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苺な姫と苦労の執事の夏休み  作者: キミドリ・さつき・杏
2/5

杏パート

「そういえば、苺を埋めた時の花屋の定休日って月曜日じゃなかったか?」


 林檎が、呟くように聖華に尋ねた。聖華(せいか)は手帳を見ながら答える。


「そうですね……誘いますか?」


「さ~んせい! 人数多い方が楽しいもんね!」


聖華の相槌に、苺が真っ先に賛成する。周りの皆も、異論を唱える様子はない。


「では、誘うか」


一行は大使館を後にした。




 二十分後。皐と萌を加えた七人は、到着したにもかかわらず未だにプールに入れずにいた。


「完全に想定外でしたね……」


「まさか場所取りできないなんて……」


 神華と優華が顔を見合わせる。


 そう、彼女らはあっさりと入れたにも関わらず場所取りができずにいるのだった。その上、美人・美少女揃いなため、かなり目立っていた。


 まず、苺星姉妹はそれぞれビキニとツーピース。苺は林檎と一緒が良いと言っていたが、ちょうど良いサイズが見つかるはずもなく、諦めて比較的色目の同じものを選んだ。


 神華は露出多めのタンキニ、聖華は露出の少ないタンキニ、優華はビキニにパーカーを羽織っている。


 皐と萌はお揃いのビキニ、もちろん色は水色とピンクだ。デザインが派手だからと、皐はTシャツを着ている。


「あの……」


 大人たち(メイドと林檎だ)が諦めようかと話していると、誰かが声をかけた。


「はい、なんでしょう?」


 基本的にこういう時の対応は神華の十八番だ。それは世話をしている莱夢が迷惑をかけた先に謝りに行ってばかりだからなのだが、今回はそれに関しては記さないでおくとしよう。


「よろしければ半分お使いになりますか? 主人と子供は戻ってきそうにありませんし、そちらのお嬢さん、しんどそうですよ」


 そちらのお嬢さんとは苺のことだった。


「まあ、構わないのですか? ご主人やお子さんが帰ってきてしまわれると狭いのでは?」


「大丈夫です、それよりお嬢さんが心配で……。それに、こう言っては何ですけど、あなた達のような綺麗な方たちが隣にいらっしゃるとなれば、主人も喜びます」


「そうですか。お気遣いありがとうございます。皆さん、こちらの方が場所を半分譲って下さるそうです」


 神華が声をかけると、皆口々に礼を言った。


「では、私は荷物番をするから遊んできなさい」


「えーっ、お姉さまとも遊びたいー」


苺が頬を膨らませたが時すでに遅し、林檎は折りたたみ椅子をスタンバイし、お菓子まで装備していた。


「日焼け止め、良かったら使ってくださいね」


 そう言って神華は鞄から日焼け止めを取り出した。


「良かった、日焼け止め忘れちゃったんです。全く、皐が急がせるんだから」


「えーっ、私のせい? てか、苺星の皆さんも日焼けするんですか?」


 神華は明後日の方向を向いている。それを見て日焼けしない事を悟ったが、皐も突っ込まないほどには大人だった。


「そうだな……聖華、皐と萌について行ってやれ。神華と優華は苺だ。ナンパを追い払ってほしいからな。自分達がナンパされないように気をつけてくれ。それぞれどこに行く?」


