々しい女性になってもらえたらいい」
心のダメージを受けて、倒れる嵐の子。
そんなやりとりにタイミングを逃したなぁ、と思いながら話を中断させる。
「実はな、お前ら3人を育てようと思っている。なぜなら、俺の計画が第2段階に進んだのだ。だから、話す。俺の野望、そして、「命の水」のこともな」
「命の・・・・?」
「そう。自分の体を思い通りに変えることができる神宝級の代物だ。それがあれば、理想の体になれる。もちろん、かっこいい男にもな」
「まじかよ・・・」
「ただし、そこまでたどり着くには条件が有ってな。「十二干支の皮を被った者」を集めろ。そういうことだ」
十二干支という言葉に首を傾げる子供3人。
「あれ? 12の干支を決める時、動物を競わせた話は有名なんだが、知らないのか? ・・・・まぁいい。問題はそこではないからな。居るだろう。その「十二干支の皮を被った者」がな。ウォンとピーコ。あれは「戌」と「卯」に当てまる」
「・・・・まさか、そいつらと喧嘩して勝て、とか言わないだろうな?」
「まったくその通りだが?」
絶句する3人。あまりにも明確で高い過ぎる目標だからな。無理と思ったか?
「んー。勝てるよ? 食べ物をエサにしたら「まいった」と言ってくると思うのー」
「だよな? 俺の拳は強いし、気絶させるぜ?」
「いや、勝てるかな・・・・ピーコ、あんな奴だし」
・・・・一応、ウォンとピーコは一国ごと滅びかねん程の怪物と闘っているけどな。あれを出したのも俺なんだが、正直まもとにやったら勝てるどうか分からない。
「で。 来るべき試練を乗り越える為に育てると同時に、ミアリーの一生パートナーとなる候補を探す」
その後にそいつを憑いて、俺の物にする。そうしたら、姿がその人とそっくりになれるのだ。これがミアリーと結婚するプランだ。
そんな俺の計画とウォン達が永い眠りについたとは知らず、「強くなる」と意気込む3人。
ウォン、悪く思うなよ。
お前が目覚ました時、全世界が、全てが、動くからなーーー。
ウォンとピーコは、過去に嘆き、今に生き、未来への種を撒く。
1つの終わりと新しい始まり。
それはほんの小さな出来事。
だが、やがて世界を変える種となり、伝説に昇華し、語り継がれる。
ミアリーが強くなり、成人に近づいた時、本当の『旅物語』が始まるーーーー。




