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突風と鋼鉄

 正義と悪の境界線とは何なのだろうか。世界は腐敗し、強欲と強欲が激突する。人権などとうの昔に破り捨てられ、政治を行う者はこの新・日本に、一人。全てを一人で決め、全てを一人で実行する事ができる。しかし、そいつはカスだ。今にでも引きずり落とされるだろう。そのカスには、<欲>しかないのだ。馬鹿が、財力だけで俺に勝とうなど(今は負けているのだが)百年早い。俺は負けない。そして今日も『球体』と共にライバル達を俺は、消していくだろう。



 少女は呟く、人間は何故退屈すると独り言が漏れるのだろうか。頭に浮かんだその言葉になるかならないかの疑問には答えなかった。

「あーーーーーーーーー、暇ァ………」

 朝、十時三十分。この時間何もやることがないと、溜息ばかり出る。

 平日なのに学校がない。それ何十年前に決められた事か覚えている者はいないだろう。じゃあ何をしているかって聞かれると、車で大型ショッピングセンターに行くか、体を動かせる施設に行くかだ。外には行かない。というか行けないのだ。全く困ったものだ。少しでも開けた場所があれば、特殊な喧嘩が行われている。特殊というのは、喧嘩をしている人間の近くには必ず球体が取り巻いている、ということだ。それは絶対一個で、大きさはソフトボールくらいだろうか。しかし、喧嘩の最中でそれは球体を留めておらず、様々な形に変型している。まあ、それにも少しくらいは決まった形があるみたいだけど。その球体はギルドに入ればオーダーメイドで手に入るらしいが、私には関係ない。死にたくないし。

「出かけるか」

 その日出かけなかったらよかったとどれほど思ったことか。

 十七歳で、高校二年生ではないにしろ、バイクくらいは乗ることができる。ドアの鍵をわざとガチャンと大きな音をたたせて閉める。家の駐車場は使わず、自前の駐輪場に私のバイクが置いてある。家は一軒家でなかなか大きい方ではないだろうか。

 ふう、と意味も無く息をつき、バイクに跨がる。ブロロロ…と音を発してバイクを前進させる。邪魔なのでヘルメットはしない。進む道が軽快に過ぎる中、罵声と弾丸の銃声が耳に入ってきた。いつものことだ、馴れている。ギルドプレイヤーは球体を持っていない人間に危害を加えると…………何か罰があるらしい。それが何かは知ったことではないが、こちらが安全なのはこの上なく有り難いことだ。

 そうだ、カフェに行ってエスプレッソを飲んでから行こう。昔はよく通っていたカフェがある。何となく行きたくなったのだ。

「ここを右に曲がったら着くっけ?」

 意味も無く言葉を発して、自問自答した。

「ああ、着くよね」

 バイクをくねらせ右の道に曲がる。そこは、まさしく裏通りといった通路である。少し進むとすぐに古ぼけた看板が、無い。

「え?」

 その看板は、変わっていたのだ。なんと新品に。そこにはキッチリと『縞縞カフェ』が記されてあった。

 思わず、おお、と感嘆を漏らす。看板は木で作られているが、落ち着いた白と水色のペンキで塗られているので優しい可愛さに仕上がっている。店の外見はそんなに変わった部分は無いが、全体的に綺麗になっている気もしないでもない。店の前で少し入ることに恥ずかしさや、もどかしさを感じたが、せっかくここまで来たのだ別に恥ずかしがる必要などないと口の中で転がしながら、小さい階段を上る。丸いドアノブに手を掛け、ガチャリと右に回し、中に首を突っ込んだ。

「うわっ」

 中に人が沢山いる…。まあまあ広い店内なのに人口密度が高い。結構騒がしいのに、気が付かなかったのはかなり緊張していたからだろう。

「お、お嬢ちゃんなんか用かな?」

「え………、い、いや別に……な、何も……」

「何かありそうだな、新手の依頼人か?…まあいいさ。おっと、ここは騒がしいから上で話を聞こうか」

「いや、だから私は何も……!」

 気前の良さそうな外見をもつ、お兄さん的男なのだが、外見は外見だ。

 ざわざわと騒がしい人だかりをすり抜けて階段を上る。上は静かなようだ。上から下が見える構造になっていて、さっきの喧騒がまだノイズのように聞こえる。なぜかプラスチックのテーブルとイス二つが置いてあった。ここでありもしない話をするのだろうか。というか、ここに来る人間は相談ごとでもするのか。困った、疑問ばかり出てきて情報の収集がつかない。

「さあ、こっちだよ」

「え………」

 連れられたのは二階の横、隅っこにドアがある、そこだった。男はそのドアを開けて私を中に押しやった。

「え……、あなたは、誰…ですか……?」

「義也、何ですかこのチビ」

「な!初対面の人にチビって!」

「煩い」

「まあまあ。ごめんね、いきなりこんな事言わせちゃって。こいつ誰に対してもこの態度なんだよ」

 何なんだコイツ。見た目はひょろっとした青年といった具合で、真ん中分け(分け目にも毛はあるが)で変なくるっとした毛が一本頭のてっぺんがら飛び出ているという髪型だ。少し眠そうな表情は面倒臭い感を醸し出している。片手には、コーヒーカップ。

「こいつは、来端橙葉。お嬢ちゃんは?」

「わ、私は、竹島雫ノ華……です。あ、あなたは?」

「ああ、僕かい?僕は椎橋義也。このギルドカフェのマスターだよ。よっちゃんって呼んでもらっていいよ」

「え、そ、そんな……、って、ええ!?ギルドカフェ!?」

「ああ、そうだよ。数年前にここ辺一帯の住民をまもるために作ったんだよ。ちゃんとした正式なギルドだから安心していいよ」

「え…そうだったんですか。私が昔来た時には普通のカフェだったから少し驚きました」

「ん……、今何て言った」

 げ、と声を上げる。来端とやらめ、また意味のわからんところで口を挟みやがって。私がここに昔来たことがそんなに嫌か。

「別に、何も言ってませんけど」

「さっさと言えよ」

「だから、私は何も!」

「うーん、その話は僕にもしてくれないかな」

「椎橋さんまで!………といっても、昔ここに来たことがあるだけで、特別私がしたことなんて無かったはずですけど」

「いや、ここに来たことが重要なんだ。うちのギルドの情報屋に未来予知が少しできるヤツがいるんだけど、コイツが昔ここに来た女が来るとか言ってたんだ」

「ん、それだけ!?」

「いや、それだけじゃない。その女がまだ未知の属性を持っていると言っていた」

「わ、私はそんな属性なんてもってませんよ!他のギルドにもいってないのに属性なんてないんじゃないんですか?」

 今日は実に困った日だ。ゆっくりしようと思って来たカフェが、ギルドになっていることも合わせて大変な事になりそうだ。第一、ギルドの知識も無いのに話しについてける訳が無い。

「ギルドに入ったことがなければ属性が現れる訳ないじゃないか。じゃ、ちょっと待ってて検査するから」

「あ……」

 椎橋さんが行ってしまった。ということは、椎橋さんが帰って来るまで来端といなけばいけないと。どうしよう、話しでもすれば打ち解けてくれるだろうか。別にそこまでムカつく態度でもないし、さっきは自分の興味を示したし。

「ねえ、あなた」

「お前金属だな」

「はぁ?」

「ちょっと、こっちこい」


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