「わたしはあれ乗りたい!」


 そう言って苺が指差したのは、


「あれですか……」


「みたいですね……」


問答無用で『恐竜の滑り台』だった。そう高くもなく、傾斜も緩い、小さい子供たちが順番争いをしているアレである。


「……神華、優華。頼んだぞ」


 林檎も苦笑気味だが、止めるつもりは無さそうだ。


「「分かりました」」


 三人が行ったあと、萌が林檎に声をかけた。


「林檎さん、私達は流れるプールで浮いてることにします」


「分かった。聖華、二人を任せたぞ。というか主に皐だが」


「了解です」


「待ってください、なんで主に私なんですかぁー!」


 皐の悲痛なツッコミは華麗にスルーされた。


「行ってきまーす!」




 恐竜の滑り台のあるプールでは、苺が犬かきや滑り台に興じていた。そしてその横では、神華と優華がプールの端の方を陣取って世間話をしていた。


「目本の政治ってどんな感じなんでしょうねぇ」


「噂によると、毎年総理大臣を変えるという制度ができたとか」


「えっ? 目本の友達と文通してますけど、そんな話どこにも書いてなかったですよ」


「じゃああの噂は間違いなんでしょうか」


「案外、何もしてないのに信用なくして変わっちゃったのかもしれませんよ」


「確かに、ありえない話ではないですね」


と、こんな具合である。


 ふと、周囲を見回していた神華が名案を思いついたとばかりに立ち上がった。


「優華、私達でかき氷を食べませんか?」


「良いですね! 買ってきてもらっても良いですか?」


「分かりました。味はどうしましょう?」


「じゃあ、メロンでお願いします」


「はぁい」


 神華は売店の方へ駆け出していった。




 五分ほどして神華が帰ってくると、事件が起こっていた。


「みかでもゆーかでもどっちでも良いから助けてえええええええええええ」


 珍しく優華がプールの傍でおろおろしていた。どうやら苺が滑り台からうまく着地できず溺れてしまったらしい。メイド3で一番泳ぐのが得意なのは優華だが、救助が得意なのは神華なのだった。


「神華、苺様を!」


「はい、かき氷お願いします」


 そう言って神華が飛び込んだ。このプールは飛び込み禁止だが、それを完全に無視してしまっている。数十秒で、鮮やかな手際で苺を引っ張り出した神華が優華のもとに戻ってきた。


「苺様、大丈夫ですか?」


「ふにゃ……だいろーふ」


  苺が中途半端に噛むのは日常茶飯事なので、二人とも突っ込まなかった。


「よし、大丈夫ですね。優華、かき氷はどこですか? メロンがなかったのでレモンにしてしまったのですが……」


「それが……」


 少し困ったような表情をした優華が指差した先では、林檎がかき氷を食べていた。レモン味は食べ終わり、ブルーハワイ味を食べ始めている。


「あちゃあ……私のブルーハワイが……」


「おねーさまーかき氷ちょーだーい! 」


「ふむ……あーん」


「ふぇぇ、自分でたべれるぅ」


 メイド二人は、時にニコニコ、時に苦笑といった様子で二人を見守っていた。




 同じころ、流れるプールでも萌が溺れていた。


「皐のばかぁー……ぐすん」


 どうやら、皐が、流されていた萌が乗っていた浮き輪を勢いよく引っ張り、落ちてしまったようである。ちなみにこちらでは聖華が救助したようだ。


「萌さん、唐揚げ買ってきたのですがいりますか?」


「あ、ありがとうございます、いただきます。全く、聖華さんはこんなに優しいのに。皐ったら」


「比べないでよー、聖華さんはメイドだよー?」


「それでも同じ女の子としてどうなのよー」


 このままでは本格的な喧嘩に発展しそうなので、聖華が仲裁に入った。


「皐さんも萌さんも唐揚げでも食べて落ち着いてください」


 あっさり落ち着いた二人は、十分ほどで完食した。


「そろそろ林檎さんのところに戻りますか? ビーチボール持ってきたので、それでも遊びたいです」


 皐の提案に、二人とも頷いた。


「じゃ、早く戻りましょう」




「ただいま戻りましたー」


「お帰りなさい、早かったですね」


 皐の挨拶に優華が答える。


「皆さん、ビーチバレーしませんか?」


「やりたいな、ビーチバレー!」


 萌がビーチボールを出してきて言うと、苺が真っ先にボールを奪い取った。


「苺様、勝手に人のものを取っちゃいけませんよ」


 すかさず聖華が注意する。


「はーい、ごめんなさーい」


「良いんですよ。で、どうしましょう? どこでやりますか?」


「あのプールはどうでしょう?」


と、神華が指差した先には、比較的浅めの子供用プールがあった。


「ああ、良いと思うぞ。遊んでいる子供たちには少々申し訳ないがな」


「では、行きましょう」




「せーいかー、もっとちゃんと取ってよー!」


「す、すみませんっ」


「神華さーん」


「はいっ、皐さん! ……苺様、大丈夫ですか?」


「皆元気だねー……」


 たくさんいたはずの子供たちを皆流れるプールに追いやり(林檎流に言うと『もっと素敵なプールを教えてあげた』そうだ)、ビーチバレーを始めた七人だが、早速苺が暑さでダウンしてしまったようだ。


「この後お祭りにも行くわけですし、そろそろ退散しますか? 浴衣着なきゃいけませんし」


 聖華の提案に、皆頷いた。


「苺、行くぞ、ほら」


 林檎が体を揺するが、反応はない。どうやら眠ってしまったようだ。


「っと、仕方ないな……。リッカがいれば運ばせるのだが、今はいないしな。私が背負うことにしよう」


 林檎が背負おうとしているのを見て、急いで優華が声をかけた。


「林檎様、私が背負いますから」


「いや、お前たちでは潰れてしまうだろう。早く行くぞ」


 苺を背負った林檎と、分担して林檎の荷物を持った六人は、プールを出て行った。


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