肉とソンビと機械犬
肉の匂いが、流れた。
いつも食べた人肉ではない。何か、別の肉だ。それは確実に近づいてきた。
不思議な事に腹の底から笑いがこみ上ぬげてくる。
ーーのこのこ来たか。
これから狩ろうとする無能な人間を思えば、何とも言えない嬉しさが有った。わざわざ動かなくても、勝手にやってくる。ああ、人間はバカだ。何らかの目的が有っての行動なのかは分からない。いや、考える余地がない。常に腹が空いているので、食べる事に集中するだけで精一杯だ。人間は人間らしく死にしたくないなら来ない方がいいだろうに。
結局、人間は自分に食べられるのだ。
「ククク…狩りだ」
匂いは木で作られた学校の廊下からくる。
廊下の向こうでは、確かに『肉」が有った。しかし、一つ間違えたことが有る。
それは、
『動くぬいぐるみがステーキ用の肉を持って、犬に追われている」状況。人影は無かった。
「待てコラアアアア!!!!」
「待てるかアアアア!!!!」
しかも、両方とも人語を話していた。
動くぬいぐるみは小さい。兎をモチーフしたピンク色の人形であるが、追う犬と比べたら半分以下である。それでもずっしりと重い『ステーキ用の肉』を持って廊下に駆ける。
対する犬は、パセンジー、という中型犬。体は細いが、それなりの速さを出している。実際、逃げ回るぬいぐるみに少しずつ詰めていた。
幻? いや、どうでもいい。ただ、食べたら満足するだけだ。
包丁を持ち、走り出す。
「ん?」
あ。自分に気づいた。
「ギャアアアア!!!!」
「ソンビ、出たぁぁぁ!!!!!』
仲良く息揃って、急ブレーキ&反体方向へ全力疾走。なので、『包丁を持った走るソンビに追われる、中型犬とぬいぐるみ』という世にも珍しい光景に。
「どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう」
「助けて、ぬーべーせんっえっっっ!!!!」
すっかり、パニック状態の2人(?)。
「どうしようどうしよう。あ。そうだ。犬を殺せばいいんだ。」
「ちょっ、待てええええええ!! 何の根拠が有っての発言!?」
何もそこまでしなくても…とりあえず、ステーキ用の肉を頂戴。
長い追いかけは唐突に終わった。
ぬいぐるみが転んだ。そんで、ステーキ用の肉が落ちた。だから、肉を取り、喰う。
「…………………」
「…………………」
肉を食べ終わったら、2人(?)が自分を注目している事に気づいた。
「あ。僕の右腕、知らない? 僕、探してーー」
2人(?)は逃げ出した。
が。ソンビである僕から逃げ切れるハズが無く、追いかけ、再開。
「ノオオオオオオ!!」
「生きてごめんなさい、生きてごめんなさい、生きてごめんなさい」
「肉ーーーーーーーーーーー!!」
遂に廊下の終りが見えた。行き止まりである。
「ヤバっ」
「ソンビ、来た!」
包丁を振り降ろすと、2人(?)は横に飛んだ。包丁は、行き止まりの壁に当たり、板を壊した。
「え!?」
そこに現したのはーー腕だった。誰かの右腕。
「ああ……。ようやく見つけた」
その腕を触れると、自分の右腕に取り込み、五体満足の人間になった。
「ありがとう。自分を取り戻せた。僕はーーって名前があるんだ。君たちは?」
気づけば、体が光っていた。
「僕かい? 僕は」
自分の問いに中型犬がこたえる
「ウォン。機械犬の、ウォン」
「驚いた。本物じゃないんだね」
「訳があってね。こんな体に取り憑いて居るんだ」
「…?」
「やいやい! オレを忘れるな! オレの名前は」
「黙れ」
ウォンに押され、ぬいぐるみ、沈黙化。
「ぬいぐるみも似たような仕組み?」
「うん。そうだよ」
「やいやい! オレは、ピーコっつてんだ!」
『うるさい』
「ハイ…すみません」
「あははは…っと、時間がきたらしい。ありがとう」
やがて、僕は光のチリとなって、空へ逝った。
次から、ウォン視点で物語を進みます。




